70話
「やられたわ、カカソーラさん。試合開始からずっと、わたしの動きを誘導するためにわざと隙を作っていたなんて……」
「DFOの経験不足はどうしても埋められませんから、現実での実戦経験を活かす勝負に持ち込ませてもらいました。それでもやっぱりミロさんっていう目標があったから僕もここまで成長できたんです、試合ありがとうございました!」
僕達は選手控室に戻されるまでの時間、互いの健闘を称え合った。
「リベンジされてもそこまで言ってもらえるなら悪くないわね。わたしはこれからすぐ次の試合に行くつもりだけど、あなたはどうするの?」
「僕もそうするつもりです。レベル上げもするから2時間くらいで切り上げるつもりなので、良かったらミロさんもその辺で休憩してちょっと話しませんか?」
「いいわね、じゃあ退出する頃にテキストチャット送ってちょうだい」
「はい、ではお互い次の試合もがんばりましょう!」
そう言ったところで、僕達は選手控室に戻った。
普段は試合が終わったら振り返りをしてからすぐに次の試合のマッチングに行くのだが、今回は目標にしてきたリベンジを成し遂げたあと、少しの間喜びを噛みしめる。
思い返してみればリアルの武術でも同年代には勝てるけどお祖父ちゃんとその武術仲間のみなさんにはボコボコにされっぱなしなので、格上の相手を努力して乗り越えるという経験はレアだった。
これはなんだかものすごく達成感があって気分がいい……!
「よし、ミロさんに恥ずかしくないようにここから先も勝ちまくってエトワール昇格を決めるぞ!」
僕は気合いを入れ直し、次の試合へと向かうのだった。
*
そういうわけでひたすら勝ちまくって2時間後。
ミロさんに退出することをテキストチャットで伝え、ちょうどミロさんも選手控室にいるタイミングだったのですぐ返事が帰って来たのを確認して退出する。
闘技場の受付に戻ったとき、最初に見つけたのはほぼ同時に戻って来たミロさんだった。
「お疲れ様、カカソーラさん。改めて今日はいい試合だったわ、元々強かったのに短期間でさらに腕を上げちゃって……怖いくらい」
「ミロさん……僕がこんなにすぐDFOでも強くなれたのは、頼れるパートナーがいるからですよ。ミロさんへのリベンジのために、一緒に特訓もしてくれて……」
「カカソーラ!!」
話題に上げた「頼れるパートナー」の声がちょうど聞こえてくる。
退出した僕を見つけたアルカナが駆け寄ってきたのだ。
その後ろにはリッドさんと水月さんもいて、一緒に観戦していたのだろうか?
とにかくアルカナはにこにこの笑顔で片手を挙げながら駆け寄ってきていたので、僕はその意図を読んでハイタッチを交わす。
「やったね、リベンジ達成!」
「うん、「アルカナ虎の穴」のおかげだよ!……ミロさん、見ての通り僕にはトッププレイヤーのアルカナがついてくれてるので強くなれたんです。環境がずっと有利なんですよ」
そう言って僕は、アルカナと見つめ合ってしばしじゃれ合う。
僕のリベンジ達成を我が事のように喜んでくれるし、本当に僕の彼女は頼れる!
それを見ていたミロさんはくすり、と笑って呟いた。
「あのアルカナさんがつきっきりで指導する闘技場の天才プレイヤー、か……色々と羨ましいものね」
「ミロさん、負けちゃったけどいい試合だったよ」
「姉さんだってこれからまだまだ強くなるんだから、リベンジ返しがんばりましょう!」
そしてそんなミロさんに水月さんとミロさんが声をかける。
ミロさんは一瞬きょとんとして、それから笑顔でさっきの呟きを訂正した。
「今のなし、羨ましいのはトッププレイヤーのサポートがあるってことだけね。わたしも十分恵まれてるわ」
「……?よくわかんないけど姉さんが楽しそうだから問題ないです!」
「ははは、いいじゃないミロさん。そっちも思う存分いちゃつくといいよ」
アルカナはご機嫌でミロさん達を煽りつつ、僕とのじゃれ合いを続行する。
うん、仲良くするのは素晴らしいことだからね!
