68話
今月の闘技場シーズンも残り5日を切り、参加者達はそれぞれの目標に向けて追い込みをかけだす時期に入った。
ランキングの変動が大きくなり、ログイン時間の差もあって僕の順位も油断すると昇格圏内から落ちてしまいそうになるほどだ。
僕の知り合いの中で現在の中級者ランク・プルミエから最高ランク・エトワールへの昇格が確実と言えそうなのは水月さんくらいだろうか?
「今シーズンも佳境に入ったって感じですね、みんなは調子どうですか?」
今日はアルカナは一緒ではないが、タイミングが合ったのでルピナスさん・シリウスさん・MEIさんと一緒に闘技場に向かっているから彼らに調子を聞いてみる。
「ボクは絶好調!目標のプルミエ昇格いけそうな感じだよ」
ルピナスさんはVサインをして意気揚々と答える。
さらにウインドウを開いて初心者ランク・カドリーユのランキングを僕達に見せてくれた。
表示されているカドリーユ上位の名前の中には確かにルピナスさんの名前がある。
「本当だ、流石ですね。これはエースとして追いつかれないように気合い入れなくちゃ」
「ふふふ、思う存分プレッシャーを感じてくれたまえ」
冗談めかしてそう言うルピナスさんをやれやれといった風に見ながら、シリウスさんも自分の調子を教えてくれた。
「俺は目標のコロッセウムポイント分はもう勝ち点を稼いだから順位を落としすぎない程度にのんびりやっていこうってところだな」
「またまたそんなこと言って~、見てよこのカドリーユのランキングの上の方。昇格ワンチャンありえそうなところにシリウスのお名前が」
「本当ですね、シリウスくんは能ある鷹は爪を隠すタイプのようで」
「テストのとき『全然勉強してないよ』って言うタイプですかね」
「……なんかみんなノリが良くなり過ぎて来てないか?」
シリウスさんが少し気まずそうにしたところで、MEIさんが話題を戻す。
「ではからかうのはこの辺にして……私の目標は『勝利数を敗北数より多くする』でしたが、なんとか勝率を6割程度に持っていくことが出来ました。まだシーズンは終わっていませんが、全員目標達成はなんとかなりそうというわけですね」
MEIさんもウインドウを開いて自分の闘技場プロフィールを見せてくれた。
そこに表示されている今シーズンの勝率は言葉通り6割ちょっと、MEIさんも少しずつだが腕を上げているようだ。
「僕のエトワール昇格はまだ安心できませんけど、絶対達成してみせます!」
「いいね、その意気!じゃあ今日もそれぞれがんばろー!!」
ルピナスさんの声掛けに合わせて僕達は拳を突き合わせ、闘技場の受付からそれぞれの選手控室へと移動していった。
*
丁度その頃、リッドは水月と試合がマッチングされていた。
大好きな姉と親しくなりつつある相手、そしてこれまで試合で散々煮え湯を飲まされてきた相手との戦いを前に、リッドの闘志は否が応でも燃え上がる。
「水月さん、今日こそ勝たせてもらうぜ」
「意気込みは認めるけど、僕もエトワール昇格がかかってるからね。そう簡単には負けてやれないよ」
答える水月も、実力を認める相手を前ににこやかな態度を維持しつつも緊張感を高める。
「上等だ。これまでやられた借りと、姉さんにちょっかいかけてる鬱憤まとめて返してやるぜ!」
「えーっと、ミロさんとはやっぱりリアルきょうだいなの?」
「そうだよ、証拠出せって言われてもプライバシーに関わるから出せないけど」
「そこまでは言わないよ……だけどお姉さんに対してそれは、ちょっと不味くない?」
水月の本気で心配しているような口ぶりに、リッドは眉をひそめる。
「いくら仲が良いきょうだいだって、ミロさんはミロさん、リッドさんはリッドさんだろ?僕がミロさんに君が言うちょっかい……特別に親しい感情を向けていてもそれに文句を言う筋合いはないと思うけど」
