63話
リッドさんとの試合後もいくつか試合をこなした後、レベル上げとミロさんへのリベンジに備えた「アルカナ虎の穴」に行く時間になったので僕は選手控室を退出して受付へと戻った。
するとちょうど今日闘技場についたとき見かけた目立つプレイヤー――*あゆぴっぴ*さんも退出したところだったようで、また男性キャラクター達に囲まれている光景に遭遇する。
「えへへ、今日もがんばっちゃった!あゆぴの活躍、どうだった?」
「もちろん最高だったよあゆたそ~~~!!」
「あゆたそ応援記事、今日も更新しておくね!」
「”呪殺☆プリンセス”最強!!」
好調だったのか、かなりの盛り上がりである。
少し気になったのでランキングを確認してみると、上位の昇格圏内(僕はここに入れている)からはやや下がるもののなかなかの高順位に*あゆぴっぴ*さんの名前があった。
さらに最近の戦績を調べてみると、今日は全勝。
なるほど、あの盛り上がりも納得である。
そんなことを考えている僕に、話しかけてくるプレイヤーが1人。
「ふふふ、カカソーラくんも*あゆぴっぴ*くんに注目し始めたようだな」
「あなたは……”ツインスネーク”さん!」
「二つ名呼びありがとう。アピールしてものってくれない人多いんだよな……」
”ツインスネーク”さんは少し寂しそうな顔でそうこぼす。
「そうなんですね……ところで僕もってことは、あなたも*あゆぴっぴ*さんに注目を?」
「ああ、何しろ今日まさに負けてきたところだからな!」
堂々とした敗北宣言、この人だいぶ面白い人だな……
しかし一度試合をしたからわかるが”ツインスネーク”さんはなかなかの実力者、それを破った*あゆぴっぴ*さんはやはり注目すべきプレイヤーと見るべきだろう。
「それは要注意ですね。よかったら実際に試合をした観点からの*あゆぴっぴ*さんの印象とか教えてもらえたりしませんか?」
「カカソーラくんは意外と貪欲だな……だがいいだろう、*あゆぴっぴ*くんの一番の特徴は二つ名の”呪殺☆プリンセス”の由来になっている呪殺コンボで……」
”ツインスネーク”さんの所感はわかりやすくかつ細かな点にも行き届いていたので、参考にするべく真剣に聞いた。
一時期は闘技場で大流行もしたという呪殺コンボ、要注意だな……
「なるほど、ありがとうございます。とても参考に……」
「じゃああゆぴはここでログアウトするね!」
「もうそんな時間!?寂しいよあゆたそ~~~」
*あゆぴっぴ*さん一行の盛り上がりが耳に入ってきたので、思わず振り返る。
「ごめんね、みんな……でもあゆぴはいい子だから早寝早起きなの!」
「あゆたそえらい!」
「俺達も見習って健康的な生活を送るよ!」
「おやすみあゆたそ~~~」
取り巻きのプレイヤー達に見送られながら*あゆぴっぴ*さんはログアウトしていった。
この時間帯に寝るのは早寝早起きを通り越してお子様のような気がする……なんて考えていると、”ツインスネーク”さんがさらに解説を付け加える。
「そういえば*あゆぴっぴ*くんの試合のログを見た感じ夜遅くはあまりログインしていないようだな。一番多いのは平日の午後と土日……まるで子供のゲーム時間だ」
「へえ……そういえばDFOって年齢制限ないから小学生とかでもプレイ出来るんでしたね」
「まあ引きこもりとかなら何歳がどんなスケジュールでログインしててもおかしくないがな!」
”ツインスネーク”さんが身も蓋もないことを言う。
確かにリアルのスケジュールは人それぞれだし、*あゆぴっぴ*さんのリアルがボイスチェンジャー使ってるおじさんの可能性もあるんだよな……
なんだか複雑な気分になって、取り巻きのみなさんを見つめる。
すると僕の複雑な表情に気がついたその中の1人が、こちらへ話しかけてきた。