「っと、それはそうとリッドさん、水月さん。お二人もレイドの助っ人応募ありがとうございます。みんなで肩を並べて戦えるの、楽しみにしてますね」
「ああ、あれな。オレも楽しみにしてるぜ、ポジション割りはもう決まってるのか?」
「僕は出来ればミロさんと同じポジションにして欲しいんだけど」
「わたしはどこでもやれるわ。『真竜の夢』は素材集めのために周回しまくったもの」
ポジション……えーっと確か24人レイドダンジョンではタンク2人、ヒーラー2人、DPS4人の8人チームを3つ作って分担して攻略を進めていくのが定石だってルピナスさんから説明があったな。
まだ僕は「真竜の夢」攻略に向けての予習が完璧ではないので、アルカナの方を向いて助けを求める。
アルカナはこくりとうなずいて、説明役を請け負ってくれた。
「ポジションはこれから相談して決めるよ、日程が決まったらSNSグループを作ってみんなを招待してそこで相談するつもり。レイド初挑戦の人が3人いるから初心者引率チームを作る必要があるのは覚えておいてほしい」
「初挑戦の人がいるのね、1人はカカソーラさん?」
ミロさんの質問に今度は僕が答える。
「はい、あと同じクランの人と、応募してくれた人の中に1人ずつです」
「決定したメンバー見たけど、《ヴァンガード》のクランマスターや助太刀屋のヴァイオレットさんもいるんだろう?初挑戦でも演出見る余裕持って楽しめると思うよ」
「『真竜の夢』は世界観の種明かしがすごいからな。あれやらなきゃメインクエストはすっきりしないところもあるし……カカソーラさんも説明欲しいところあったんじゃないか?」
リッドさんが何気なく僕にそう問いかける。
しかし……僕はメインクエストをほとんど聞き流して駆け抜けてしまったのである!
世界観の種明かしとか言われても、多分もとの伏線に気がついていない。
「あー……実は僕、メインクエストほとんど理解してないというか……」
「へ?」
「語らなければならないみたいだね……カカソーラの闘技場に初挑戦するまでの生き急ぎっぷりを」
「なにそれ気になる」
こうしてアルカナによって語られた僕が闘技場に挑戦するまでの経緯でミロさん達にめちゃくちゃ驚かれたり、普通のプレイヤーが闘技場に辿り着くまでにかける時間を教えてもらったりしてから僕達はミロさん達と別れた。
やっぱりとんでもない無茶やっちゃってるんだなあ……
*
そして5月の闘技場シーズン残りの2日間。
ミロさんに勝利したことで稼げた勝ち点もあって昇格圏内真ん中くらいに上昇した順位を維持するべく、僕はひたすら試合に挑み勝ちまくった。
《ヴォワヤージュ=エトワール》の仲間達――ルピナスさん達も好調のまま試合を続け、ラストスパートの時間はあっという間に過ぎ去る。
振り返ってみると、初心者ランク・カドリーユに挑んでいたときと違って現在の中級者ランク・プルミエでは対戦相手の情報も積極的に調べたからライバル――もとい闘技場仲間がそこそこ増えた。
初めての敗北を味わったミロさんに、その弟でクウさんのファン仲間のリッドさん。
人間離れしたマルチタスク能力持ちの水月さんに、アイドル風に振る舞いながらも芯の通った*あゆぴっぴ*さん。
少しギクシャクしてしまっていたリンさんと仲直りできたのも大きな収穫だ。
他にも《ツインスネーク》さんやアインラスさんなど、たくさんの実力者との闘いがあった。
これから目指す最高ランク・エトワールではこれ以上の強敵が待ち構えているはずだ。
ライバルとの試合経験を活かして、勢いを落とさずに駆け上がってみせるぞ!




