74話
「始まりの竜・ジズ」との戦いは熾烈を極めた。
本体が鋭い牙や爪、竜の息吹で強力な攻撃をしかけてくる上に、左右の翼から羽が舞い散るたびに眷族が生まれ襲いかかってくるのだ。
僕達Cチームは左の翼を担当し、次々と生まれ落ちる眷族が主力のAチームに襲いかからないように食い止める。
フィールド上のほとんどを覆わんばかりの範囲攻撃を避けながら戦うのは予習をしていなければパニックになっていただろうと確信出来るほど忙しかった。
「カカソーラ、兼光くん、海石榴さん。ついてこれてる!?」
アルカナが攻撃・回復・補助・妨害を目まぐるしくこなしながら初挑戦組を気遣う。
「ここまでは大丈夫!」
「おれもなんとか……!」
「まだまだいけます!!」
「上出来!じゃあもうすぐジズ様の最終フェーズ入るから、わたしの指示を聞き漏らさないように!!」
その言葉の直後、ジズ様が高く舞い上がりイベントシーンが始まった。
上空のジズ様の周囲に5つの光る裂け目が現れ、そこから新たなドラゴンが1体ずつやって来る。
「ククルカン大陸の守護竜達よ、あなたの愛し子を見定めなさい」
ジズ様の言葉に頷いて、5体のドラゴンは地上に舞い降りる。
そして順番に彼らの名前が仰々しく表示された。
善意を司る竜・イツァムナー
嵐を司る竜・フラカン
稲妻を司る竜・カウィール
楽園に導く雌竜・イシュタム
天を征く翼竜・ククルカン
多分メインシナリオで出てきたドラゴンなんだろうけど、最初と最後のやつしか覚えてない!
イツァムナーが出るまでは普通にやってたんだよ……おぼろげな記憶だとそのあと他のドラゴンとも戦って認められて来いってお使いさせられて、最後のククルカンがめっちゃ強かったんだ、たしか。
「わあっ、守護竜のみなさんが来ましたよ!」
「戦うのは久しぶりだな……」
しかし兼光くんと海石榴さんの反応を見たところ普通にやっていればけっこう印象に残るキャラクターのようだ。
「みんなの推し守護竜は誰かなー?」
「やっぱ紅一点のイシュタムちゃんでしょ!」
「心優しいイツァムナーさん一択」
「わたしは俺様なフラカンちゃまの信徒です」
「真竜の夢」経験者のみなさんもそれぞれの推しドラゴンの魅力を語っている。
うん、終わったらネットで検索してどんなキャラなのか調べておこう!
「はいみんなー、イベントシーン終わるよ!予定通りAチームはジズとククルカン、Bチームはイツァムナーとイシュタム、Cチームはフラカンとカウィールを引き付けて!ボクの推しは最強のククルカン!!」
「ユニティさんがフラカン、カカソーラがカウィールのヘイトを集めてDPS勢はカウィールから倒していくよ。海石榴さんはカカソーラの回復に専念、そしてわたしの推しは爽やかな性格のカウィールくん!!」
ルピナスさんとアルカナの指示が飛び、全員戦闘態勢に入る。
僕は指示通り額に宝珠を持つドラゴン・カウィールに攻撃しヘイトを引き付ける。
”稲妻を司る竜”の二つ名通り雷属性の攻撃を多用してくるカウィールとユニティさんが担当する”嵐を司る竜”フラカンの攻撃エフェクトで視界は大変なことになっている。
「エフェクトは派手だけど実際の攻撃範囲はこれまでと変わらないから落ち着いて対処して、あとタンクにはわたしが属性耐性の魔法配るから!」
アルカナの言葉通り落ち着いてみれば2体のドラゴンの攻撃はなんとかならないこともない。
冷静に着実に、範囲攻撃を避けながらそのHPを削っていく。
「イツァムナーとイシュタムは状態異常多用してくるし、ククルカンはシンプルに一撃のダメージがでかいからこのこっちの2体が難易度低めってわけだな」
「それでおれ達がこの2体担当なんですね……あ、そろそろカウィール倒せます!」
みんなが戦いに慣れて来てフレイさんが兼光くんに解説を入れたところでカウィールを撃破、彼はウインクをしてから飛び去っていった。
