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55話

挿絵(By みてみん)


 同日、とある地方都市の一軒家。

この家の住人である高校1年生の少年・手塚求(てづか・もとめ)――DFOでのリッドは、高校3年生の姉・手塚希(てづか・のぞむ)――DFOでのミロの部屋をノックした。

希は今年受験生であり、近隣で一番高偏差値の大学に進学するため受験勉強に励んでいる。

自他共に認めるシスコンである求はそんな姉のために差し入れのココアを持ってきたのである。


「姉さん、ココア入れて来たから部屋入ってもいい?」


「どうぞー」


 整理整頓された希の部屋に入ると、彼女は筆記用具を一旦置いて、大きく伸びをしていた。

少し休憩をすることにしたようだ。

地味な部屋着を身にまとっていても、愛する姉は今日も美しい。

三つ編みにまとめた髪は艷やかだし、ぱっちりとした瞳にはまつげもビシバシだ。

少々キツ目の顔立ちと言われることもあるが、そこがいいんだろ!と求は思う。


「調子はどう?姉さんならあんまり無理しなくても大丈夫だと思うんだけど」


「まあね、この前の模試の結果も上々だったし。でもがんばってるところアピールしなきゃDFO禁止されちゃうじゃない?」


「高校受験のときは実際禁止されてたもんね」


 手塚家は仕事で世界中を飛び回り滅多に家に帰らない父と1人で家事と育児をこなしながら趣味も大切にするパワフルな母が支えるそこそこ裕福で子供に甘い家庭だ。

高価なVRゲーム機のダイブ・ギアもきょうだい全員――今自室でまさにダイブ・ギアで遊んでいるであろう求の妹・手塚祈(てづか・いのる)も含めた3人分買い与えてもらっている。

月々のお小遣いもDFOでちょっとした課金アイテムを購入できるくらいの余裕がある。

それでも流石に受験勉強の時期は遊び過ぎていると怒られてしまうのだ。


 特に希はDFOにどっぷりはまり込んでいた。

最初はきょうだい全員で始めて、のんびりとプレイしていたのだが希があっという間に沼にハマってしまったのである。

きっかけはどこの攻略サイトでも希のお気に入りの職業・騎士(ナイト)に対する評価が低く、掲示板でネタにされがちなことに気がついてしまったことだったか……

とにかく希は騎士で高難易度コンテンツに挑戦し、公式コミュニティサイトに攻略記事を投稿することで騎士の地位を向上する活動を始めた。

シスコンの求はそんな姉にがんばってついて行き、いつしか自分もクウという目標を見つけてDFOにのめり込んでいったが、ハニーというブラウニーの女性キャラクターで魔神使い(デーモンルーラー)をやっていた末っ子の祈は脱落し今は別のサンドボックスゲームをやっている。


「そうそう、だからしばらくは闘技場のランク維持できる程度にプレイ時間は抑えて……いや、でもカカソーラさんともう1回くらいは闘ってみたいのよね」


「姉さんもカカソーラさんはこのまま最高ランクまで昇格しちゃうって予想?」


 求の問いかけに希は深くうなずく。

最高ランク・エトワールへの昇格は高い壁だが、間違いなくカカソーラにはそれを乗り越える能力がある。


「行っちゃうでしょ、今シーズンでストレートかはともかく受験が終わってわたしがまた本格的にやれるようになるまでには確実に」


「そうだよね……昇格しちゃう前に1回くらいはオレもカカソーラさんと闘いたいな」


 求は先日フレンドになった新人プレイヤー・カカソーラに思いを馳せる。

自分はDFOを始めたときにはまだクウを知らなかったのでコンプレックスである低身長と対極にある巨人種族のトロールをキャラクターに選んだが、カカソーラのようにクウとそっくりのエルフでプレイしても楽しかっただろうなという気持ちがある。

