58話
「これで終わりだ!【マナバレット】!!」
「くっ!この”ツインスネーク”の弦十郎をも破るとは……流石期待の新人、見事!!」
初心者ランクのカドリーユのときほど楽勝というわけにはいかない中級者ランクのプルミエ。
しかしそれでも今日のところは順調に勝利を重ねることが出来ている。
今闘った”ツインスネーク”さんはぶっちゃけ要チェックリストには入ってなかったけれど、二刀流という職業の複雑なコンボルートをしっかりと使いこなしていてなかなかの強敵だった。
「二刀流の戦い方、参考になりました。僕も二つ名を付けてもらえるようにがんばります!」
「二つ名が欲しいんだったら自分で名乗っておくのが一番早いぞ。何を隠そう俺の”ツインスネーク”も自称だ」
「自称アリなんですか!?」
”ツインスネーク”さんは堂々としたキメ顔を残して去っていった。
確かにミロさんみたいにカッコいいけど不本意な二つ名をもらうのを避けることも出来るし自称もアリといえばアリなのか……
僕にはそこまでする勇気はないので二つ名を付けてもらえるのを待つことにするけど。
*
「カカソーラさんまた勝ちましたよ、絶好調ですね!」
「うん、プルミエならまだ上位のプレイヤーと当たらなきゃDFO経験の少なさはカカソーラのすば抜けた近接戦闘技術で補えるみたいだね」
リアルタイムで試合動画を視聴しながら応援する兼光とアルカナは上機嫌でカカソーラの活躍を見守っている。
今日は他の《ヴォワヤージュ=エトワール》メンバーも調子が良く、普段はいまいちな成績のMEIも大奮闘、ピンクのゾウの着ぐるみが大鎌を振るい激闘を繰り広げる姿はそこそこ見応えがあった。
「MEIさんもがんばってますね。絵面はアレなんですけど……」
「そんなつもりはないだろうけど試合相手のメンタルに効果あるよね着ぐるみって」
そんなことを話しつつ、アルカナは新しくウィンドウを開き闘技場のランキングを確認する。
カカソーラがミロに敗北したのがまだ初日のことでそれほど多くの勝ち点を失ったわけではなかったこともあり、現在のカカソーラの順位は上位、昇格圏内だ。
近くにはリッドと水月の名前もあり、ミロは総試合数が少ないせいでやや下がった位置にいる。
そしてアルカナはあまり見たくなかった名前――リンの名前もその近くで見つけた。
リンの試合履歴を確認してみると、今まさに連続で試合をしている真っ最中のようだった。
調子はカカソーラ同様に好調、着々と勝ち点を稼いでいる。
あんなことがなければ良かったねとお祝いしてあげるくらいには上手くやってたんだけどな、とアルカナはリンとの間にあったこれまでの出来事を振り返る。
自分にただ憧れるだけじゃなく、ついていけるように必死に努力できるところはそれなりに評価していた。
それでもカカソーラ――天に対して喧嘩を売ったのは絶対に許せない。
ライバル宣言なんてしてくれたわけだし、彼にぎったんぎったんに負けてもらわなくちゃ。
そんな邪悪な笑みがもれかけているアルカナに声をかける一人のプレイヤーがいた。
「あ、アルっち最近闘技場でよく観戦してるって噂本当だったんだ」
「アルっち……ってアルカナさん、知り合いなんですか!?」
気安い空気で話しかけてきたそのプレイヤーに兼光は驚愕した。
なぜならそのプレイヤーは最高ランク・エトワールの注目株として彼もチェック済みの人物――”高機動型吟遊詩人”ぽぷらだったのがひとつ。
もうひとつはドワーフの女性キャラクターであるぽぷらがバニーガール風のコスチュームを着ていたからである。
DFOは小学生でも安心して遊べるゲーム、バニーガール風といっても露出は控えめのデザインなのだが……リアルは男子中学生である兼光の妄想力がその威力を勝手に高めていたのだった。
