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65話

「あー、けっこう自信あったのに今日は負けちゃったな」


 とある田舎町の立派な日本家屋の一室で、ダイブ・ギアを外しながら小さな少女がつぶやく。

彼女の名前は菅井(すがい)あゆる、小学4年生。

幼いながらも整った顔立ちのこの少女こそ、DFOにおける*あゆぴっぴ*であった。


「でも間近で噂の『VR適正』持ちの動きを見れたのはきっといい経験になるはずだよね。よーし、寝る前にカカソーラくんの情報チェックしておこう!」


 敗北に少しもめげる様子も見せずに元気よくあゆるはそう言った。

あゆるがDFOを始めたのは1年ほど前のことである。

今よりもっと幼い頃、あゆるは女児向けのアイドルアニメをこよなく愛していた。

自分も色鮮やかな衣装をまとって、みんなの注目を浴びて、きらきらと輝きたい!そう思っていた。

現実のアイドルの世界の厳しさを知る家族の反対もあって実際にアイドルを目指すことはなかったが、アニメのなりきりグッズは買ってもらえたのでアイドルごっこはめいっぱい楽しめた。

女児向けアニメを卒業した後もきらきら輝きたいという変身願望はあゆるの中に残り続け、どこかにそれを叶えられる場所はないかと探してたどり着いたのがVRMMOの世界だった。


 人気らしいから、という適当な理由で選んだDFOだったが、ブラウニーという愛らしい外見の種族やバリエーション豊かな職業を選べるこの新しい「ごっこ遊び」はすぐにあゆるを魅了した。

月々のお小遣いからでも買える課金アイテムのオシャレ装備は特に魅力的で、現在*あゆぴっぴ*が使用している装備「ゆめかわシリーズ」なんて着ているだけで幸せな気分になれる。

かわいい見た目と素敵な衣装に勇気をもらって、DFO内ではアニメで見たアイドルみたいなキャラ作りもしてみたら変身願望はさらに満たされ最高に楽しかった。

そうやってDFOを楽しんでいるうちにあゆるは気がついた――この世界の中だけだけど、アイドルのように注目され輝いている人がいることに。


 きっかけはDFO公式サイトが配信している動画……そう、闘技場の動画である。

クウを始めとする上位ランカー達の活躍を紹介する動画の内容と、彼らに憧れるたくさんの人達がつけるコメントを見てあゆるは思ったのだ。

自分がなりたかったのはこれだ!――と。

もちろんあゆるも現代っ子、攻略情報をネットで調べればすぐに闘技場というコンテンツの難易度の高さは知ることが出来た。

それでも一度胸に点いた憧れの炎は止められない。

闘技場に挑戦すると決めてからのあゆるの全力疾走は凄まじいものだった。

まるで天がしたような怒涛の攻略とレベル上げ……いや、時間はかかったものの秘という廃人の手助けがない状態でのことだからあゆるの方がより無茶だったかもしれない。


 とにかくあゆるはDFO開始から約半年というスピードで闘技場の入口に立った。

選んだ職業は聖者(セイント)、吟味に吟味を重ねて決めた戦術・呪殺コンボを使うための構築である。

ここで闘技場における呪殺コンボという戦術の立ち位置についても語っておこう。

まずこの戦術はちょうどあゆるがDFOを始めた時期――クウが闘技場に現れてから1年、”絶対王者”という肩書で呼ばれ始めた彼をなんとか倒せないかという研究の末に生まれたものだ。

まず注目されたのが汎用スキルでありながら小ダメージとはいえクウでも回避不能の攻撃を与えられる魔神使い(デーモンルーラー)の魔法【東方公爵アガレス】。

なんとかこれを積み重ねてクウを倒せないかという初期の試みはもちろん彼の圧倒的手数に阻まれ頓挫。

魔神使いの()()()()()である【獅子総裁マルバス】とのコンボで猛毒ダメージを与える最初期の呪殺コンボも、魔神使いの魔導師(ウィザード)に次ぐ低い防御性能からクウ以外のプレイヤーに使ってもよくて相討ちという有り様だった。


