87話
フレイさんに改めて装備品のお礼を言って、僕とアルカナはフレイさんと兼光くんから別れてノルマのレベル上げへと出発した。
現在のDFOでの最高レベルである80まで解放された闘技場最高ランク・エトワールではアルカナのように全ての職業を最高レベルまで上げている猛者もいるらしい。
そんな人達と少しでも対等に近い条件で闘うために、僕も出来る限り多くの職業のレベルを上げて使える汎用スキル――手札を増やしておかなくてはならない。
さらに覚えた戦闘スキルの性能をしっかり把握する必要もあったが、こんなときにまたまた頼れるのがアルカナだった。
新しく覚えた戦闘スキルの性能、現在発見されている使い道を詳しく説明し、ダンジョン周回の中で実際に使い心地を試す機会もくれるのだ。
「その魔法は一見高威力だけど発動時間と消費MPが大きいからコスパが悪いんだよね。これまでに覚えてきた消費MPの少ない魔法を連発したほうが最大ダメージは基本大きくなるよ。ただし、敵の魔法耐性によってはそれを使ったほうがいい場面もあって……」
「ふむふむ、発動時間は【マジックバレット】で踏み倒せるけど消費MPはそうはいかないもんね」
こんな風に戦闘スキルの使い道を考えながらレベル上げも出来て、かなり効率よく戦力を増強出来ていると思う。
そして今日のノルマもきっちりこなしたところで、寝るには少し早い時間になった。
「ふう、今日も順調だね。残った時間はどうしようか?」
「そうだね……MEIさんが送ってくれた動画だけじゃ一人一人を細かく分析するのには足りないから、闘技場に行って過去の試合動画を観るのはどうかな?」
「いいね、そうしよう!」
というわけで、僕とアルカナは闘技場へと向かった。
闘技場はシーズン中ではないので人はあまり多くないが、それでも僕達のように過去の試合動画から情報収集をするためにやって来たプレイヤーがちらほらいる。
そして今日はその中に父さん――”絶対王者”クウさんもいた。
父さんはどうやらいかつい鎧に身を包んだヒューマン――ヴェントスさんと会話しているようだった。
会話に割り込むことに少し戸惑ったが、せっかくなので僕は父さんに話しかけてみることにした。
「と……クウさん、こんばんは。試合動画のチェックしに来てたの?」
すると闘技場内が騒然となった。
「おい、カカソーラがクウに声をかけたぞ!」
「話題のそっくりさん2人がついに接触か!?」
「ヴェントスとアルカナまで一緒にいるじゃないか、すごい顔ぶれだ……」
そういえばみんな有名プレイヤーで、僕もそこそこ注目されるようになってきたんだった。
ちょっと居心地の悪さを感じつつ、できるだけ気にしないようにして父さんの返事を待つ。
「おお、そ……カカソーラにアルカナちゃんか。試合動画のチェックはさっき終わったところで、今はたまたま一緒になったこいつ……ヴェントスと雑談してたんだ。ヴェントス、紹介するよ。今話題の”闘技場のニューヒーロー”カカソーラとその相方のアルカナちゃんだ」
「どうもはじめまして、カカソーラです」
「相方っていうか、パートナーっていうか……まあアルカナです。よろしくお願いします」
紹介されたのでヴェントスさんに挨拶をすると、ヴェントスさんは驚いたような顔をしつつ挨拶を返してくれた。
「どうも、ヴェントスだ。こちらこそよろしく……クウさん、やっぱりカカソーラさんは身内だったのか。しかもあのアルカナさんとも知り合いだったとは、闘技場絡み以外でDFOの知り合いはほとんどいないって言ってませんでしたか?」
「うーん、アルカナちゃんも半分身内みたいなものっていうのかな。それよりカカソーラは今から試合動画をチェックしに来たんだろ?」
「うん、エトワールの上位ランカー……特にヴェントスさんの対策はしっかり立てなくちゃと思って」
