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60話

「……おれの負けだ。悔しいけど、あんたを認める」


 リンさんは震える声で、ぽつぽつと、しかしきっちりと勝敗を受け入れた。

元々は恋のライバルを徹底的にぶちのめしてやるぜ!くらいのテンションだった僕だが、一度全力でぶつかりあった後では少しリスペクトの心も湧いてくるというもの。

選手控室に戻されるまでの短いこの時間では伝えきれないそれを届けるためにも、僕はリンさんにこう提案した。


「いい勝負だったよ。よかったら一旦退出して話さない?」


「わかった……負けた以上、つけなきゃいけないけじめがあるよな」


 頑なな態度であるが、リンさんが提案を受け入れてくれたところで僕達はそれぞれの選手控室に戻された。

僕は深呼吸をして試合の後の昂った気持ちを鎮めてから、選手控室も退出して闘技場の受付に戻る。

そして僕を迎えてくれたのはアルカナと兼光くんと……なんか初対面のドワーフの女性キャラクター。


「カカソーラかっこ良かったよ!さっすがわたしの彼氏!!」


 アルカナは僕に抱きつかんばかりの勢いで飛びついて、ご機嫌で賛辞の言葉をくれる。


「空中ジャンプびっくりしました、あれがアルカナさんとしてたっていう特訓の成果ですか!?」


「うん、もうちょっと温存しておきたかったんだけどね」


「こんなすぐに新しいテクニックを身に付けて実戦で披露するなんて、すごすぎます!!」


 兼光くんも大興奮で駆け寄ってきて大袈裟に褒め称えてくれる。

なんかちょっと照れるな……と思っていたところに、初対面のドワーフさん――頭上の表示によるとぽぷらさんも僕に話しかけてくる。


「素晴らしい試合だったね。あたしはアルっちの友達のぽぷら、試合相手さんとの事情も聞いたけど、やるじゃん彼氏くん!」


「えっと、どういたしまして……あれ、もしかして”高機動型吟遊詩人(バード)”のぽぷらさんですか?」


「いえす、そう呼ばれちゃってるぽぷらさんだよ。気安く好きな呼び方で呼んでね、あたしもきみをカカっちって呼ぶよ」


 そう言ってぽぷらさんは握手を求めてきた。

僕がそれに応じるとにっこり笑ってこう続ける。


「うん、これであたしとカカっちも友達だね!今後ともよろしく~」


「よ、よろしくお願いします……」


 なんというか、すごくフレンドリーな人である。

ルピナスさんもかなりフレンドリーな人だが、この人はそれ以上にぐいぐい距離を詰めてくるというか……


「ぽぷらさん、わたしの彼氏だからね?」


「あはは、もちろんわかってるよ。あたしもそこまで図々しくないって」


 予想通りアルカナも釘を刺してくるし。

面倒なことが起きないようにするためにもぽぷらさんとの挨拶はこの辺にして、僕は退出しているはずのリンさんを探す。

あたりを少し見回したところで、気まずそうに僕達を眺めていたリンさんを発見した。

ちなみに現在の僕の状況は、アルカナに抱きつかれつつぽぷらさんと握手し兼光くんに憧れの視線で見つめられている感じ。

うん、話しかけづらいな!


「あ、リンさんごめん待たせちゃって……」


 そう言いつつ僕はぽぷらさんとの握手をやめ、アルカナにも一旦離れてもらう。

少し不満そうな表情をしたアルカナだったが、リンさんに気づいて事情を察したのか、ドヤ顔をしつつ腕を組んでリンさんの方を見てこう言った。


「リンさん、これで決着はついたよね?カカソーラに対して言わなきゃいけないことがあるんじゃないかな」


「アルカナ、もうちょっとやわらかい言い方で……」


「いいんだ、カカソーラ……さん。いろいろ失礼なこと言って、ごめんなさい。憧れてるアルカナさんにいきなり親しげな人が現れたから、嫉妬してた……もうあんたにちょっかいかけたりしない、あんた達のれ、恋愛も大変だろうけど応援するよ」


