89話
アルカナとダンジョン周回によるレベル上げ、そして必殺技の開発をしているとあっという間に時間が過ぎ、早くも日付は6月14日――次の闘技場シーズンが始まる前日となった。
今回のオフシーズンはレイドダンジョンに挑戦したり、リアルイベントに行ってオフ会をしたり、クウさんが父さんだという衝撃の事実が判明したりもしていろいろと濃密だったからなあ、なんてちょっとひたったりもしつつ、恒例の闘技場挑戦前夜祭をするべく《ヴォワヤージュ=エトワール》のクランハウスへとやって来たのだった。
僕とアルカナがクランハウスに到着したとき、既に他のクランメンバーは集まっていた。
「こんばんは。あ、僕達が最後か。お待たせしてすみません」
「気にしない、気にしない!そんなことより見てよ新しいこの家具!」
ルピナスさんは明るく僕達を迎えて、座っていた椅子から立ち上がりテーブルを指し示す。
今までクランハウスに置かれていたテーブルはファンシーで童話のような全体の雰囲気に合っていたが少し小さめで、MEIさん用の王様の椅子のようなアニバーサリーキングチェアが浮いてしまっていた。
それがなんということでしょう、お城にあるような大きなテーブルが置かれ、僕達用の椅子もアニバーサリーキングチェアには劣るもののお城にありそうな立派なものに変わっていた。
「わあっ、さらに雰囲気出る感じになってますね!どうやって手に入れたんですか?」
「ふふふ、今度からボクは中級者ランクのプルミエでしょ?プルミエ用の装備を兼光くんに作ってもらうために素材集めしてたらついでに別の素材も貯まっちゃってさ、それをプレイヤーマーケットで売ったらちょっとしたG長者になっちゃってね。それで思い切って家具を新調することにしたのだよ」
ルピナスさんは自慢気に胸を張る。
「カカソーラさんも居住エリアの店で家具買ってただろ?そこの最高額商品がこの王宮風の家具シリーズってわけだ」
シリウスさんが補足をしてくれた。
そういえばあの店の商品リストの中に滅茶苦茶高い商品がいくつかあったような……
家具にそこまでお金をかける気にはならなかったのでよく見てなかったけどこういうものだったのか。
しかしあれだけ高い家具を目当ての素材の副産物を売っただけで買えるようになるものなら、僕の所持品リストに貯まっているレベル上げ用ダンジョン周回の副産物のドロップアイテムも売ればそこそこのお値段になるのでは?
「アルカナ、僕が持ってる素材でもルピナスさんみたいに大儲け出来る?」
「うーん、わたし達がレベル上げに使ってるダンジョンはそこそこやってるプレイヤーならみんな知ってるレベル上げの名所だから、そこのドロップアイテムはプレイヤーマーケットで溢れちゃってるんだよね。それでも量があるからそれなりの値段では売れるだろうけど」
「それなりかー」
ちょっとがっかり。
「ルピナスくんが売った素材は多分『希少布材』……人気のオシャレ装備を製作するのに必須の素材でしょう?あれは供給も多いですがそれ以上に需要が常に高いですからね」
「うん、それそれ。素材集めしてるときはそっちじゃない!ってなったけど、大儲けできたから結果オーライだね!!」
「本命の素材なかなか落ちませんでしたよね……調べてみたら希少布材の方がドロップ率は低いはずなんですけど」
MEIさんの解説を受けて、ルピナスさんと兼光くんが素材集めをしていたときのことを遠い目で思い出しながらそれぞれの感想を語る。
どうやらアルカナが前に言っていた物欲センサー……欲しいアイテムがあるとなぜかそれがなかなかドロップしなくなるという現象が起きてしまっていたようだ。
僕はまだ素材などをアルカナに頼っているのでDFOでは遭遇したことはないが、これまでプレイしてきた他のゲームで同じような目にあったことがあるのでその苦労はよくわかる。