僕の答えに父さんは満足げに微笑む。
「よしよし、敵を知り己を知るのは勝負の基本だからな。よし、せっかくだから俺がヴェントスの情報をいくつか教えてあげよう」
「えっ、いいの!?」
父さんの目から見たヴェントスさんの特徴、それは試合においてとても有益な情報になるはずだ。
わくわくしながら待っていると、父さんは少しもったいぶってから口を開いた。
「ヴェントスのマル秘情報……女の子の趣味があまり良くない」
「……へ?」
思わずぽかんとすると、ヴェントスさんが低い声でツッコミを入れる。
「クウさん、何を言い出すかと思えば……俺はともかくハティちゃんの悪口は許しませんよ」
「ハティちゃん……っていうと『ソードバレル』のヒロインの?」
アルカナの発言で僕は『ドラゴンファンタジー』シリーズの一作で僕の一番のお気に入り、『ソードバレル』のヒロインのことを思い出す。
僕は『ソードバレル』のことが本当に好きなのだが……実はこのヒロイン・ハティちゃんにだけは微妙な気持ちを抱いているのだ。
悪い子ではないのだがこのハティちゃん、ただひたすらに空気が読めずウザい子なのである。
良く言えばいつも明るさを忘れない、となるのだがプレイヤーたる僕から見ればシリアスな雰囲気をぶち壊しにするキャラクターで、ハティちゃんを助けるために主人公達が命を賭けなければ行けない場面ではぶっちゃけ嫌だな……となったりした。
僕以外の多くのプレイヤーにとっても同じ印象だったようで、「成熟した精神性を持ったキャラクターとは思えない」という理由で幼児のようにちゃん付けして呼ぶことが定着しているくらいである。
「ハティちゃんのこと、好きなんですか……?」
「なんですかその信じられないようなものを見るような目は!?ハティちゃんはいつも元気なかわいいムードメーカー、『ソードバレル』の魅力の1つでしょう?」
信じられないものを見てしまった。
『ソードバレル』を実際にプレイして彼女にそんな印象を抱くプレイヤーがいたとは。
あ、よく見たらヴェントスさんが連れている使い魔、ハティちゃんを二頭身にデフォルメしたマスコットキャラクターじゃん!
「な?こいつ女の子の趣味が悪いだろ?」
「それは……確かに……」
「『ドラゴンファンタジー』シリーズ三大悪女の一角をそんな風に見てる人がいるなんて……」
僕とアルカナは思わず父さんの発言に深くうなずく。
「納得しないでください!っていうか三大悪女って呼び方本当にやめてくれません!?百歩譲ってハティちゃんが人気のないキャラクターだって認めても、悪女ではないでしょ!?」
それはそうなんだけど……
悪意なくいろいろやらかすところが逆に真の邪悪っていうか……
「そうだね、三大悪女に数えられる他の2人のキャラクターは悪役だけど強烈なインパクトから人気投票上位にも入ってくる名悪役だもんね。ハティと一緒にするのは良くなかったかも」
「そういう方向じゃなくて!ハティちゃんを悪く言うのをやめてください!!」
アルカナの反省の言葉、もとい煽りにヴェントスさんは憤慨する。
僕の感覚では全く理解できないが、ヴェントスさんは本当にハティちゃんのことが好きらしい。
そうなるとこれ以上この話題を引っ張るのは良くない。
僕も他の人にアルカナ――秘ちゃんの悪口を言われるのはそれが事実だったとしても嫌だしね。
「すみません、人の好きなキャラクターに対して言い過ぎました」
僕が頭を下げて謝ると、ヴェントスさんは少し落ち着いてくれた。
「まあ、謝ってくれるならいいですけど……俺もこれから闘技場で競い合っていく相手とあまりギクシャクしたくないですからね」
「うんうん、みんな仲良く高め合っていきたいよな」
「いや、この話題始めたのあんたでしょクウさん!!!」




