66話
今月の闘技場シーズンも半分が過ぎ、今のところランキングは昇格圏内で安定、要チェックリストのプレイヤーにも勝利を重ね絶好調の僕だった。
そうなると残る気がかりであるミロさんへのリベンジも絶対に成し遂げたいところ、再戦の機会が来ると信じてアルカナと特訓に励み、リアルでも稽古にいっそう力を入れて僕の持ち味である近接戦闘技術をさらに高める。
「師範、今日も手合わせよろしくお願いします!」
「いいだろう、そろそろお前も相伝の技を受け慣れてきたところだ。今日はそれをお前も使ってみろ」
相伝――すなわち当主が後継者のみに伝える、花果無形流の奥義ともいうべき技。
確かに最近のお祖父ちゃんとの稽古で何度も何度もくらっているが、毎回手も足も出ずにボコボコにされているので自分でもやってみろと言われても出来る自信がない。
「うちの相伝の技ってそんな風に受けて盗む形式なの……?」
「いや?後でしっかり丁寧にやり方を指導するが」
「普通に先に教えてよ!?」
思わず大声でツッコんでしまった。
「あまり大声を出すな……いいか、お前のことだからやられっぱなしで技の術理など何もわからないと思っているんだろう?」
「そうですけど……師範から見たら違うんですか?」
「ああ、俺の方から見ると受けるたびに教えていないにもかかわらず対処がうまくなっているように見える。ついムキになって必要以上に打ちのめしてしまうほどだ」
「ついって」
お祖父ちゃんの意外な大人気なさが判明した。
しかしそんな一面を引き出せるほどに僕の実力が上がっているというわけで、それは素直にうれしかった。
ならばお祖父ちゃんに言われた通り、思い切って再現に挑戦してみよう。
「師範がそこまで言ってくれるなら、今日は自分なりに相伝の技を再現してみます!」
「その意気だ、遠慮なくかかってこい!」
そうして始まったお祖父ちゃんとの1対1の稽古。
僕がくらいまくった経験を元に再現した技は、お祖父ちゃんの言う通り自分で思っていた以上に上手く決まり――それはそれとして完璧なカウンターで返り討ちにされた。
「見事だ天、今の敗北はこの技の『見せかけの隙』を無意識にでも見抜くことが出来ていた証拠だ。それでこそ俺の後継者、相伝の真の姿を伝えるに相応しい……」
「か、返り討ちにする気満々でやらせるとかガチで大人げない……」
「見せかけの隙」って要するに見て盗もうとしたやつは偽の弱点を真似しちゃうから絶対に潰せるっていうことか。
当主と後継者だけに伝わる技としてしっかりしてるなぁ!!
その後お祖父ちゃんと僕の2人っきりでしっかりと相伝の技を指導してもらった。
それは花果無形流で扱うあらゆる武器で応用できる技で、もちろん剣術でも使用できるものだった。
DFOで上手く再現できるかは未知数だが……ちょっと試してみる価値はあるだろう。
*
そんなことがあった日、ちょっとぶりのアルカナの応援ありでの闘技場。
受付に来たところでミロさん、リッドさん、水月さんの3人に遭遇した。
「こんばんはー、3人もこれから闘技場ですか?」
「あ、カカソーラさんこんばんは。その通り、僕達も今受付しようと思って会ったところさ。ね、ミロさんにリッドさん?」
水月さんがにこやかに答えつつミロさんとリッドさんに視線を送る。
それに対してミロさんは同じくにこやかに、リッドさんは少しジト目でうなずいた。
「みんな全力でがんばりましょうね。特にミロさん、絶対リベンジしてみせますから!」
「うふふ、やる気満々でいいわね。でもあなただってもうリベンジを狙われる側なのよ?」
「ああ、僕もリッドさんも君との再戦を期待してるところさ」
ミロさんと水月さんの言葉にリッドさんが深くうなずく。
そうか、僕ももうそんな立番になったか……と感慨深くなった。