「ルピナスさん達も大変だったみたいですね……でも準備は間に合ったんでしょう?」
「うん!だからこうして無事集まれたわけ。じゃあこの話はこの辺にして、恒例の今シーズンの目標発表始めようか?」
僕達はみんなうなずき、それぞれの席につく。
そしてクランマスターであるルピナスさんの司会で目標発表を始めた。
「まずはボクからだね。今シーズンの目標は……『勝率5割以上でプルミエランクを維持』にするよ」
「おや、ルピナスくんにしては志が低い目標ですね。昇格は狙わないんですか?」
MEIさんがニヤニヤしながらそう尋ねる。
今まで自分の目標が地味だとか言われてたもんね。
「うっ……だって調べた感じプルミエに上がると急にレベル上がるっぽいし……レイドに行ったとき間近で有力プレイヤーの実力見ちゃったし……」
ルピナスさんは気まずげに言い訳をする。
そういえばあのときはルピナスさんはBチームでミロさんやリッドさんと同じチームだったか。
「でも勝てるように全力は尽くすからね!というわけで、次はMEIさんの目標を発表して!」
「私は……『勝率7割以上に到達』にしましょうか。前回5割以上は達成できましたからね、少しずつでも高みを目指しますよ」
MEIさんはニワトリの着ぐるみを着ているからよくわからないが、おそらくドヤ顔でそう言った。
「ほうほう、いいんじゃない?じゃあ次は、シリウスでよろしくー」
「はいはいっと。俺はそろそろ行けそうな気がするから『プルミエ昇格』を目標にする」
「おっ、来たね!」
「シリウスさんならきっと大丈夫ですよ、前のシーズンもいい線いってましたし!」
ルピナスさんと兼光くんが目を輝かせてシリウスさんを応援する。
僕の目から見てもシリウスさんには十分な実力があると思うので、がんばってほしいところだ。
「まあぼちぼちがんばるよ。次……というか最後はカカソーラさんだな。まあもう言わなくてもわかってるようなものだけど」
シリウスさんがそう言うと、みんなの視線が僕に集まる。
それはもう、闘技場に挑むと決めたときから抱いていた目標に、ついに挑めるときが来たのだ。
僕は胸を張ってその目標を宣言する。
「はい、僕の目標はもちろん――『打倒クウさん』です!」
その言葉にルピナスさんと兼光くんは目をか輝かせ、MEIさんとシリウスさんは深くうなずき、アルカナは腕を組んでまぶたを閉じた。
「ついに直接対決が出来るわけですから、絶対に勝ってみせます!!」
「ついに、っていうほど時間経ってないけどな」
「超スピード昇格だよね」
「DFOを始めてからの時間も加味するとあっという間と言っていいでしょう」
ツッコミを受けてしまった。
ああそうさ、僕は生き急ぎまくってますよ!
「それだけカカソーラさんがすごいってことですよ!おれ、カカソーラさんなら勝てるって信じてます!!」
「兼光くん……ありがとう!」
そんな中素直な言葉をかけてくれる兼光くんのなんてありがたいことだろう。
絶対その期待に応えてみせるから、信じててね僕のファン1号。
「カカソーラさんなんか最近特訓くんのところでいろいろやってるもんね。あれでしょ、必殺技的なものを開発してるんでしょ?」
「えっ、ルピナスさん見てたんですか?……まあその通りですけど」
「必殺技!?それってどんなのですか、教えてくださ……」
「それは駄目だよ」
兼光くんの問いをアルカナが遮る。
「開発中の必殺技はエトワールを勝ち抜くための切り札だからね。みんなを疑うわけじゃないけど、出来るだけ情報は伏せさせてもらうよ」
「ほ、本格的ですね……!」
「いいじゃん、実際にお披露目されるのを楽しみにするよ」
そんな感じでみんなの理解も得つつ、こちらも恒例の記念のスクリーンショットを撮影して今回の闘技場挑戦前夜祭もお開きになった。
さあ、いよいよ始まる最高ランク・エトワール。
待ってろ上位ランカー達、そして待ってろ父さん!!




