86話
あるるかんさんの試合は一言でいうとめちゃくちゃだった。
MEIさんが添付してくれた動画の前半ではエトワールのランキング下位の侍との試合の様子が映し出されており、後半ではエトワール不動の2位・ヴェントスさんとの試合の様子が映し出されていたのだが、まるで同一人物の動画とは思えなかった。
前半では副職業の一つ・芸人の効果で無意味に派手なエフェクトをばらまいたり、おどけた仕草で試合相手の攻撃をもろにくらったりしたかと思えば、急に攻勢に移って手痛い反撃をくらわせる。
そして最終的には死神のHPを削って相手の能力値を下げる専用スキル【血の供物】を利用して自滅する(ここでも芸人の効果で自爆したかのようなエフェクトを入れている)というやりたい放題っぷり。
ぶっちゃけ闘技場を馬鹿にしているとしか思えない闘い方だった。
しかし、後半のヴェントスさんとの試合を観るとその印象は覆される。
戦士の斧と死神の大鎌、間合いが同じくらいということもあるだろうが、お祖父ちゃんの異次元の戦闘能力を見慣れている僕の目から見ても優れた動きをするヴェントスさんを相手に、あるるかんさんは互角の闘いを繰り広げていた。
これがあるるかんさんの実力だとすると、動画の前半の試合も見え方が違ってくる。
本気で闘っている相手の攻撃をどれをかわしてどれを受けるべきか瞬時に見極めて受け切り、見た目が一番滑稽になるようにエフェクトで演出をし、最高のタイミングで自滅して見せている。
相当な実力差がなければ出来ない芸当である。
「この人、ふざけてるけど強い……!」
「この順位、格下相手にはわざと負ける代わりに上位ランカー相手には本気を出して勝つことで一気に勝ち点を稼いで、エトワールから降格にならないギリギリのラインを狙って維持してるってわけだね」
おそらくアルカナの予想通りだろう。
そうなるとわからないのはあるるかんさんが一体何が目的で闘技場でこんなことをしているかだ。
ヴェントスさんとの試合はあるるかんさんの敗北に終わったが、わざと負けているときの演出にかける努力を全て実力の向上に当てれば勝てるようになるんじゃないかと思えるほどに強かった。
真面目にやれば父さんに勝つのは難しくても、2位の座は夢じゃないのにどうしてあんなふざけた真似をするんだろう?
「うーん、何がしたいのかわからなくてちょっと不気味な人だな……」
「ちょっとあるるかんさんのこと調べてみようか。これだけ目立つ試合をやってるなら闘技場関連のところで話題になってるだろうし、もしかしたら本人もなにか発信してるかも」
そういうわけで、2人で少しネット上を検索してみた。
すると見つかったのはそこそこ賑わっているあるるかんさんファンスレと、それ以上に賑わっているあるるかんアンチスレ。
ファンスレの方では「エンターテイナー」、「闘技場の盛り上げ役の1人」、「陰の実力者」などと呼ばれてあるるかんさんの試合は闘技場に新たな楽しみ方を増やしたものとして好意的に受け入れられていた。
一方アンチスレの方では僕と同じように闘技場のあり方を無視してふざけていると感じている意見を始めに、「礼儀知らず」「クウに絶対に勝てないからって諦めたやつ」「運営はこいつを闘技場を追い出せ」などと避難する意見が並び、ちょっと見るに耐えない罵詈雑言も並んでいた。
興味深かったのはアンチスレの方にあるるかんさん本人がしたと思われる書き込みがあったことである。
推定あるるかんさん曰く、自分はPvPでしか出来ないエンターテイメントを目指しているだけ。バグやツールの使用をしておらずルールを守っているのだからその範囲でどう振る舞ってもそれぞれの自由だ。勝利と敗北だけが闘いの全てだという固定観念を捨ててワタシの試合を楽しんでくれたまえ……とのこと。
確かに公式が定めている闘技場のルールの中にあるるかんさんの行為を直接禁止するものはない。
団体戦では勝利を放棄した行動――利敵行為をするメンバーを除名する処置が取られることもあるようだが、個人戦では損をするのは本人だけなので罰則はないようだ。
「やっぱりわかんない……闘技場で勝ち負け以外の楽しめることってなんだろう?」
しかし僕には推定本人の意見を聞いても、何がしたいのか理解することは出来なかった。
「要するにプロレス的な、試合を観るだけの人も楽しめる方向を目指してるんじゃないかな?ほら、*あゆぴっぴ*さんだってアイドル的なパフォーマンスやってたし」
「でも*あゆぴっぴ*さんは勝つためならアイドルっぽくない戦略でも使って、試合中にわざと攻撃をくらったりなんかはしなかったよ。勝利を目指す、っていう基本的なことをないがしろにしてまでやりたいことかなあ……?」
プロレスに関しては立派なエンターテイメントだと思うし、プロレスラーのみなさんの興行を盛り上げるために積み重ねた努力は素晴らしいものだと思うが、それでも面白さは感じない僕だった。
勝ち負けが決まっていない中で、どんな弱い人だって最強を目指して努力し挑む権利はある。
それが「勝負」の面白いところで、真髄なんじゃないだろうか?
どんなに実力があっても、勝利を目指すのをやめてしまった人間に挑む権利はもう無い気がするのだ。
「きみの違和感もわかるよ。でもDFOは裾野が広いゲームだから、こういう変な人が混ざってくるのもアリなんだよ。多様性ってやつだね」
「多様性かなあ……」
まあ運営が禁止していないことをとやかく言うのはそれはそれでマナー違反か。
本当に問題に思うんならアンチスレなんかじゃなくて公式に意見を送るべきなんだし。
そんなことを話していた辺りで、フレイさんが声をかけてきた。
「おーい、カカソーラさん用の装備完成したぞ。はよ持ってけー」
「あっ、今行きまーす」
一旦ウィンドウをしまい、フレイさんと兼光くんの方に僕達は戻る。
そしてパンデモニウムシリーズの装備一式を受け取り、早速装備してみた。
銃剣士用のパンデモニウムシリーズの見た目は全身鎧ではあるものの細身の造り、そして赤紫色の凶々しい見た目が特徴的だった。
ちょっと僕の趣味には合わないので今回もぱぱっとマジックスキン機能を使っていつもの格好に変更である。
ステータスの方は防御面を十分に確保しつつ、MPと知力にもボーナスがもらえている。
「どうだ、新しい装備の感想は?」
「いい感じです、フレイさん。今回もありがとうございました!」
「そりゃ良かった。ところでマジックスキンで変えた見た目の方なんだけどよ、そろそろ変えてみたいとか思わないのか?材料用意してくれたら製作系のオシャレ装備も作ってやるぜ」
新しいオシャレ装備。
ちょっとそそられるところがないわけでもないが、ここは丁重にお断りしておく。
「大丈夫です、このオシャレ装備はアルカナからもらったものなんで……アルカナの希望がなければこのまま大事に使っていくつもりです」
「はいはい、そうですか。ごちそうさまー」
「カカソーラさん!アルカナさんがなんかくねくねと奇妙な動きを!!」
アルカナはボクの発言がうれしかったのか、悶え苦しむかのような動きをしていた。
「うれしい、けど……そんなに気に入ってもらえるならもっと厳選したオシャレ装備プレゼントした方が良かったかも!?」
「ははは、あんまり高い課金装備は受け取れないからね?」
「わかってるよ!でもプレイヤーマーケットで手に入るオシャレ装備でまた新しいの探しとく!!」




