81話
その日の夜、DFOにログインした僕とアルカナはまずクランハウスへと向かった。
今日のオフ会とDFOファン感謝祭の話をしたかったのもあるが、メインの目的は次の闘技場シーズンへ向けた作戦会議だ。
僕が最高ランクのエトワール、ルピナスさんが中級者ランクのプルミエに昇格したので上位ランカーの研究により力をいれるべきという考えをアルカナは提案するつもりらしい。
というわけでクランハウスに集まった《ヴォワヤージュ=エトワール》のメンバー。
はじめにオフ会の話題で盛り上がったあと、アルカナが提案を告げる。
「ふむふむ、確かにそうかも!」
「エトワールはクウを抜きにしてもそれぞれが飛び抜けた一芸を持った猛者揃いらしいしな」
ルピナスさんとシリウスさんがアルカナの提案に賛同する。
MEIさんもこくりとうなずき、こんな申し出をしてくれた。
「では、ひとまず私が情報収集して優先的に研究すべき上位ランカーを見繕っておきましょう。その間みなさんは次のシーズンに向けて技術の向上……カカソーラさんはレベル上げもですね。それに励んでいて下さい」
「いいんですか?とてもありがたいですけど……」
「ええ。私は実際にプレイするよりもそういった情報の収集・分析の方が得意なようですから、それぞれの得意分野でクランに貢献するということで」
「助かるよMEIさん!ボク達も今度MEIさんの特訓付き合うからね!!」
ルピナスさんが背伸びしてMEIさんの着ぐるみ頭を撫でながら感謝の言葉を告げる。
それぞれの得意分野で、か。
ならば僕もしっかりレベル上げと特訓をして結果を出そうと改めて気合いが入る。
兼光くんもそう思ったのか、やる気のこもった声でこう言った。
「おれも生産担当としてがんばります!エトワール用の装備は流石に師匠を頼らないといけませんけど、プルミエ用の装備ならもうバッチリです!!」
「おー、頼りになるね兼光くん!じゃあ素材用意してくるからボクの装備よろしくね」
「カカソーラ用の装備の素材は引き続きわたしに任せて。それじゃあ今日のところはわたしとカカソーラがレベル上げ、ルピナスさんとシリウスさんは装備の素材集め、MEIさんは情報収集かな。兼光くんはどうする?」
「おれは……素材集めに同行します。自分でもレア素材集められるようになりたいので!」
おお、兼光くんは本当にやる気満々のようだ。
そんな姿を見ていると僕のやる気もさらに上がってしまうし、他のみんなも同じらしい。
「それじゃあ次の闘技場シーズンに備えて、《ヴォワヤージュ=エトワール》、気持ちを新たにがんばろう!!」
「おー!!」
ルピナスさんの音頭にみんなで声を合わせて答え、僕達はそれぞれのやるべきことへ向かった。
*
気合いを入れてがんばった翌日でもリアルの生活はやって来る。
僕はきちんといつも通りの時間に起きて、朝の稽古へと向かった。
朝の稽古は師範であるお祖父ちゃんと2人きり、充実した稽古をしっかりとこなして体を鍛え上げる。
それからシャワーを浴びて朝食に向かったとき、いつもと違うことが起こった。
「天、今日は学校から帰ったらみんなでお父さんのお見舞いに行くわよ」
母さんがこんなことを言いだしたのだ。
「え……行くのは問題ないけど。どうしたの、もしかして何かあったの……?」
不安になってそう聞くと母さんは首を横に振ってこう答えた。
「逆よ。かなり良くなったから今後の相談も兼ねて家族のみなさんは見に来て下さいって言われたの。天ったらちっともお見舞いに行かないからそんな勘違いしちゃって」
「あはは……悪くなってないなら良かったよ。じゃあお祖父ちゃんとお祖母ちゃんも一緒に行くんだよね?」
「ええ、風ちゃんと晴ちゃん達も病院で合流するわよ」
お祖母ちゃんがにこにこと答える。
