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64話

 それから数日、要チェックリストのプレイヤーと当たることもなく順調に勝ち点を稼ぎ、ミロさんへのリベンジに向けて特訓に励む日々が続いた。

その間リッドさんの紹介で”コスプレ勇者”こと剣舞士(ソードダンサー)の水月さんとまた会ったり(初代『ドラゴンファンタジー』の布教をめっちゃされた。リマスター版がけっこうお安くてプレイしやすいらしい)、”ツインスネーク”さんとフレンドになってアルカナを紹介したり(アルカナを”イケボ師匠”の二つ名で呼んでそれは止めてと難色を示されていた)といろいろほのぼのした出来事もあったのだが、この辺は省略ということでよろしく。

とにかくそろそろ強敵と当たって特訓の成果を見たいなと思っていたあたりで、推定彼女とのマッチングが成立した。

”剛の姫”または”呪殺☆プリンセス”こと聖者(セイント)の*あゆぴっぴ*さんとの試合である。


「絶好調の呪殺コンボ使い……気を引き締めて行かなきゃね」


 僕は気持ちを新たにして、選手控室から闘技場の舞台へと移動した。

舞台上で向かい合った*あゆぴっぴ*さんは相変わらずのきゃぴきゃぴした仕草で僕に話しかけてくる。


「やっほー☆”ドラゴニアのニューアイドル”・*あゆぴっぴ*だよ!”闘技場のニューヒーロー”さん、今日はよろしくね!!」


「よろしくお願いします、*あゆぴっぴ*さん。”闘技場のニューヒーロー”って、僕のことですか?」


「うん!あゆぴがつけたキミの二つ名だよ。ガンガン使っていいからね☆」


「素敵な二つ名ありがとうございます!でも自分から名乗るのは恥ずかしいので定着するのを待ちますね」


「えーっ!?照れ屋さんだねぇ……”ドラゴニアのニューアイドル”もなかなか定着しないし、あゆぴ悲しい……」


 *あゆぴっぴ*さんも二つ名自称するタイプの人だった。

”剛の姫”や”呪殺☆プリンセス”に比べたら自称の方は穏便で普通に見た目や振る舞いに似合っている。

取り巻きの――*あゆぴっぴ*親衛隊だったか――の人達くらいはちゃんと使ってあげなよ……


「じゃあ自分から”闘技場のニューヒーロー”をアピールするようがんばります、”ドラゴニアのニューアイドル”さん」


「ほんと!?えへへ、カカソーラくんってば優しいね、ありがとう!でも試合では手加減してあげられないの、ごめんね?」


 *あゆぴっぴ*さんは瞳をうるうるさせつつ、勝つ気満々といった風にそう言った。

そういう自信満々の態度は正直嫌いじゃない。

ここは僕の方も堂々とした態度で受けて立とう!


