59話
闘技場の舞台、対峙する僕とリンさん。
カウントダウン終了までの時間が妙に長く感じるほど、僕の気持ちは逸りだしている。
なんといってもアルカナを巡る恋のライバル――向こうは多分性別を勘違いしているし、アルカナもとい秘ちゃんの気持ちがどっちに向いているかといえば100%僕なのでライバル関係が成立していないといえばいないんだけど――との闘い。
彼氏として絶対に負けられない闘いである。
「どうも、リンさん。こんなに早く対決の機会が来るなんてね」
「ふん、好都合ってやつだぜ。あんたがおれより先に別のやつに負けちまったのは残念だったけどな」
リンさんの方も逸る気持ちは同じらしく、好戦的な表情を浮かべながら僕を煽る。
「だからっておれが油断してくれるなんて都合のいいことは考えるなよ?おれが直接あんたをぎったんぎったんに叩きのめしてこそ、どっちが上かを証明できるんだから」
「ええ、こっちこそ全力のあなたを叩きのめしてどっちがアルカナの恋人に相応しいか見せつけてみせますよ。ちょうど今日はアルカナも試合を観に来てくれてるしね」
「えっ、アルカナさん来てるの!?……こほん、ちょうどいいぜ。アルカナさんの目の前でおれの実力と本気の想いを見せてやる!!」
リンさんは魔導師の武器・魔杖を高く掲げてそう宣言する。
リンさんもリンさんなりに、本気でアルカナを想っているのだ。
それ故に、完膚なきまでに叩き潰さなければ恋人として気が済まないというもの。
「僕だって、2人の愛の力ってやつを見せてやるよ!!」
僕も銃剣士の武器・ソードバレルを掲げ受けて立つ。
そしてタイミング良くカウントダウンが終了し、試合が始まった。
「行くぞ!!」
僕とリンさんの声が重なり、それぞれ戦闘スキルを起動する。
僕は【リロード】でMPをカートリッジに変換、そして覚えている前衛系職業の汎用スキルを次々に使用し、自分の攻撃能力を高める。
リンさんは魔導師の専用スキル【スピードキャスト】と【フォースキャスト】を使用。
前者は魔法の発動速度を速める効果があり、後者は攻撃をくらっても魔法の発動を妨害されなくなる効果がある。
つまりこちらの攻撃をいくらか受けつつ、それ以上に強力な上級魔法を発動して押し勝つつもりだ!
「だったら、速攻で削り切ってやる!」
「出来るもんならやってみな!」
リンさんは自信満々だった。
僕の銃剣士は万能型よりの性能をしているとはいえタンクだから攻撃力がずば抜けて高いわけではない。
それでも全種族でもっとも打たれ弱いブラウニーかつ全職業でもっとも防御性能の低い魔導師であるリンさんがここまで自信満々に受け切るつもりでいるということは、何か策があるはずだ。
事前にチェックしたリンさんの試合動画、アルカナの職業講座で学んだ知識を総動員して打ってくる手を予測する。
もちろん思考にかまけて動きが鈍れば本末転倒、それはそれとして接近して斬りかかるのも同時進行だ!