爽やかというか、お茶目な性格だな……アルカナはああいうのが好きなのか。
一瞬よぎったそんな考えは置いといて、残るフラカンも倒すべく集中攻撃を開始する。
なんとか削りきったあと、こちらはフン、と不機嫌そうな仕草をしてから飛び去っていった。
細かい仕草に性格が現れていて、しっかり作ってあるんだなぁと感心してしまう。
「よし、じゃあAチームと合流するよ。ジズ様撃破までもう少しだよ!」
Aチームの方を見てみると、既にBチームは合流し残る敵はジズ様だけ。
僕達も急いで参戦し、集中攻撃の結果無事にジズ様の撃破に成功した。
「最初の試練……『創造』の試練はこれで終わりです。次はバハムートによる『調和』の試練、心して挑みなさい」
その言葉と異空間につながるゲートを残して、ジズ様も飛び去る。
ここまでで既に普通のダンジョンをクリアしたくらいの達成感があるが、まだまだ「真竜の夢」は3体のボスの1体目を倒しただけ。
僕達は一旦態勢を整えてからゆっくりとゲートを通って次のボスが待つ空間へと向かう。
「カカソーラさん、調子はどうだ?」
その暇にBチームに編成されているリッドさんが話しかけてきてくれた。
「まだまだ余裕ですよ、さっきのはなんかファンサービス全開って感じのボスだったみたいですね」
「ジズ様だけじゃなくククルカン大陸守護竜全員集合だからな。オレも推しのイシュタム様とまた戦えて楽しかったよ」
「やっぱりそろそろ僕もメインクエストのプレイ動画観なきゃなぁ……」
「あはは。次のボス、『恐るべき竜・バハムート』はここで初登場だけどな」
「バハムート……なんかもうゲームではドラゴン扱いが当たり前になっちゃってますね」
そんな会話に食いつてきたプレイヤーがいた。
「バハムート、イスラムの伝承に登場する巨大な海獣。そのルーツは旧約聖書に登場する陸の獣・ベヒーモスにあるがどちらもドラゴンとはほど遠い……現代フィクションでドラゴンとして扱われるのはかの名作テーブルトークRPG『ダンジョンズ&ドラゴンズ』の影響が強いわね」
「あんたは……高難易度攻略の助っ人として有名なソロプレイヤーのヴァイオレットさん!」
「リッドさん、カカソーラさん、はじめまして。別のチームだけど今回はよろしくね」
露出度の高い鎧に身を包んだドワーフの女性というビジュアルのプレイヤー・ヴァイオレットさんは気さくに挨拶をした。
「はじめまして、ヴァイオレットさん。神話について詳しいですね、好きなんですか?」
「うん、ゲームの元ネタとか調べるの大好きなの。さっき戦った守護竜も元ネタはマヤ神話の神様で……」
そこからヴァイオレットさんは早口で守護竜の元ネタについて話しだした。
ちょっと話についていけなくなったが、夢中になれるものがあるっていいことだよね。
「そろそろ敵が出てくるよー。みんな元のチームで集まってね」
「あら、いつの間にかこんなに時間が。じゃあ2人とも、残りボス2体もがんばりましょうね!」
「はい、クリアまでがんばります!」
「オレもBチームに戻るよ。終わったら全員で記念スクリーンショット撮ろうな!」
そんなこんなで攻略は再開された。
今回のボスまでの道のりでは、ダンジョン内にある3つの鍵を探し出す必要がある。
各チームで1つずつ鍵を見つけるべく手分けして探索していくのだが……
「背景にいるのってあのときの魔族……!?」
「わかって……きたわ……そうか、ドラゴンと魔族と人間との関係はすごく簡単なことなんだ」
メインクエストを飛ばしてしまった僕にはよくわからないものの重要な情報がダンジョン内のそこかしこに転がっているようで、兼光くんと海石榴さんがなにかひたってしまっていた。
「兼光くん達もDFOの真実を理解し始めたようですね……」
MEIさんを始めとする他の面々も感慨深そうにそれらを見ながら戦っている。
僕だけ置いてけぼりでなんかちょっと怖いよ!