「筋合いはある!そのくらいオレと姉さんは仲良しだ……おい待て、『特別に親しい感情』ってなんだその言い方」
「言った通りの意味だよ?おっと、カウントダウンが終わるね。続きは試合が終わってからだ!」
水月がそう言ったところで、試合開始の合図が出る。
そして間髪入れずに水月は【変形・七剣乱舞】を発動、彼の代名詞とも言える7本の剣を華麗に使いこなす戦法――真・七剣乱舞で攻めかかる。
「あー、もう!気になるけど今は試合に集中だ。行くぜ、【瞬動の極意】!」
リッドも敏捷力を高める戦闘スキルを発動し、水月を迎え討つ。
クウに憧れてジャストタイミングで敵の攻撃に合わせればそれを跳ね返すことが出来る拳聖専用スキル【カウンター】をかなりの練度で使いこなしているリッドだが、流石に7本の剣を意識しながらその中の1本に【カウンター】を成功させるのは難しい。
さらに【カウンター】は成功後にわずかだが硬直時間が発生するため、上手く行ってもその隙を他の6本の剣に突かれてしまう可能性がある。
(クウさんだったら素の機動力で7本全部回避して反撃に出るんだろうが……オレには【瞬動の極意】の強化があっても難しい)
ギリギリのところで真・七剣乱舞の攻勢をかわしながら、リッドは考え抜いた対策を思い出す。
ヒントはカカソーラが見せた捨て身の戦法、リッドは拳聖と同じ格闘士の上位職である武僧と闘士の汎用スキル、【活性術】と【悠然たる受け身】を発動する。
前者は徐々にHPを回復する効果、後者は防御力の強化とのけぞり耐性を得る効果がある。
これにリッドの種族であるトロールの高いHPと防御力が合わされば、何発かは直撃をくらっても耐えられる!
「行くぜ、【経絡破砕拳】!!」
拳聖の敵にヘビィ状態を与える戦闘スキル【経絡破砕拳】を水月に叩き込むべく、リッドは回避を捨て突撃する。
体を貫く剣によるダメージが大きい、しかしなんとか水月の正面まで距離を縮め、起死回生の一撃を――
ガキン!
金属音と砕け散る何か――いや、浮遊していた剣のうちの1本によってリッドの一撃は防がれる。
「これは……【剣の護り】!?」
【剣の護り】は七剣乱舞形態のときのみ使用できる剣舞士の専用スキルで、タイミングを合わせて発動すれば剣1本を犠牲に相手の攻撃を防ぐ効果がある。
そのタイミングは【カウンター】と同等にシビアだし、犠牲にした剣は一定時間――闘技場の仕様では試合中二度と復活することはなく、それ以後使える戦闘スキルに制限と弱体化がかかる。
だからこれまでリッドは難易度が高くリスクの大きいこの戦闘スキルを使ってくる相手と闘ったことはなかった、いや、エトワールの上位ランカーにさえ実際に試合でこの戦闘スキルを見た者はいないだろう。
「僕も敗北を通じて強くなったってことさ!」
水月はカカソーラへのリベンジのために剣舞士の戦闘スキルを見直し、七剣乱舞対策のさらなる対策を身に付けていたのである。
そして残った剣がリッドを斬り裂き突き穿つ。
試合は水月の勝利に終わったのだった。
「あー、やっぱり同じ手は何度も通用しないか……」
「うーん、あのときのカカソーラさんの戦法は隙を作らされたって感じだったから、無理矢理ゴリ押してきた今のリッドさんと同じ手ってわけでもないかな」
「そうだったの!?上辺の真似にしかなってなかったってことか……ってそうだ、姉さんに『特別に親しい感情』向けてるって話、詳しく聞かせてもらうぞ!」
「ははは、それは選手控室に戻ってからチャットでね」
水月がそう返したところで2人はそれぞれの選手控室へと戻された。
カカソーラがそうであるように、ライバルたちも成長し、それぞれの人間模様を育んでいるのだった。




