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82話

「あなた、みんなでお見舞いに来たわよ」


 母さんがそう声をかけながら父さんの病室に入ったとき、父さんは看護師さんと何か相談をしているようだった。

そう、僕の知っている範囲ではしゃべることも難しかった父さんが、ベッドの上で体を起き上げ、看護師さんと普通に会話していたのである。


「おじいちゃん、のどか来たよ!」


 驚いて呆気に取られている僕をよそに、のどかちゃんは無邪気に父さんへと駆け寄る。

それに対して父さんは穏やかに微笑み、のどかちゃんの頭を撫でてよく来たね、と迎えるのだった――頭を撫でる手の動きはぎこちなかったものの、間違いなくちゃんと動いている。


「今日は本当にみんなで来たんだなぁ。兄さんや天もいるなんて珍しい」


 そう言いながら父さんは今度は僕に向かって咲いかける。

僕はようやく我に返り、ちょっと慌てながらそれに答えた。


「うん……あんまり来てなくてごめん。だからすごく良くなってて驚いちゃった」


「本当になぁ、すっかり良くなってるじゃないか。例の……VR治療法だったか?すごいもんだな」


 少し気まずい僕とは違って、風伯父さんは気安くそう言った。

まあ風伯父さんは元気な父さんの方こそ基本だったろうし、今の状態を見ても違和感よりも良くなった喜びが大きくて当たり前だろう……いや、待った。

VR治療法ってどんなんだ?


「VR治療法……?」


 僕が思わず呟いた疑問に、看護師さんが反応してくれた。


「これから担当の医師を呼んで今後の相談をしますから、そのとき空さんに行った治療法についても改めて説明させていただきます。今から呼んできますから、少し待っていてください」


 そう言って看護師さんは病室を去っていった。

その姿を追って扉の方を眺めている僕に、兄ちゃんが簡単な説明をくれた。


「聞き流してたみたいだけど前にちょっと言っただろ、父さんが受けてる新しい治療法は神経刺激インターフェースの技術の応用だって。VR機器を使って神経組織を刺激することで不具合を起こしていた部分を再活性化してたんだってさ」


「そういえばそんなこと言ってたような、言ってなかったような……」


「いい方は難しいけど、要はこれを使って体を動かす感覚を取り戻したっってことさ」


 いまいちよくわかっていない僕に、父さんがベッドの傍らにある引き出しからあるものを取り出して見せてきた。

そのあるものとは、なんと僕にとってもおなじみのものだった。


「これって……ダイブ・ギア!?」



 その後病室にやって来たお医者さんの説明をまとめるとことはこういう次第だった。

あらゆるVR機器に標準搭載されている神経刺激インターフェースが父さんの罹っている難病に有効だということが判明したとき、最も治療に適したVR機器を開発すべく世界各国、あらゆる分野の研究機関・メーカーの機器を比較したところ、日本のゲーム会社の開発したゲーム用VR機器――ダイブ・ギアが新たに開発する必要もなく最高の条件を満たしていることが判明した。

最初はゲーム会社と共同で治療用のソフト――日常の動作を反復練習することでゆっくりと神経組織を刺激するものを治療に用いており、それでも従来の治療法からは考えられないほどの効果が出ていたのだという。


 しかし劇的な変化が起きたのは治療開始から数ヶ月後、看護師の提案で父さんに気分転換として一般的なダイブ・ギア専用のゲームソフトを遊んでみるように提案したときだった。

人気のタイトルがいくつかピックアップされた中で父さんが選んだのは『ドラゴン・ファンタジー・オンライン』――そう、DFOだった。

父さんは『ドラゴン・ファンタジー』シリーズ2作目、『レイピア』の直撃世代だったのである。

父さんの気持が滅入らないようにちょっとした気分転換として始められたDFOの旅はとんでもない効果をもたらした。

バトルでもたらされる激しい動き、ギリギリのせめぎあいがもたらすスピード感、それが父さんの神経組織を強く刺激し、治療用ソフトによる効果をさらに上回る快復につながったのである。


