57話
その日の昼休み、いつも通り秘ちゃんと一緒に昼食を取りながら視聴した《ヴァンガード》の動画の感想を伝えた。
「新しい動画観たよ。今回も楽しそうだったし、本番の動きはレイドやったことない僕でもわかるくらい上手ですごかったね」
「もう観たの?楽屋裏シリーズはちょっと恥ずかしいところもあるから複雑なんだけど、とりあえずありがとう。そういえばレイド挑戦してみようって話、どうする?本当にやるならそろそろクランのみんなにも提案しておかなくちゃ」
そうそう、ちょうどゴールデンウィーク、秘ちゃんが動画のレイドに挑戦しているとき僕もレイドに興味が出てきたという話をしたのだ。
「やる!まだ闘技場のシーズン真っ最中だけど、みんなの予定を合わせるなら今のうちから相談しなきゃだもんね。とりあえずSNSで簡単に伝えておこうか」
「OK。じゃあわたしから送っておくね」
秘ちゃんは端末を取り出して操作する。
入力し終わると僕の端末にSNSの通知が入ったので一応確認。
『アルカナ:企画提案するよー
闘技場のシーズン終わったらレベル50のミニレイド行ってみない?
足りない2人はわたしが助っ人探して来るから』
まだ昼休みは時間があるし、クランのみんなもすぐ反応をくれるだろうと思いSNSの画面を開いたまま秘ちゃんと雑談を続ける。
「あと動画の途中でファンスレの話出て来たじゃん?それもちょっと調べてみたんだけど……」
「そんなところまで見たの!?」
「見ました。なんかたくましい人達だったね」
「あー……自分で言うのもなんだけど、なんかわたし達よりもっと年下の女子にアルカナがモテちゃってるみたいで……変な盛り上がり方してるんだよね」
秘ちゃんは少しうんざりしたようにそう語った。
僕としてはイケメンなアルカナに秘ちゃんの中性的な声がついて、ハマっているゲームで大活躍しているのを見たら女子がときめいてしまうのは無理もないと思っている。
まあその彼氏が僕なんだけどね!
「炎上はしてなかったから安心したけど、変な人につきまとわれたりしてないかは不安になったかな」
「今のところそこまでヤバい人は来てないかな。来ても即通報するし」
「それならいいけど……っともう反応来たみたい」
端末に通知が来たので、再び画面を確認する。
『ルピナス:面白そう!!
そのレベルのミニレイドなら難易度も低いしね
MEI:レイド初挑戦のカカソーラくんと兼光くんでも安心ですね
兼光:そうなんですね
だったらおれもやってみたいです
シリウス:俺も行ける
でも足りないメンバーについては別の案がある』
うれしいことにみんな乗り気のようだ。
しかしシリウスさんのいう「別の案」とはなんだろうか?
僕もSNSに書き込んで詳細を尋ねてみることにした。
『カカソーラ:みんな乗り気でうれしい
@シリウス
別の案ってなんでしょう?
シリウス:今ルピナスが作ってるものが関係あるんだけど
@ルピナス
説明よろしく
ルピナス:説明まかせろー
ボクもそろそろみんなに話そうと思ってたところなんだけど
公式コミュニティサイト使ってうちのクランの紹介ページ作ってるんだ
アルカナ:いつの間にそんなことを
MEI:余計なこと書いてないでしょうね?
ルピナス:公開前にみんなにもチェックしてもらうから安心したまえ
それで、そこのページ使ってレイドの助っ人とか新メンバーも募集できるわけね
シリウス:つまり《ヴォワヤージュ=エトワール》のメンバーそのものを増やすのはどうだ?』
新メンバー。
まだ考えたこともなかったが、そういう選択肢もあったか。
「新メンバーだって、せっかく探すならこれからも仲良く出来る人の方が確かにいいかも……秘ちゃんはどう思う?」
「うーん……わたしはちょっと悩むな。理由はみんなにも伝えたいからこれからSNSに書き込むね」
秘ちゃんに言われた通り、SNSをチェックする。
『MEI:2人増やして8人になれば今後別のコンテンツに行くとしても便利になりますね
ルピナス:でしょでしょ!
