51話
中級者ランクであるプルミエでは闘技場の客席に配置されている観客の数が増え、BGMに混ざって歓声も聞えてくる。
そんな中僕と今回試合相手――ミロさんは向かい合っていた。
試合開始のカウントダウンが終わるのを待つ間、ミロさんの方から僕に話しかけてくる。
「はじめまして、カカソーラさん。絶対王者クウ以来の初心者ランク一発昇格を成し遂げた期待の新星……早速闘えてうれしいわ」
「こちらこそプルミエでも有数のプレイヤーであるあなたとこんなにすぐぶつかれるなんてうれしいです、えっと、”騎士姫”のミロさん」
「……一応言っておくけど、いつの間にか勝手にそう呼ばれ出しただけで堂々と『姫』なんて名乗ってるわけじゃないからね?」
心底嫌そうな表情でミロさんはそうこぼした。
「騎士の代表プレイヤーみたいに扱われるのは気合いも入るからいいんだけど、『姫』はサークルの姫扱いされてるみたいで複雑っていうか……そうそう、カカソーラさんも騎士は習得してるみたいだけど、この職業についてどういうイメージを持ってる?」
「騎士に対するイメージ、ですか?」
さて、どう答えたものだろうか?
始めたばかりの僕が調べた範囲でもネット上に広がっている騎士のイメージが芳しくないことは知っている。
曰く、素直な性能過ぎて地味、タンク中プレイヤー人口最低、不遇職業の代名詞。
だがミロさんはメインで使っている以上騎士に思い入れがあるだろうから、余りネガティブなことは言うべきではないだろう。
とりあえず無難かつある程度正直な感想を言っておこう。
「汎用スキルが便利ですね」
「ふふふ、そして専用スキルが地味、よね」
いや、そこまで言ってませんよ!?
ちょっと焦る僕をよそに、ミロさんは高らかに宣言するように続けた。
「わたしはそのイメージを塗り替えるために闘技場を始めたの。騎士はメインでも十分にやっていける、地味じゃなくて正統派!今からの闘いで、あなたにもわたしの魂の叫びを届けてみせる――騎士はいいぞ!!」
カウントダウン終了が迫る中でそう告げるミロさんの表情と声に、一切の揺らぎはなかった。
自分の職業に対する真っ直ぐな愛、それを表現するために堂々と闘いに挑む姿、なんだかとってもカッコ良い!
「だったらその魂、僕も全力で受け止めます――いざ尋常に、勝負!」
僕もそう宣言したところでカウントダウンが0になり、試合開始の合図が来た。
まずはいつも通り戦闘スキル【リロード】でMPをカートリッジに変換、銃剣士専用スキルを使う準備を整える。
騎士はタンクで打たれ強いから、まずは【マジックバレット】で相手の受けるダメージを増加させる弱体化魔法【カース】を発動する。
「効かないわ!」
それに対してミロさんは騎士の戦闘スキル【クリアクロス】で弱体抵抗力を高め【カース】を無効化する。
流石にこの程度のタンク対策はプルミエの実力者ともなると効かない、でもそれは僕だって織り込み済みだ。
隠密の戦闘スキル【クイックアクション】と侍の戦闘スキル【心眼】で自分の攻撃速度とクリティカル率を上げることでダメージ増加を図る。
後はいつも通り、リアルでの戦闘技術とVRの肉体のポテンシャルをフルに活かせる優位を活かした近接戦闘で押し勝つ!
「はあぁぁぁぁ!」
「さあ、来なさい。【アンタッチャブルボディ】!」
僕が打ち込んだ銃剣士の単体攻撃コンボをミロさんは避けも防ぎもせずただ受け――ダメージものけぞり効果も受けなかった。
【アンタッチャブルボディ】――一定時間無敵状態になる騎士専用スキルの効果だ。
最初からこの強力な戦闘スキルを使ってくるのは予想外だった、しかしこの戦闘スキルはありとあらゆるダメージと効果に対抗できる代わりに効果時間は短く、再使用間隔も非常に長い。
ここは一旦距離を取り、効果時間切れになったら再び攻める方向に作戦変更……
「逃さないよ、新星くん!」
ミロさんは流れるような動きでかつてルピナスさんが使った野伏の戦闘スキル【ハンティングゾーン】を使用、範囲内にいるお互いの移動速度を下げ近接戦闘の間合いを維持する。
これが来たということは、おそらく次は範囲攻撃を当てに来る!
