69話
5月の闘技場シーズン終了まで残り3日。
もしかしてミロさんへのリベンジの機会なくシーズンが終了してしまうかもしれない、でもこのペースだったら僕もミロさんも最高ランク・エトワールに昇格できるからリベンジはそこでかな……なんて考えが浮かんで来た頃。
それがフラグだったかのように、ミロさんとの試合がマッチングされた。
僕はついに来たか……!と逸る気持ちを深呼吸で一旦抑えてから、試合を受諾し闘技場の舞台へと移動する。
そこには不敵に微笑むミロさんの姿があった。
「再戦の機会が来てうれしいです、ミロさん。リベンジしてみせますから、覚悟して下さい!」
「カカソーラさんの活躍、チェックさせてもらってるわ。さらに腕を上げて来たみたいだけど、そう簡単にはやられないからあなたこそ覚悟して挑みなさい!」
お互いに堂々と啖呵を切ったが、カウントダウンはまだ大分残っている。
一度肩の力を抜いて、僕達は雑談に入った。
「そういえばレイドの応募ありがとうございます。日程調整も早めに予定教えてもらえて助かります」
「わたしもあなた達と一緒に遊べるの楽しみにしてるから、当然のことよ」
*
その頃観戦者の中ではミロとカカソーラの再戦実現の知らせが飛び交い大騒ぎになっていた。
「早く闘技場に来い、今シーズンのプルミエ最高の試合になるぞ!」
「”騎士姫”ミロと”闘技場のニューヒーロー”カカソーラ、どっちが勝つと思う!?」
「今のランキング順位と2人の試合ペースからすると勝った方がエトワール昇格、負けた方がプルミエ残留になるな……」
観戦者達の間で試合への期待、勝敗の予想が熱気を込めて語られる中、悠然と腕を組んで見守るプレイヤーが2人。
アルカナと水月だった。
応援する相手を心から信頼する者同士、多くは語らない。
「ふっ……」
「ふふふ……」
一瞬視線を交わしたのち、不敵な笑みを見せ合って試合開始を待つミロとカカソーラが映るウインドウに視線を戻す。
「いや、どういうコミュニケーションだよ今の!?」
リッドのツッコミがほとばしる。
「後方腕組にも程があるだろ!あと水月さん、姉さんに対してそのポジションに立つのはまだ認めてないからな!!」
「リッドさん、深い信頼は極まると自然とこうなってしまうものなんだよ」
「そうだよ、義弟くん」
「わかんないよ!しかもオレへの呼び方もなんか馴れ馴れしくなってるし!!」
リッドは頭を抱えたが、なんとか気を取り直して姉とカカソーラの試合に意識を移す。
彼もまた姉の応援と、注目の試合をその目で見るために自分の闘技場参加を切り上げて来たのだから。
*
カウントダウンが0になり、試合開始の合図が出る。
僕はまずいつも通り【リロード】でMPをカートリッジに変換、通じないとわかっているので弱体化魔法の発動はせず、先手を取るためにミロさんへ向かって突撃する。
「はあああぁぁぁ!!」
「来たわね、どんな対策を練ってきたか見せてもらうわよ。【アンタッチャブルボディ】!」
ミロさんは一定時間無敵になる騎士専用スキル【アンタッチャブルボディ】を発動。
さらに範囲内にいるキャラクターの移動速度を下げる野伏の汎用スキル【ハンティングゾーン】を発動し、お互いに近接戦闘の間合いから逃れられないようにする。
「なら……【スチールジャケット】!」
僕はカートリッジを消費する銃剣士専用スキル【スチールジャケット】を発動し防御力を強化、これからの削り合いに備える。
「どうしたの?これじゃあ前の試合と同じじゃない、早くさらに強くなったあなたを見せてちょうだい!!」
「言われなくても、すぐにわかりますよ!」
あくまで防御力を強化しただけの僕と、無敵状態のミロさん。
一見敗北を喫した前の試合と同じ状況だが、アルカナとの特訓の成果がすぐに現れだす。
「……見切られている!?」
前はその地味なエフェクトから動きを予測しづらくいくらかくらってしまったミロさんの攻撃を、今回は完璧に捌くことが出来ている。
なにしろ「アルカナ虎の穴」の基本メニューとして騎士になったアルカナの攻撃をひたすら受ける特訓をしてその動きを完璧に覚えたからね!