アルカナ:わたしは新メンバー募集は慎重に行きたい
カカソーラが公式の動画にも取り上げられて予想以上に注目されてるからね
下手に募集かけたら応募いっぱい来ちゃうんじゃない?
シリウス:言われてみればそうか
急に覚えられなくなるくらいメンバー増えると困るな
兼光:確かに……クランの雰囲気も変わっちゃいそうですし
ルピナス:ふむふむ
じゃあ今回は助っ人の募集だけするとして
とりあえず今日クランハウスに集まって作ってるページ確認しよっか?
アルカナ:助っ人を募集で探すのはOK
ページ確認も了解
カカソーラ:今日闘技場行く前に寄って行きますね』
「応募がいっぱい来ちゃったらどうするかは確かに考えてなかったよ」
「《ヴァンガード》も何回か一緒に遊んだ人からスカウトって形でメンバー増やしてるからね。良好な人間関係のためにもクランメンバー集めは慎重に行こう」
秘ちゃんは真剣な表情でそう言った。
オンラインゲームの人間関係については僕よりもはるかに経験値がある彼女がそんな風に語るからにはその通りなのだろう。
《ヴォワヤージュ=エトワール》がサークル崩壊とかしたら悲しいもんね。
*
その日の夜、つつがなく一日を過ごした後のDFOタイム。
約束通り僕とアルカナは闘技場に行く前にクランハウスを訪れた。
クランハウスには既にシリウスさん以外のメンバーが揃っていた。
「こんばんはー、お待たせしちゃってました?」
「こんばんは!待ってないから大丈夫だよ。シリウスももうすぐ来るはずなんだけどなー」
「まあ彼ならリアルで何かあったんじゃなければ大丈夫でしょう」
そんなことを話しているうちに、クランハウスの扉が開きシリウスさんもやって来た。
「悪い、ちょっと弟に相談事されて遅くなった。もう始めたか?」
「シリウスさんこんばんは。僕達も今来たところなんで大丈夫ですよ」
「そうだよ。っていうかシリウスさん弟いたんだ」
「いるんだねー、ちなみに僕は9人兄弟の末っ子だよー」
「えっ、9人!?」
ルピナスさんもまさかの家族構成に僕と兼光くんの驚きの声が重なる。
「適当な設定追加しないでください」
「えー、本当だよ。ねえシリウス?」
「マジです。こいつの父親なんというか、元気な人で……」
本当らしかった。
ボクっ娘ウサ耳が性癖で9人兄弟の末っ子ってルピナスさんもだいぶリアルで濃い人だな……
「まあそれはそれとして、これが完成ほやほやの我が《ヴォワヤージュ=エトワール》のクラン紹介ページだよ!」
自分で放り投げた話題を置き去りにして、ルピナスさんはウィンドウをみんなの前に広げる。
そこにはシンプルな作りだがルピナスさんの高いスクショ技術で撮影した画像をふんだんに使った、明るい雰囲気の紹介ページがあった。
「闘技場をやりたい!という人が集まったクランです」「ノルマ無しでまったりプレイ中」などの紹介文もいい感じに書けていると僕は感じた。
「いいじゃないですか!すごく楽しそうに見えますよ」
「ルピナスくんのことなのでどこかでふざけるかと思いましたが……これには文句なしですね」
「ボクだってたまには真面目100%でやるんだよ?」
「本当に珍しく真面目にがんばってたから今日は褒めてやってほしい」
シリウスさんのお墨付きも出たので僕と兼光くんは拍手や口笛も交えてルピナスさんを褒めまくった。
ルピナスさんはそれを満足気に受け取ってくれるのでこちらも褒め甲斐があるというものだ。
「ふはは、じゃあみんな、このページを公開するってことでいいかな?」
もちろん全員うなずいて、《ヴォワヤージュ=エトワール》の紹介ページは全世界に公開された。
続けて今度はアルカナがミニレイドの助っ人募集文を作成した。
「これでよし、っと。じゃあミニレイドのことはこの辺にして、これからみんなで闘技場行きますか!」
アルカナの呼びかけにみんなが応える。
「今日はおれも応援に行きますね!」
「ありがとう、兼光くん。今日もがんばるよ」
僕らの本分は闘技場、目標達成目指していざ行かん!