そんなとき、闘技場に集まって観戦するプレイヤー達の中から歓声が上がる。
「おい、今からリンと*あゆぴっぴ*の試合やるみたいだぞ」
「プルミエで売り出し中のブラウニー同士の対決か、観物だな」
「オレっ娘魔導師と呪殺系アイドル……お前どっち派?」
愛らしい容姿で目立つ2人の試合に注目が集まっているようだ。
もちろん*あゆぴっぴ*親衛隊のみなさんもサイリウムを振って応援している。
「魔導師は銃剣士と並んで早くに呪殺コンボ対策を編み出した職業、おれはリン有利と見るがお前はどう見る、”ツインスネーク”?」
「俺の見立てでは2人の実力は互角……しかしここ数日の試合での調子は*あゆぴっぴ*くんの方が良いように見えた。あれが維持できているなら*あゆぴっぴ*くん有利だな」
プレイヤー達の中には”ツインスネーク”さんと以前当たったエルフの森導師さん――確かアインラスさんと言ったか――がリンさんと*あゆぴっぴ*さんの実力を分析している姿もあった。
あの2人知り合いだったんだな、なんて思いつつ見ていると、向こうもこちらに気がついて手を振ってくれたので僕も振り返す。
知り合いが増えてくると闘技場の人だかりもちょっと違って見えてくるものだなぁ。
「ねえ、カカソーラ」
今まで不自然に黙っていたアルカナが低い声で僕に話しかける。
「なんか知らないちょっとのうちに人脈広がり過ぎじゃない……?」
「えっ、そうかな……試合のとき挨拶ちゃんとしてたらこんなもんだと思うけど……」
しまった、アルカナの嫉妬スイッチをオンにしてしまったみたいだ。
そういえばアルカナとのレベル上げや特訓のときに僕から話題に出すのはリベンジ目標のミロさんのことが多く、他のプレイヤーさんの話題はインパクトが強かった*あゆぴっぴ*さんの話くらいしかしていない。
アルカナからしたら僕がわざと秘密にして交友関係を増やしていたように見えるのかもしれない。
「わたしはちゃんと《ヴァンガード》であったこと話してたのになぁ……」
「ご、ごめん!でも隠してたんじゃなくてわざわざ言うほどのことに思ってなかっただけっていうか……」
僕は必死になってアルカナをなだめる。
幸い嫉妬スイッチが入ったといっても嫉妬モードの深さはちょっと不機嫌な程度だったようで、僕の必死さを見ただけでアルカナも満足してくれたようだ。
「僕にとってはアルカナと一緒に特訓するのが楽しくって思い浮かばなかったんだよね!今日もアルカナが試合を観て応援してくれるってことばかりに意識が行ってたよ!!」
「そこまで言うならよろしい。じゃあ今日もがんばってね?」
「うん!めちゃくちゃがんばる!!」
そんな僕達の姿を見て、ミロさんがくすりと笑う。
「カカソーラさんとアルカナさんって本当に仲が良いのね」
「そうだね。ちょっとうらやましくなるよ」
「……水月さん、ああいう関係になりたい相手がいるみたいな言い方じゃないか?」
「あれ、そう聞こえたかな?」
おっと、こっちもなにやら面倒そうな雰囲気。
リッドさんと水月さん、2人でいるときは普通に仲良いのにミロさんが絡むとちょっと拗れるな?
まあそこまで深刻そうな拗れ方でもないというか、リッドさんが一方的にライバル心を燃やしているだけにも見えるけど。
「えーっと、じゃあそろそろ僕は試合の方に行きますね」
「そうね、わたし達も油を売ってないで試合をやらなくちゃ」
「じゃあそれぞれがんばっていこうか。ね、リッドさん?」
「言われなくてもがんばるっての!!」
こうして僕達はそれぞれ選手控室に移動した。
残念ながらこの日はミロさん達と試合をすることは出来なかったが、みんな調子は絶好調だった。
わざわざ言うほどのことに思ってなかった、なんて言っちゃったけどライバル兼友人が増えるのはうれしいことだから、これからはちゃんとアルカナにも報告することにしよう。