風ちゃんとは僕の伯父、つまり父さんの兄であり独立している花果風伯父さんのことである。
「久々の一家全員集合だね。わかったよ、今日はお見舞いね」
そうして朝食を食べ終えた僕は、少し落ち着かなかったのでいつもより早めに学校へと向かった。
そんな気持ちのまま午前中の授業を受けていてもあまり集中できず、頭の中には父さんのことが浮かんできてしまうわけである。
僕にとって父さんという人は物心付く前に入院してずっと寝たきり、それを面倒だとか大変だとか感じたことはないが、家族というにはちょっと遠い人だった。
母さんや兄ちゃん達に元気だった頃の話もよく聞かされたが、そこから伝わってくるのは父さんの人となりよりも母さん達がどれだけ父さんのことが好きかという方で、僕が感じている父さんとの距離感は中々縮まることはなかった。
そんな人が、すっかり良くなってもしかしたら退院して返ってくるかもしれない。
さてさて、どうしたものか……
僕は思い切って、その辺の心の内を秘ちゃんに相談してみることにした。
「おじさんに対してちょっと距離あるのは知ってたけど、そのことちゃんと気にしてたんだ……」
「まあちょっとはね。これから父さんとどう接するべきだと思う?」
僕の問いに、秘ちゃんはなんでもないことのようにあっさりと答えた。
「どうって、晴さんと日向さんが結婚したとき普通に日向さんと仲良くなってたじゃない。同じようにやればいいんだよ」
「同じようにって、一親等の父親に対してそんな感じでいいの!?」
「いいんだよ。血の繋がりの濃さなんて関係なく『家族』は『家族』なんだから」
……そういうものなのか?
でも言われてみれば、今さら血がつながってないからといって日向義姉さんと兄ちゃん・のどかちゃんを分けて扱うのは確かに違う。
父さんともあまり気負わず、ゆっくりと「家族」をやっていけばいいのかもしれない。
「そっか……じゃあそんな感じで、気軽にやってみるよ。ありがとう、秘ちゃん」
「どういたしまして。わたしもおじさんとは将来の舅さんとしてこれから仲良くなっていかなきゃいけないしね、一緒にゆっくりやっていこう」
秘ちゃんはにっこりとそう言った。
そういえば僕と秘ちゃんが既にそういう腹づもりなことについても父さんとちゃんと話したことなかったなぁ……
母さんや密おじさんがとっくに伝えているはずだから、なにか考えはあるだろうけど……
まあ僕と同じくらいの頃には母さんとやらかしてた父さんの考えなんてあんまり気にしなくてもいいか!
秘ちゃんに相談して少し心が軽くなった僕は、帰宅後母さんの運転する車で父さんの入院する病院へと向かった。
ちょっと遠くにある大きな病院で、それも僕がお見舞いに行きづらかった理由でもあるのだが、ともかく僕達は病院に到着し風伯父さん、兄ちゃん、日向義姉さん、のどかちゃんと合流して父さんのいる病室へと向かう。
父さんの病気は生命維持に関わる不随意運動には別状はないが随意運動がほとんど不自由になる難病で、最新の治療法を試していることもあってそこそこ豪華な個室に入院させてもらっている。
みんなは和やかに話しながらやって来たが、僕は少し気が楽になったといってもちょっと緊張する気持ちを抑えきれていなかった。
そんな気持ちをまぎらわせるべく、家族の中では僕と同じく父さんのことをよく知らない方に入るはずののどかちゃんに話をふる。
「のどかちゃんはちょっと前にもお見舞いに来たんだよね?」
「うん、お祖父ちゃんといっぱいおしゃべりしたの」
いっぱいおしゃべり……僕の知っている範囲では父さんは会話もほとんどままならない感じだったんだけどな。
本当に新しい治療法は素晴らしい効果を発揮したようだ。
僕は覚悟を決めて、みんなと一緒に父さんの病室――花果空と名前が書かれた部屋に入っていった。