「はあぁぁぁ!!」
僕の攻撃をくらったリンさんの小さな体は、本来なら吹き飛ばされるところを【フォースキャスト】の効果で踏みとどまり魔法の構築を続行する。
そして一発目のリンさんの魔法がついに発動した。
「行くぜ、初手から全力だ!【エクスティンクション】!!」
【エクスティンクション】――炎と氷、2つの属性を組み合わせた複合属性魔法で設定上はありとあらゆるものを「消滅」させる究極の攻撃魔法。
ゲーム内での効果も絶大で中級者ランク・プルミエのレベル帯で使える魔法では最強の威力を持ち、さらにあらゆる防御系バフを無視する特殊効果を持っている。
つまり僕の使える全ての防御系戦闘スキルは無意味、大ダメージをそのまま受けるしかない。
「なんのこれしき!」
僕は【マジックバレット】で聖者の回復魔法【ヒール】を即時発動、大勢を即座に立て直し攻撃を再開する。
普通のタンクなら【エクスティンクション】の連発で削っていくのが最効率だが、回復もできる銃剣士には分が悪い。
だからリンさんが次に発動しようとする魔法はおそらく――
「わかってるって顔だが、わかってても対処しきれないのがここからだ!【アプシントス】!!」
発動した魔法は予想通り【アプシントス】――水と土と闇の3つの属性を組み合わせた複合属性魔法。
呪われた星を召喚し、範囲内の敵に大ダメージと猛毒状態を与えるこちらも強力な魔法だ。
これをくらってしまうと立て直すには【マジックバレット】で【ヒール】だけでなく状態異常を治療する回復魔法【ディスペル】も使わなければならない。
そうなると……カートリッジを使い切ってしまうことになる。
【リロード】でカートリッジを再補充するにはMPを消費する必要があり、あと1回くらいなら余裕があるものの、このままいけば【マジックバレット】を使った立て直しが出来なくなりリンさんの狙い通り押し負けてしまうことになる。
「さあ、ニガヨモギの毒をくらいな!!」
勝ち筋に入ったと確信したリンさんが【アプシントス】を完成させ、上空から呪われた星が迫る。
このままリンさんの策を覆す方法は――この強力な範囲魔法を回避すること!
僕はギリギリまでリンさんを攻撃しながら回避のタイミングを探る。
【アプシントス】の演出のうち落ちて来る呪われた星はダミー、攻撃判定は地面に着弾後発生する影の沼に触れると発生する。
僕は呪われた星が地面に着弾するその瞬間、高く跳び上がった。
「なっ、無駄なあがきを!ジャンプの滞空時間じゃ【アプシントス】は避けきれないぜ!」
リンさんは一瞬驚いたが、すぐに調子を取り戻す。
その通り、ジャンプの滞空時間は影の沼の発生時間より短く、これでは【アプシントス】は回避できない……普通のジャンプなら。
僕は跳び上がって最高高度に達したその瞬間――もう一度踏み込む!!
「そんな馬鹿な――」
「VR適正が無くても練習すれば出来るっていうんなら、僕が練習すればもっと高みに行けるよね!」
僕は空中で再び跳び上がり滞空時間を延長、無事【アプシントス】を避けきった。
これが「アルカナ虎の穴」で練習したテクニックの1つ、タンク空中ジャンプ。
銃剣士の装備は重鎧なのでかなり空中ジャンプの難易度は高いのだが、エルフの高い敏捷力による補正と僕のVRの体を完璧に使いこなせる特性があればがんばればいけるじゃね?というアルカナの発案で練習しておいたのだ。
本当ならミロさんとのリベンジ戦まで隠しておきたかったけど……恋のライバルに勝つためならここで披露もやむなしだ!
「あなたの必勝の策は破ったよ!」
僕は落下しながら次の攻撃に移るため戦闘スキルの入力動作を行いそう叫ぶ。
リンさんは一瞬だけ悔しそうな顔を見せ――即座に闘志を蘇らせる。
「それでもまだ、勝負は終わっていない!」
戦術を詠唱時間の短い魔法の連発に切り替えて、果敢に僕に立ち向かうリンさん。
しかし詠唱時間の短い魔法はその分威力や追加効果が弱いものだ。
それならカートリッジ消費の少ない【スチールジャケット】などの防御系戦闘スキルで十分対処できる。
試合の流れは、完全に僕の方へと傾いた。
「まだ……それでもまだ!!」
声を震わせながら、それでもリンさんの闘志は衰えなかった。
武術を嗜む者として、その姿に敬意を覚えてしまうほどだ。
だから僕は「恋のライバル」としてだけでなく、「戦士」への礼儀としてリンさんを全力で叩きのめすと改めて心に誓う。
「リンさん、これで、終わりだ!!」
一閃。
鳴り響く鐘の音。
闘いは、僕の勝利に終わった。




