52話
ミロさんとの試合で初めての敗北を味わったあと、少し休憩してから再開したその後の試合では勝利を重ねることが出来た。
しかし負けたときに生まれたあの感情が、頭からどうしても離れない。
興奮したまま試合を続けていたので、挑戦を切り上げる予定の時間はあっという間にやって来た。
収まらない胸のドキドキを抱えたまま、僕は選手控室を後にする。
今日はアルカナが観に来てくれてるのに負けるところ見せちゃったな……
「お疲れ様!今日もいっぱい勝ったね、プルミエ突破もきっと大丈夫だよ、それから――」
僕の姿を見つけたアルカナがまっすぐに駆け寄ってきて早口でまくしたてる。
露骨に初敗北の事実から話をそらしながら、だ。
うん、気を使わせてしまっている。
「……ありがとう。でも大丈夫、負けたことならダメージにはなってないから気にしないで」
「気にしないでって、本当に?」
「うん。むしろ盛り上がってきたなって興奮してるくらいで……」
「あら、切り上げるタイミングもいっしょになったわね。カカソーラさん」
アルカナに心配をかけまいとアピールしていたところに呼びかけられる声。
聞き覚えのあるその声はもちろんミロさんのもので、赤毛のトロールの男性――プルミエの要チェックプレイヤーの中にいたリッドさんと連れ立っていた。
確か一緒に攻略記事を書いていて、きょうだいなんだったか。
「ミロさん、偶然ですね。……さっきは返事出来ませんでしたけど、リベンジ絶対してみせるのでよろしくお願いします」
「うふふ、楽しみにしてるわ。一緒にいるのはあの《ヴァンガード》のアルカナさんね?」
ミロさんは優雅に笑ってから、アルカナの方へ振り向く。
アルカナは話を向けられたことに少し戸惑った様子で、ぎこちなく答えた。
「……どうもはじめまして、そのアルカナだよ。さっきの試合はお見事だったね」
「あら、そんなに警戒しないで。わたしも《ヴァンガード》の動画はよくチェックしてるの。いつも楽しませてもらってるって言いたかっただけ」
「それはどういたしまして、動画担当のメンバーにも伝えておくよ」
「姉さん、早く本題に入ったほうが向こうもわかりやすくていいんじゃないかな?」
ミロさんとアルカナのどうもぎこちない会話をリッドさんが遮る。
大柄なトロール男性が小柄なドワーフ女性を「姉さん」と呼ぶ……なんだかキュンとするシチュエーションだなぁ。
「そうね、リッド。カカソーラさん、あなたと今日試合をしてここで一緒になったのは偶然だけど、前々からわたし達はあなたに興味があったの」
「僕に興味……ですか?」
「へえ、どういう意味での興味?」
あっ、アルカナの良くないセンサーが反応しちゃってる。
「それはもちろん、そのクウにそっくりなキャラメイクと同じくそっくりな戦闘での機動力、おまけにプロフィールで堂々と打倒クウを掲げる胆力。闘技場で上を目指す者なら気になって当然でしょ?特に弟のリッドはクウの……」
「オレはクウさんの大ファンだからあんたがどうやってあの機動力を再現できてるのかめっちゃ気になってるんだ!!」
リッドさんが僕の方に詰め寄って来てものすごい勢いでそう言った。
「噂じゃあんたはクウさんの身内で直接テクニックを教えてもらってるんじゃないかってことになってて、実際どうなんだ?良かったらオレにも教えて……」
「あの、ちょっと落ち着いて……」
「リッド、いきなりそんな風に聞くのは失礼よ。戻りなさい」
ミロさんの一声でリッドさんはハッと我に返ったようだ。
数歩後退して申し訳無さそうに僕に頭を下げる。
「あ、すみません。興奮しちゃって……とにかく、クウさんを目標にする者同士、仲良く出来たりしないかなーと思ってたんです」
「そういうことなら、僕もリッドさんがクウさんのファンだって噂を聞いて親近感持ってたんですよ」
