88話
その後きっちりアルカナも言い過ぎたことを謝って、僕達は父さんとヴェントスさんと別れた。
そして過去の試合動画を一通り観て、この日はログアウト、おやすみなさいということになった。
最高ランクともなるとどのプレイヤーも自分の勝ちパターンを持っているのは当たり前、そこに持っていくために様々な工夫をしていた。
僕も何かこう、新しい必殺技みたいなものが作れればいいんだけど……そんなものが短期間で考えついて身につくはずもないので、今あるもの――リアルでの戦闘技術を使ってやりくりしていくしかないだろう。
ならば明日からの稽古もしっかりやらねばならない、僕は気持ちをさっと切り替えて眠りにつくことにした。
そして翌朝、いつも通りの時間に起床し日課の朝の稽古の時間。
準備運動を済ませたあと、今日の課題である剣術の稽古に入る。
最近お祖父ちゃんから教わっている花果無形流相伝の技は、もちろん剣術でも活かせる技術だ。
お祖父ちゃんと何度も打ち合って、実際にくらいながら少しずつその術理を学んでいく。
その基本は流れるように繰り出される息もつかせぬ連続攻撃、その中に仕込まれた「見せかけの隙」に気付かなければひたすらに打ちのめされ、気付いたとしても「見せかけの隙」を付こうとした動きがそのまま相手の隙となりとどめの一撃を打ち込まれる。
攻略するためには同等の密度で、全く隙のない攻撃――すなわち同じく相伝の技を身に付けていなければならない。
というわけで今日も途中までは受けきれたものの、次第に追いつけなくなってボコボコにされるのを繰り返しましたとさ。
「よし、朝の稽古はここまでだ。どんどん動きが良くなっているぞ」
「ぜぇ……はぁ……ありがとうございました……」
ボコボコにされた体をなんとか動かして礼をする。
対するお祖父ちゃんは汗をかいてはいるもののまだまだ元気そうな雰囲気。
これでも少し前までの汗もかかずに余裕でボコボコにされていた頃よりはマシになったのだが、全く元気なお祖父ちゃんである。
「動きが良くなったって言われても、この有り様じゃ中々実感できないかな……父さんや兄ちゃんはもっと上手く覚えたんだろうし……」
「何を言っている、天」
僕がこぼした弱音に、お祖父ちゃんは心外そうに答える。
「この技は相伝、後継者のみに教える技だと教えただろう。花果無形流を継ぐ気がなかった空や晴、もちろん風にもこの技は教えていない」
「えっ、兄ちゃんや風伯父さんはともかく、元気だった頃の父さんにも?」
「ああ。あいつは『強くなりたいけど流派の看板背負ったり後継者を育てるのは面倒だから嫌』とか舐めたことを言ってたからな。俺が武術仲間との試合で相伝の技を使うところ自体は何度か『見た』だろうが、教えようとしたことはないし実際にあいつに受けさせたこともない」
「そうなんだ……」
つまり今僕は元気だった頃の父さんや運動不足じゃなかった頃の兄ちゃんを越えられるかもしれないところにいるってことか。
そしてお祖父ちゃんはちゃんと僕だけを後継者と見込んで指導してくれているということで。
うん、これは一層やる気が出てきたぞ。
「よし、がんばってこの技を絶対にものにしてみせるよ、師範!」
「ああ、その意気だ。じゃあ着替えて朝食に行くぞ」
「うん!!」
気合いの入った僕は朝ご飯でいつもより一杯多くごはんをおかわりして、意気揚々と学校へと向かったのだった。
*
つつがなく授業を終えて帰宅して、夕食までのメインの稽古の時間。
朝に入った気合いはもちろん維持されていて、僕はお祖父ちゃんと1対1での稽古に勤しんだ。
まあ少し気持ちが入ったからといってそうすぐに成果が出るものでもないのだが、それでもただボコボコにされていると思ってやるよりも自分だけの奥義を身につけるためにボコボコにされていると思ってやった方が上手くいくものである。