 リンさんは心のこもった声で、真剣に謝ってくれた。

これにはアルカナも満足気にうなずいていた。

よし、これなら僕とリンさんの和解だけじゃなくてアルカナとリンさんの和解もいけそうだ。


「リンさん、きちんと謝ってくれてありがとう。僕は最初からそんなに気にしてないし、大丈夫だよ。これからはよろしくね。アルカナも、これでまたリンさんと仲直り出来るよね?」


「そう、だね。ちゃんと謝ってるのに認めないのは大人げないし……リンさん、よかったらまた友達としてよろしく」


 アルカナはかがんで、リンさんに握手を求める。

それにリンさんはおずおずと応えて、きゅっとアルカナの手を握った。


「アルカナさん、ありがとう。カカソーラさんも、いっぱい生意気なこと言ったのに……おれ、これから2人のためならなんでもする!男同士で大変な2人にどこまで力になれるかわからないけど、出来る限り応援するから!!」


「……」


「……」


「リンさん……!よかったですね、恋のライバルが頼れる味方になりました!!」


「あれ、アルっち……この子達にちゃんと話してない?」


 そうだったよ!

リンさんはアルカナの性別のこと誤解してるし、そんな気はしてたけど兼光くんも誤解してた!!

アルカナは死んだ魚のような目をして、ボイスチャットの設定をいじり僕、アルカナ、兼光くん、リンさん、ぽぷらさんのチャットグループを作る。


「ちゃんと言ってなかったから仕方ないんだけどさ……わたし、リアルの性別は女だから」


「えっ」


「えっ」


 兼光くんとリンさんはあっけに取られた顔をする。


「あたしは前に教えてもらってたよ~まあアルカナは声も中性的で勘違いしてるファンも多いから仕方ないよね!」


「僕は元々リアルでの知り合いっていうか彼氏です」


 数秒の沈黙。

そして会話モードの設定などない現実なら闘技場全体に響き渡ったであろうリンさんの絶叫。


「嘘だぁぁぁーーーーーー!!!!」


 意味はないと知りつつもつい耳をふさいでしまう大声だった。


「アルカナさんが、女の人……つまり初恋の人は非実在……そしてわたしは、普通のカップルの彼女さん相手にわたしの方が相応しい宣言を……?」


 ロールプレイを維持できなくなって普通の女の子口調になったリンさんが、遠い目をしながらぶつぶつと虚空に向かってしゃべり続ける。

初恋だったんだ……それはまあ、ショックだよね。


「ご、ごめんなさい、アルカナさんにカカソーラさん。おれもずっと誤解を……!」


 兼光くんの方は驚きながらもショックはそこまで受けていないようで、あたふたしながら僕達に謝る。


「うん、いいよ。ちゃんと言ってなかった僕達が悪いし」


「……前々から思ってたけど、わたしそんなに男っぽく見える?男性キャラクターは使ってるけどボイスチェンジャー使ってないし、口調も普段通りなんだけど」


「えっと、見えます」


「女性人気ダントツのイケメンキャラクターに見えるね!」


「正直僕よりカッコ良くて不安になります」


 兼光くんとぽぷらさんと僕の答えに、今度はアルカナがショックを受ける。


「そんな……えっ、じゃあリアルではどうなの!?リアルわたしはどう見えてるの!?」


「そこはちゃんとどこから見ても美少女だから安心して」


「美少女……美少女相手にわたしはイケメンと思い込んであんな態度やこんな態度を……?」


 おっと、アルカナをフォローする言葉がリンさんに流れ弾。


「リンさん落ちついて。素顔がわからないネット上の交流じゃ仕方ない勘違いだよ、多分」


「うう……フォローありがとうカカソーラさん。でも、やっぱりわたしの初恋~~~!!」


 その後リンさんをなんとかなだめるのに時間がかかったので今日の闘技場挑戦はお開きとなった。

まあリンさんと和解してフレンド登録やクランの話も出来たし、一応めでたしめでたしかな?

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