 これが元々武術をやっていた父さんだからこその効果なのか、普遍的に現れる効果なのはまだわかっていないそうだが、とにかくここ2年間ほど父さんはDFOをひたすらプレイすることで治療を進め、今目の前にあるようなすっかり元気な姿となったのだという。

この調子なら年内に退院し、日常生活に戻ることが可能らしい。


「そんな、まさか父さんもDFOをやってたなんて……もしかしてお祖父ちゃんがVRゲームにちょっと興味持ち始めてたのって……」


「あれはまあ武術仲間がやってたのが大きいが、最初に興味を持ったのは確かに空の治療法について説明されたときだな」


「実はお前がダイブ・ギアと『ドラゴン・ファンタジー・オンライン』欲しがったときは後々父さんと距離縮めるのに役立つだろうなってしめしめと思ってた」


「そうだったの!?」


 兄ちゃんの告白にも衝撃を受ける僕を家族のみんなが微笑ましく見守る。

父さんとの距離感にちょっと悩んでるのお見通しだったわけか……流石家族だ。

ちょっと気恥ずかしい僕に、父さんはにこにこ咲って見つめながらこう尋ねた。


「夜空んとこの秘ちゃんと一緒にやってたんだって?どこまで進んだか教えてくれないか?」


「あー、僕はちょっと闘技場にのめり込んでるからメインクエストはあんまり進んでないかな。父さんはもう2年くらいやってるならかなり進んで……」


「闘技場!?」


 父さんが驚いて僕の言葉を遮る。


「実は父さんも闘技場ばっかりやってるんだ。そうか、親子で同じものにハマってたんだな……」


 そういう父さんの声はなんだかうれしそうで、そんな風に喜んでもらえると僕までなんだかほっこりとした気持ちになった。


「あらあら、見た目だけじゃなくて趣味までそっくりなのね。じゃあ2人ともどこかですれ違ったりしてるんじゃない?」


 母さんがくすくす笑ってそんなことを言った。


「どうでしょう、闘技場に参加しているプレイヤーもけっこう多いでしょうし。それに始めたばかりの天くんとそれなりにやり込んでいるお義父さんじゃ別のランクにいるはずですから」


「そうなの?でももしかしたらってことがあるんじゃない?2人はどんな名前でゲームやってるの?」


 日向義姉さんの思ったより詳しい知識での否定をよそに、母さんはさらに突っ込んで聞いてくる。

まあ僕は秘ちゃんのサポートのおかげで今回エトワール昇格まで行けたわけだし、父さんとすれ違っている可能性は確かにある。


「僕はカカソーラって名前のエルフのキャラでやってるよ、父さんは?」


「父さんはそのままクウって名前でお前と同じエルフのキャラを使ってるよ」


 へぇ、そのまんまなんだ。

種族も一緒とはすごい偶然……待て、待て待て待て待て。


「……父さん、もしかして見た目は自分そっくりな感じにしてたり?」


「ああ、髪の色は金髪にしてちょっとだけ髪型も変えたけどだいたい一緒だな」


 父さんは成人している息子がいるにしては若々しい、僕とそっくりな顔に笑みを浮かべてそう答えた。


「……メインで使ってる職業は拳聖(カンフーマスター)で、ランクは最高ランクのエトワールだったり?」


「かなり具体的に予想してるな、天。やっぱりどこかですれ違ってるのか?」


「ははは、すれ違ってはなくても闘技場ばっかりやってるならまあDFOでの俺のことは知ってるよな。お前の考えてる通り、父さんが闘技場の”絶対王者”クウだよ」


「え、ええええええ!!!!????」


 憧れのクウさん=父さん。

いや、言われてみれば名前と見た目があからさまなんだけど!

それにしたってこんな……嘘でしょ!?

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