「そっちもオレのことチェックしてくれてたんですか!?うれしいなあ」
興奮していなければリッドさんは話しやすくて好印象の青年(多分)だった。
僕とリッドさんの様子を見てアルカナも警戒心を少し解いたような表情をする。
「残念ながらカカソーラはクウの身内じゃないし戦闘での動きもテクニックとして教えられるようなものじゃないけど、それでもいいなら仲良くしてもいいんじゃない?」
「あら、身内じゃなかったんだ。『VR適正は遺伝するからクウとカカソーラは血縁者に違いない』って自信満々に言ってる人もいたけど、やっぱり信用ならないわね」
「ミロさんもVR適正の噂を知ってるんですか?」
僕の問いかけにミロさんはこくりとうなずく。
「闘技場界隈じゃけっこう有名な噂よ?クウがそれだってのはもう定説になってるくらい」
「カカソーラさん達もその言い方だと知ってるみたいですね?」
リッドさんの質問に今度は僕がうなずく。
「前に同じクランの人から聞いたんです、僕がそれなんじゃないかって」
「あんまり信じてなかったけど、意外と広まってる噂だったんだね」
アルカナがしみじみとしているところでミロさんが手をぱん、と叩いて話題を変える。
「まあ噂のことはこの辺にして、わたし達そろそろログアウトしなきゃいけない時間なんだけど、よかったらフレンド登録してもらえない?」
「ぜひよろしくお願いします!」
「わたしは構わないと思うよ、こんなこともあろうかと要チェックプレイヤーの素行と評判は調査済みだからね」
アルカナがさらっとすごいことを言っている。
まあいいって言ってくれてることだしここは流しておくとしよう。
「じゃあフレンド登録しましょう、こっちから2人に申請送りますね」
「ありがとうございます!」
「アルカナさんとも出来ればフレンド登録したいんだけれど……」
「わたしも?」
「ええ、さっきも言ったでしょ。動画いつも楽しませてもらってるの」
「それならはい、わたしから申請送ったよ」
「うふふ、ありがとう!」
こんな感じにミロさんとリッドさんは僕達にお礼を言ってログアウトしていった。
2人で残された僕とアルカナはぽつりぽつりと言葉を交わす。
「きみ、本当に負けたこと気にしてないんだね。あんな普通にミロさんと話して」
「気にしてないっていうか……自分でも知らなかったけど、僕って強いやつがいるとワクワクしちゃうタイプだったみたい。リベンジしてやるぞーってやる気がさらに増してきたっていうか、リッドさんとも早く試合やりたいなーってなってる」
「なにそれ、熱血じゃん」
「あはは、熱血だねえ。だから、ミロさんにリベンジするための方法、いっしょに考えてくれない?また君に頼っちゃうからあれなんだけど……」
「気にしないで任せてよ」
アルカナは僕の目の間に移動して、正面から見つめ合う。
「わたしときみの二人三脚なら絶対なんとかなる。そう信じてるんだ、だから遠慮せずに2人で頂点を目指して行こう」
「……うん、ありがとう」
応援してくれるだけじゃなくて、二人三脚とまで言ってくれるのがなんだかとてもうれしかった。
どうやら負けたこと自体にダメージはなくても、それをアルカナに見られたことを僕は気にしていたらしい。
でも、僕達はその程度のことを気にする関係じゃない。
あたり前のことだった。
「さて、そんなに熱血でやる気満々ってことは、『エトワール昇格』の目標に変更はなしだよね?」
「そうだね、リベンジ決めて、目標も達成してみせるよ!」
「だったらこれからのレベル上げはより気合い入れて行かなきゃね!エトワールの上限レベルは現時点での上限である80なんだから、今から対策しないと間に合わないよ!!」
忘れてたよレベリング!
本当に生き急ぎ過ぎだな僕!
でもやる気は止まらないぜ僕!!