その分メインで使う職業はクウと同じ拳聖(カンフーマスター)を選び、トロールの高いHPと防御力で防御系戦闘スキルに欠ける拳聖の弱点を補ったいい感じの構築も出来ている自信があるから、クウとは別の職業で同じ異次元の高機動スタイルを実現しているカカソーラと比べ合いをしてみたい。


「ならあなたも今のうちに闘技場に通い詰めておかないと。わたしはもうちょっと勉強やってからログインするから、先に闘技場行っちゃいなさい」


「そうするよ。でもその前にちょっとだけ闘技場スレで何か動きないか確認、っと」


 求は端末を取り出し、いつもチェックしているネット掲示板で情報収集をしてみる。

昨日は希、もといミロがカカソーラを下したことで大盛り上がりしており、「流石”騎士姫”」「今シーズンこそエトワール昇格だな」などのコメントが並んでいてちょっと鼻が高かったのだが……

ちなみに求は姉にとっては不本意な”騎士姫”という二つ名をそこそこ気に入っている。

強く、そして美しい姉を形容するにはこの2つの単語の組み合わせがぴったりだと思っているのだ。


「あっ!またカカソーラさんの話題出てる」


「へえ、ちょっとわたしにも見せて……『ミロの戦術真似したやつ全員返り討ち』『誰だよ化けの皮が剥がれたって言ったやつ』……いいじゃない、こうしてがんばってもらえると勝ったわたしの株もさらに上るというものよ」


 希は満足気に笑った。

真っ向から打ち破るために新たな戦術まで用意した相手が上っ面の真似をしただけの他のプレイヤーにあっさりと負けてしまっては面白くない。

出来れば自分以外には負けずに勝ちまくって、それに勝ったミロが最強!という流れにして欲しい。


「対策打たれても実力ではね返す、やっぱりすごいな……」


 求も姉が満足しているとうれしいので上機嫌で掲示板の書き込みをさらに辿っていく。

カカソーラ以外の注目プレイヤーの話題ももちろん書き込まれていて、今日は*あゆぴっぴ*というプレイヤーの名前をよく見かける。

求は一度見かけたことがあるが、ヒーラーの聖者(セイント)を使うブラウニーの女性プレイヤーで、聖者のゴリラ全開のモーションにも挫けずかわいさアピールをがんばってそこそこの男性ファンを集めているプレイヤーだったはずだ。

責任者の日村Pが姫プレイヤーを憎んでいるDFOで、しかもその憎しみの象徴である聖者を選んでアイドル的人気を博す姿は”剛の姫”と呼ばれ一周回って尊敬されているとかなんとか。

だが最新の時系列に近づいたところで「速報」の文字とともに衝撃的な話題をもたらしたのはやはりカカソーラだった。


『【速報】カカソーラ、水月(すいげつ)に勝利』


「姉さん、これ!!」


「ッ!あいつにも勝ったの!?」


 水月は手塚姉弟も何度か闘ったことのあるプレイヤーである。

求ことリッドは水月の卓越したマルチタスクによる七剣乱舞形態での攻撃――闘技場界隈では「真・七剣乱舞」と呼ばれている――にやられっぱなしだし、希ことミロにとっても互角の闘いを強いられる相手だ。

希はそんな水月のことを一目置いていてフレンド登録もしており、性別などは流石に隠しているが受験生でリアルとDFOの両立が大変という相談はするくらいの関係となっている。

そのことに求がこっそり嫉妬の炎を燃やしていたりもするのだが、今はそんなことは関係ない。

詳しい試合内容は動画を観に行かなければわからないが、コメントではカカソーラが水月の真・七剣乱舞の猛攻をかいくぐり【グラビティブレード】を当てて勝利を手にしたとある。


「カカソーラさんの実力は認めているつもりだったけど、それ以上に認識を改めなきゃいけないみたいね。もし次に当たったら、本当にリベンジされちゃうかも」


「どうする、姉さん?」


「決まってるわ……わたしも今からDFOにログインして、さらなるカカソーラさん対策を講じなきゃ!」


「……受験勉強は?」


「今日は十分やったから大丈夫、たぶん、願わくば……」

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