充実した稽古の時間を過ごして、少しだけでも確かに進歩していることを実感しながらメインの稽古の時間も無事終える。
そしてリアルの生活を充実させたあとは、ゲームの世界――DFOでの充実した時間を過ごす番である。
今日もアルカナと一緒にレベル上げのためのダンジョン周回をするべく、一緒にDFOにログインしドラゴニアの世界に降り立つ。
「よーし今日もファイト一発!がんばっていこう!!」
ミラクルドリンクをごくごく飲み干す僕を見て、アルカナはちょっと不思議そうに尋ねる。
「なんか今日は妙に気合い入ってるね?なんかいいことでもあったの?」
「いいことっていうか、今リアルの稽古の方で奥義的なものを教わってて……」
僕はアルカナに父さんも兄ちゃんも教わっていない技を教えてもらっている最中だと説明した。
「なるほど……それ、もしかしたら闘技場で勝ち抜くための新技として使えるかもね」
「うーん、そう出来たらいいんだけど……まだちゃんと身についてないからなぁ」
「天にはまだ無理でも、『カカソーラ』ならなんとかなるかもよ?」
「……どういうこと?」
首をひねる僕に、アルカナはにっこり笑ってこう返した。
「詳しいことは今日のレベル上げノルマをこなしたあと、クランハウスの庭の特訓くんで試してみよう。さあ、ダンジョン周回行くよ!」
「わかった、ささっとダンジョン周回済ませちゃおう!」
そうして僕は疑問を一旦わきにおいて、レベル上げへと向かうのだった。
しばらくダンジョン周回を繰り返して、今日のレベル上げノルマも無事終了。
始める前に言った通り僕達はクランハウスの庭、特訓くんが置いてある隅っこのところにやって来た。
「……で、『カカソーラ』ならなんとかなるかもってどういうこと?」
「それはね、最近DFOで体を動かすことにも慣れてきたから忘れてるんだと思うけど、プレイヤーキャラクターの身体能力は現実の人間の身体能力よりも高く設定されているってこと」
「あ……そうか!」
僕がいわゆる『VR適正』――現実での肉体と異なるVR世界での肉体を操作することが自然に出来る体質であることも相まってすっかり忘れてしまっていた。
花果天よりも速く、力強く、そして疲れ知らずのカカソーラの身体能力なら、現実ではまだ使いこなせていない相伝の技もちゃんと使いこなせるかもしれない。
「確かに、いけるかも!ちょっとやってみる!!」
「うん、やってみて」
僕は特訓くんに向き合い、武器を構えて深呼吸をする。
お祖父ちゃんの動きを思い出しながら呼吸を整えて、一歩踏み出し技を繰り出す!
それはいつもより速く、流れるように、正確に最後まで繰り出すことが出来た。
ゆっくりと武器を収め、再び僕は深呼吸をする。
「……どう?」
アルカナが心配そうに僕に問いかける。
僕は気持ちを整えながら、ゆっくりとその問いに答える。
「多分だけど……出来た」
興奮する気持ちをなんとか抑えながら、僕はさらに続ける。
「このままだったらただの通常攻撃の連打だけど、似た動きの戦闘スキルの入力動作を当てはめれば、とんでもなく強力なコンボが作れる……!もちろん相伝の技の肝である『見せかけの隙』も残したまま!すごい、これならいけるかもしれない!!」
「わあ、やったね!!だったら早速、戦闘スキルの組み合わせの吟味に入ろう!」
「うん、ありがとう。君が『カカソーラならなんとかなるかも』って言ってくれなきゃ気付けなかったよ!」
僕とアルカナは大はしゃぎで発見してしまった必殺技の開発に勤しんだ。
なにしろこれは父さんも教えてもらっていない技、強力な武器になるぞ!!