「君……今俺達のことを憐れみの目で見たな?」
「へっ!?いや、そんなつもりじゃ……」
「いいや、会話も聞えていたからわかる!中の人がおっさんかもしれないのにこの人達いいんだろうかと思っていただろう!?」
「そうだそうだ!いいか、そんなことは余計なお世話だ!!」
「俺達はそんな可能性も受け入れたうえで、あゆたそという偶像を崇拝しているんだ!」
他の取り巻きのみなさんもやって来て、熱い思いを語り出す。
崇拝って、なんかすごいことになってきたな……
「ええっと、プレイヤーのリアルは関係ないってことですか?」
「そうだ!俺達が崇拝しているのはDFOの世界に作り出されたあゆたそという幻想!!」
「よく言われるがアイテムを貢いだりなんかもしていない、あゆたそはその辺厳しいんだ!」
「リアルとゲームをきちんと切り離したうえで楽しんでるんだ!」
「というかマジで女の子だったほうがいい大人がちっちゃい女の子に夢中になってる姿を見せつけてることになってマズい!」
そういうものなのか……
僕は失礼をしたことをきちんと取り巻きのみなさんに謝って、”ツインスネーク”さんにもレイドの募集の変更の件と別れを告げて闘技場を立ち去った。
*
「リアル女児だったらマズいと思いつつ追っかけしてるのは良くないんじゃないかな」
「それはそうだね……」
今日あったことを聞いたアルカナの反応がこちら。
「かわいい子の中身はおっさんがネットの基本だけど、DFOは相手が子供の可能性も高いからそこをちゃんと考えて付き合わなきゃね」
「誰に対しても礼儀正しくが安心だね」
「まあ聞いた感じなんだかんだで子供に聞かせられないことは言ってないみたいだし、*あゆぴっぴ*さん達のことは見守りつつヤバいと思ったらハラスメントで通報かな」
僕はアルカナの提案に深くうなずく。
守ろう、良い子でも楽しく遊べるDFO。
「そういえば応援記事も書いてるって言ってた。公式コミュニティサイトで書いてるなら検索すれば見つかるかな?」
「ちょっとチェックしてみようか。実際見てみた方がライン越えてないか判断出来るだろうし」
僕はウィンドウを開き公式コミュニティサイトに接続、投稿されている記事の中から「*あゆぴっぴ*」で検索をかけてみる。
すると「*あゆぴっぴ*の闘技場挑戦記」と題された一連の記事がすぐに見つかり、アルカナと一緒にどんなことが書かれているかチェックしてみた。
『こんばんは!*あゆぴっぴ*親衛隊広報担当のゆきまるです。
今日もあゆたその大活躍をみなさんにお知らせします。
さてさて、今日もあゆたそは絶好調!たくさん勝ち点を稼ぎました☆』
そんな感じの文章と試合中の*あゆぴっぴ*さんのスクショ(めっちゃがんばって聖者のゴツいモーションがわかりにくいタイミングで撮影してある)が並ぶ記事は、特に問題は無いように思えた。
記事のコメント欄もおそらく*あゆぴっぴ*親衛隊なる組織のみなさんのコメントで大盛況だったが、「がんばれあゆたそ!」「いつも応援してるよ!」などの健全なコメントばかり。
「これは大丈夫そうなんじゃない?」
「うん、心配だったけど問題ないと思う。おじさん構文くらいは覚悟してたんだけどそういうのもないし」
アルカナのお眼鏡にも叶う健全なファン活動だったようだ。
「取り巻きに頼らず闘技場参加なんてエンドコンテンツにも挑んでるし、*あゆぴっぴ*さんはとても姫プとは呼べない立派なプレイヤーだね」
「そうなると実際の姫プって呼ばれるようなプレイヤーのことが気になってくるかな。プロデューサーさんが昔サークラされたって前に言ってた話とか」
「きみはそんなMMOの闇は知らなくていいよ……」
アルカナにそうたしなめられて、僕はレベル上げと特訓に向かった。