「僕も手加減や油断は一切しませんから、全力でぶつかり合いましょう!!」


「うん!楽しくて素敵な試合にしようね!!」


 そう言って*あゆぴっぴ*さんは指でハートを型取りポーズを決める。

多分観戦している*あゆぴっぴ*親衛隊の人達はここでスクリーンショットを撮ってるんだろうな、なんて考えているうちにちょうどカウントダウンも終了、試合開始だ。


「癒やしの力、チャージ開始♪」


 そう言って*あゆぴっぴ*さんは聖者の強力な継続回復魔法【ホーリーリジェネ】を自らにかける。

モーションはそんな可愛い台詞でも誤魔化しきれない大槌を振り回す荒々しい感じなのだが……

それは置いておいて、これは間違いなくこれから行う呪殺コンボへの布石。

僕も手早く【リロード】によるMPのカートリッジ変換と呪殺コンボ対策の準備を済ませ、*あゆぴっぴ*さんに近接戦闘を仕掛けるべく接近する。


「さっすが、すばやーい!でもあゆぴはもう準備完了だよ。おいで、アガレスちゃん!」


 *あゆぴっぴ*さんが発動したのはデメリットが大きいが強力な攻撃魔法を使いこなすDPS職業・魔神使い(デーモンルーラー)の汎用スキル【東方公爵アガレス】。

鰐に騎乗した魔神・アガレスを召喚し土属性の魔法ダメージを自分を含めた全体に与える攻撃魔法だ。

魔神の見た目はしわくちゃのおじいさんでとてもちゃん付けで呼ぶような感じではないのだが、問題はそこではない。

ダメージそのものは小さく追加効果もないが、この魔法を回避する手段がなく次の強力な魔法への布石になるのだ。

回避できない以上僕はカートリッジを次に来る魔法の対策に温存、【東方公爵アガレス】のダメージをそのまま受ける。


「っ……来るか、呪殺コンボ!」


「そんな怖い名前じゃなくてアガマルすぺしゃるって呼んで!お願い、マルバスちゃん!」


 無茶な要求をしつつ*あゆぴっぴ*さんが発動したのは、自分と敵が同時にダメージを受けたとき即時発動できる特殊な魔神使いの汎用スキル【獅子総裁マルバス】。

雄々しいライオンの姿をした魔神を召喚するその魔法の効果は、自分と敵の両方に複数の状態異常――強力な継続ダメージを与える「猛毒」、戦闘スキルの使用間隔を延ばす「麻痺」、一定時間あらゆる行動を不可能にする「スタン」、攻撃速度を低下させる「ヘビィ」、移動速度を低下させる「スネア」を与えるというもの。

僕と*あゆぴっぴ*さんはそれをまともにくらってその場にうずくまる。

スタンの効果時間は一番短いが、その短い間でも猛毒のダメージは猛烈なスピードで2人のHPを削っていく。


「きっつ……これ汎用スキルで使えていい効果じゃないでしょ……」


「うふふ、魔神使いがそのまま使ったら共倒れ確実のネタ戦闘スキル。でもあゆぴには聖者の癒やしの力があるんだよ!」


 その言葉通り、あらかじめ発動しておいた【ホーリーリジェネ】の継続回復効果が*あゆぴっぴ*さんの猛毒によるHP減少速度を食い止めている。

他のヒーラー職業の継続回復魔法では焼け石に水だが、回復力特化の聖者ならそれなりに持ちこたえることが出来るのだ。

お互いに【獅子総裁マルバス】の効果を受けつつ聖者の専用スキルの強力な回復効果で自分だけ耐え抜く、これこそ一時期大流行した呪殺コンボ!

……はたから見たら両方ともほとんどうずくまったまま試合が進むから絵面が地味!!


「アイドルとはほど遠い戦法だけどいいんですかこれ!?」


「勝利というスポットライトのためなら泥にまみれても構わない……それがあゆぴのアイドル性なの!!」


 よくわかんないけどその執念やよし!

こっちも対策は準備済み、真正面から打ち破ってみせよう。

スタンの効果時間が切れるとともに、僕は【マジックバレット】で状態異常治療魔法【ディスペル】を発動する。

カートリッジの消費は激しいが、状態異常を即時治療できる銃剣士(ソードガンナー)の無二の長所だ。

僕は2つの状態異常を治療し、*あゆぴっぴ*さんに斬りかかる!


「猛毒を解除しても残りHPはちょっと、先にあゆぴの攻撃魔法でとどめを――」


「僕が解除したのは、麻痺とスネアだ!そっちにもう攻撃はさせない!!」


 移動速度と戦闘スキル使用間隔を元に戻し、僕は速攻を仕掛ける。

猛毒は残ったままなのでタイムリミットは短いが、僕の機動力なら十分やれる!


「ここからずっと、僕のターン!!」


「うそっ!?ホントにすばやっ……」


 連撃、連撃、とにかく攻撃!

小人種族であるブラウニーの*あゆぴっぴ*さんをひたすら斬りつけるというこれまた最悪な絵面が展開されるが気にしている余裕はない。

僕のHPが猛毒のダメージで完全に削り取られる一歩手前、ギリギリのところで間に合って、鐘の音が鳴る。

これまで勝った試合の中では最も僅差での勝利だった。


「楽しい試合っていうか緊迫した試合だったけど、いい勝負でした。ありがとうございます!」


「こんなゴリ押しで呪殺コンボを破られたのは初めてだよぉ……でもこちらこそ素敵な試合ありがとね☆」


 ゴリ押しで負けても可愛らしい仕草を止めず、にこやかに*あゆぴっぴ*さんは選手控室へと戻っていった。

うーん、これは”剛の姫”。

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