アルカナが予測したミロさんが使うであろう戦闘スキルの発動順もばっちり合っている。
極めているのは魔法剣士くらいなんて言葉と裏腹に、アルカナの騎士への理解も抜群だ!
「さあ、そろそろ【アンタッチャブルボディ】の効果が切れるんじゃないですか!?」
「なるほどね……やっぱり同じ手だけじゃ勝てないみたいね!」
お互いにノーダメージのまま、ミロさんの【アンタッチャブルボディ】の効果が切れる。
ミロさんはすかさずありったけの防御力を強化する戦闘スキルを発動するが、ここからは少しずつでもダメージが通るのだ、僕も次々に攻撃力やクリティカル率を上げる戦闘スキルを発動して攻勢をしかける!
「だったらわたしの本来のスタイル――魔法攻撃で行くわよ!」
そう宣言してミロさんはのけぞり耐性を得る騎士の戦闘スキル【キャバルリィ】を発動、近接攻撃を受けながら魔法を唱え、強力なダメージを狙ってくる。
タンクの防御力で敵の攻撃を耐えつつ【キャバルリィ】の効果を利用して妨害されずに魔法を発動する防御型疑似魔法剣士といえるミロさんの基本スタイルは強力だ。
だが僕には「アルカナ虎の穴」で鍛えたあのテクニックがある!
「たとえ魔法でも、当たらなければどうということもないですよ!」
【ハンティングゾーン】の効果で平面上の移動制限されているままでは魔法攻撃を避けるのは至難の業だが、立体的な移動――2段ジャンプを駆使すれば十分避けられる。
「重装備での2段ジャンプを平気で連発って……やってくれる!」
もちろん全部を避けることは出来ないが、今はカートリッジを全て防御系戦闘スキルに注ぎ込んでいるのでダメージをかなり減らせているからこちらの攻撃で減らしたミロさんのHPの方がさらに多い。
とはいえお互い防御力を高めているので素早く決着をつけることは出来ず、ミロさんが再び【アンタッチャブルボディ】を発動する。
「だったらしばらく……回避に専念!」
「今回も持久戦……でも今度はそっちが有利ってわけね」
そんなことを言いながらもミロさんは不敵に笑う。
逆転の一撃をちゃんと用意しているのだ……しかしそれこそ僕の狙い通り。
試合開始とともに突撃したときからずっと、僕は不自然にならないように「見せかけの隙」を作ってきた。
僕が有利の持久戦となったとき、ミロさんが狙うであろう逆転の一撃をそこに放つように。
僕がわざと「見せかけの隙」をちらつかせたタイミングで、その一撃を放つように!
【アンタッチャブルボディ】が切れるか切れないか、ギリギリのタイミングで僕は「見せかけの隙」をミロさんの前にさらす。
「もらった、騎士の奥義を受けなさい!!」
騎士の技にしては派手な――他の職業の大技に比べたら剣が光るだけという地味なエフェクトで、ミロさんはMPを消費して放つ戦闘スキル【ホーリージャッジメント】を放つ。
これが当たれば大ダメージ、僕の敗北は必至だが……位置もタイミングも誘導した一撃に当たってあげる僕ではない!
悠然と【ホーリージャッジメント】を回避し、驚愕するミロさん――大技発動後の隙とジャストタイミングで【アンタッチャブルボディ】の効果が切れた無防備なところに銃剣士の単体攻撃コンボを叩き込む!
「んなっ……!?」
「もらったのは、僕だ!!!!」
畳み掛けるように連撃を繰り出し、ミロさんのHPを削り切る。
響く鐘の音、画面に浮かぶ「YOU WIN」の文字。
ミロさんへのリベンジ……成功だ!