 それが変わったのは運営による突然の「バランス調整」。

【獅子総裁マルバス】が汎用スキルへと変更になったのである。

呪殺コンボを他の職業で使えたらなぁ……という声が上がり始めた中でのこの仕様変更、対クウ戦術を練っていたプレイヤー達は確信した。

これで”絶対王者”を倒せという運営からのメッセージだと。

試行錯誤の結果最も呪殺コンボの成功率が高いのは全職業中最高の回復性能を持つ聖者という結果が出て、多くの上位プレイヤーがメイン職業を聖者に変更、果敢にクウへと挑んでいった。

結果は……敏捷力を高める拳聖(カンフーマスター)の専用スキル【瞬動の極意】を使ったクウがスタン切れと同時に連撃を開始、カカソーラが*あゆぴっぴ*にそうしたようにゴリ押しで打ち破るという結果に終わった。


 残ったのは”絶対王者”運営に勝利という風評と、クウは倒せないがクウ以外には面白みもない勝利を奪える呪殺コンボの大流行という惨状だった。

後に「呪われた時代」と呼ばれるこの状態は呪殺コンボの対策として銃剣士(ソードガンナー)の【マジックバレット】による【ディスペル】で猛毒を即解除、少し発動は遅れるが魔導師の【スピードキャスト】で魔法の発動時間を短縮してからの【ディスペル】など対策がいくつも発見され呪殺コンボが「強力な戦術のひとつ」に落ち着くまで続くことになる。

ちなみに騎士(ナイト)の弱体抵抗確率を高める専用スキル【グレイスクロス】はあまり対策として流行らなかった。

【グレイスクロス】で呪殺コンボ使いを狩りまくったミロはその結果に納得できなかったというが、これは少し話が逸れているだろう。


 ともかくこのような経緯で生まれた呪殺コンボという戦術は、あまり良いイメージのある戦術ではなかった。

それに加えて聖者のゴツいモーション、あゆるの選択は注目を浴びてきらきら輝きたいという彼女の願望には普通に考えれば合っていないように思われる。

しかしあゆるの考えはこうだ。

闘技場という舞台を選んだ以上、勝利を目指すという闘技場の基本的なコンセプトには従うべきだ。

きらきら輝きたいという自分の願望は、それを満たしたうえで叶えるもの。

ならばそれがどんなイメージを持っていたとしても、自分が最強だと信じる戦術を選び、勝利してから自分のやりたいスタイルを披露するべきだろう。

”剛の姫”という二つ名が付けられるに相応しい思考回路だった。


 そうして始まったあゆる――*あゆぴっぴ*の闘技場挑戦。

最初は対人戦闘になれず、呪殺コンボを発動する前に相手の攻撃を許してしまい負けることもあった。

勝利を重ねるようになってからも、最初についた評判はエグい戦術とゴツい職業のくせにアイドルぶってる変なやつというものだった。

しかし*あゆぴっぴ*はへこたれず、呪殺コンボもアイドルロールも貫いた。

その根性に人はいつしか心動かされ、彼女の望むアイドル扱いをしてくれるファンが現れた。

少しずつ増えていくファン達に、今度は姫プという蔑称も投げつけられたが、*あゆぴっぴ*はファン達にいかなる支援も求めないというストイックな姿勢を貫くことでそれも跳ね除けた。

そのようにして、今の*あゆぴっぴ*はあるのである。

現在*あゆぴっぴ*はネタ扱いをされつつも定着している二つ名は”剛の姫”と”呪殺☆プリンセス”。

「姫」で「プリンセス」であると認められたいるのだ。


「わあっ、カカソーラくんのクランでレイド企画してるんだ。あゆるも応募しちゃおうっと」


 カカソーラの情報収集とレイドの助っ人応募をしてからあゆるはパソコンの電源を落とし、就寝前の準備をしに席を立った。

自己申告の通り、菅井あゆるは早寝早起きのいい子なのである。

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