「くっ、【スチールジャケット】!」
とっさに防御力を上げる銃剣士専用スキルを発動し、ミロさんの攻撃に備える。
予想通り騎士の範囲攻撃コンボが繰り出され、【ハンティングゾーン】の効果で動きにくい中で懸命に避けたが何発か食らってしまった。
【スチールジャケット】を使っていたおかげであまり大きなダメージにはならなかったが、ここまでの試合運びは完全にミロさんの作った流れ、僕は後手に回ってしまっている。
研究のために視聴した過去の試合動画のミロさんは騎士の近接攻撃スキルよりも魔法使い系職業の汎用スキルを用いた攻撃魔法でダメージを稼ぐタイプのプレイヤーだったが、この試合での近接戦闘を積極的に挑む戦術……まさか近接戦闘が得意な僕を真っ向から打ち破るために戦闘スタイルを変えてきた!?
「あなたの近接戦闘技術はとんでもなく高レベル、使ってくる戦闘スキルも高性能なもの揃い……いい指導者がついてるのかしらね?でもやっぱりまだDFOでの経験が不足してる、戦術の引き出しが少ないのよ」
【アンタッチャブルボディ】の効果が切れると、ミロさんは次々と防御力を上げる戦闘スキルを発動した。
このまま近接戦闘を続けて防御力の差で押し切るつもりなのだろう。
しかしミロさんが認めたように近接戦闘技術なら僕の方が上のはず、相手の攻撃をいなし、こちらの攻撃を確実に当てていけばまだ十分勝機はあるはずだ。
「確かにそうです、でも真っ向からの打ち合いで来るならそう簡単に負けるわけにはいかない!」
「そうかしら?言ったでしょう、DFOでの経験が不足してるって……どんなに上手くVRの肉体を動かせたって、ゲームでの闘いは現実の闘いとは違うの!」
そう言ってミロさんは僕が見切れない動きで単体攻撃コンボを打ち込んできた。
現実なら相手の予備動作から次に繰り出してくる技の予想ができる――しかしDFOでは入力動作と発動する戦闘スキルの動きはほとんど関係がない。
ここまでは戦闘スキル発動と同時に現れる派手なエフェクトでなんとか区別がついてきた――しかし騎士の戦闘スキルは……エフェクトがめっちゃ地味!
まさか、こんなことが相手の動きを見切るのに関わってくるなんて。
それでもなんとかこちらの攻撃をより多く当て、相手の攻撃をより少なく受ける状態は維持しているものの。
「さあ、そろそろ【アンタッチャブルボディ】が再使用出来るわよ!」
純粋な防御性能では騎士の方が銃剣士よりも優れているのだ。
試合はタンク同士がじわじわとお互いのHPを削り合う消耗戦の形になっている。
切り合いの形勢だけなら僕の方が優位に見える、しかしこれまでの試合と違って相手の攻撃もそこそこ食らってしまっている。
じわじわ、じわじわと残りHPが無くなり、先に倒れたのは種族的に防御力が低い方。
エルフの僕だった。
視界に初めて見る「YOU LOSE」の文字が浮かぶ。
「とはいえかなりの泥仕合になったわね……カカソーラさんこんなことで挫けずにまたやりましょうね?」
ミロさんの言葉に返事する暇もなく僕は選手控室に飛ばされた。
初めての敗北。
それも自信のある近接戦闘で真っ向から挑まれて。
その事実が僕の胸にもたらす、これまでにない巨大な感情。
……めっちゃワクワクしてきた!!