「うん。まあこの人が誰にでもあだ名を付けて呼ぶフレンドリーな人ってだけで何回か話したことがある程度の関係なんだけど……基本ソロでやってるぽぷらさんだよ。兼光くんもご挨拶」
「どもどもー、ぽぷらさんだよ。よろしくね兼光くん、兼っちって呼んでもいい?」
「へっ、かねっち!?えっと、大丈夫です、よろしくお願いしますぽぷらさん!」
兼光はあたふたしながらお辞儀をする。
「えへへ、ご丁寧にどうも兼っち。……で、アルっち。噂の新星くん以外の子も連れてるなんてまたファンを騒がせるつもりかな?」
「冗談。兼光くんはあなたの言うところの噂の新星くん――カカソーラのファンで、たまたま一緒に応援に来ただけだよ」
「はい、カカソーラさんと同じクランでサポートさせてもらってる者です!」
2人の言葉を聞いたぽぷらは少し考えてから、両手を小さく挙げる仕草をする。
「うん、じゃあこのネタはここまでにしよう。それであたしはまあ闘技場に参加しに来たわけだけど、始める前にちょっとカカソーラくんの試合も観ていこうかなって気分に今なっちゃったりして」
「ならちょっとと言わずがっつり観ていきなよ。カカソーラは強いからね!」
「はい!今日は特に調子もいい感じですよ」
「わーお、こんな応援が2人もついてるなんて羨ましいなカカソーラくん」
そんなことを言いつつ、ぽぷらもウィンドウを開いてカカソーラの試合動画を表示する。
奇しくもカカソーラの現在の試合相手は、ぽぷらと同じ吟遊詩人だった。
吟遊詩人は遠距離攻撃と強力な補助系戦闘スキル・魔歌を得意とする職業だが、試合ではカカソーラが上手く近距離戦闘の間合いを維持し、試合を有利に運んでいる。
「遠距離攻撃得意な職業は闘技場の間合いだとやっぱりちょっと不利だよねぇ。特に吟遊詩人はマニュアルモードの入力動作が激ムズだから」
ぽぷらはにまにまと笑いながらそれを眺めている。
「そうなんですか?アルカナさん」
「うん。セミオートモードなら他の職業と同じで戦闘スキルを選択すれば発動できるけど、使用後の隙が大きくなる。かといってマニュアルモードにしたくても、吟遊詩人の戦闘スキル入力動作は指定されたメロディの演奏だからね」
「それって楽器……バイオリン出来なきゃ無理じゃないですか!」
「そうだよ。割とよく口汚いお便りを送られてるポイントだね」
アルカナは半目になりながらそう解説した。
日村Pってたまに変なところでリアリティ追求しちゃうんだよな……と心の中でぼやきも付け加える。
「あはは、まあその壁を乗り越えたらあたしみたいにちょっと悪さ出来るようになるんだけど……この吟遊詩人ちゃんの腕前だときびしいね」
ぽぷらのその言葉通り、試合はカカソーラ有利のまま進み、ついには彼のコンボ攻撃が決まって終了した。
アルカナは自慢気に腕を組み、ぽぷらに話しかける。
「どう、うちのカカソーラは?言った通り強いでしょ」
「うーん、そうだね。今回は相手がちょっと不足気味だった気がするからもう1回試合観てから考えさせて……ほら、もう次の試合のマッチングに入ったっぽいし」
ぽぷらの口調から若干軽さが消える。
相手が不足気味、などと言いつつカカソーラを「真剣に実力を図るべき相手」と認める程度には先程の試合で彼の実力を認めたようだった。
それがわかるので、アルカナもひとまずその回答に満足しカカソーラの次の試合を待つ。
少しして表示された試合相手は――なんとリンだった。
「アルカナさん、恋のライバル対決が実現しちゃいましたよ!」
「えっ、恋のライバルって何?なんか絶対面白そうなことがあったじゃん?」
「ふふふ、そんな大した話じゃないけどね……さあ、やっちゃってカカソーラ!!」




