50話
中級者ランクであるプルミエに向けたレベル上げ、MEIさんがピックアップしてくれたプルミエの有力プレイヤーの研究はしっかりとこなせた。
リアルの方では中間テストも迫っているのでそっちの準備もほどほどにこなして、気がつけば5月の闘技場シーズン開幕前夜、5月14日になっていた。
僕達《ヴォワヤージュ=エトワール》+アルカナは今回も挑戦前夜祭の名のもとにみんなで記念撮影でもしよう、ということでクランハウスに集まった……のだが。
「ボクのお墓は海の見える丘の上に作ってください……」
「ルピナスさんが萎れてる!?」
いつも一番ハイテンションで騒ぐルピナスさんがなんか弱っていた。
まあしっかり顔を青ざめさせるコマンドやどんよりしたエフェクトを発生させるアイテムを使っているので普通にゲームしてる余裕はあると思うんだけど。
それでも不安気にルピナスさんを気遣う兼光くんを見て、シリウスさんが事情を説明する。
「さっきまで中間テストの勉強してて気力尽きてるだけだからあんまり気にしなくていいぞ、ほっといたら勝手に復活するから」
「テスト勉強ですか……おれは普段からコツコツやる方なのであんまりテスト前に張り切ってやらないんですけど、普通はこのくらいテスト前にはがんばるものなんでしょうか?」
「いや、ルピナスはマジで直前まで何もやらない方だから参考にしない方がいい。兼光くんは今のままでがんばれ」
ルピナスさんと兼光くんは両極端な学習スタイルのようだった。
ちなみに僕は勉強が得意な方なので、授業中にしっかりノートを取っておけばテスト前に少し復習をするだけでなんとかなるタイプである。
受験のときは流石に根を詰めて勉強もしたけどね。
「中間テスト対策、懐かしいですね。大学に入ってからというものスケジュールが楽ですっかり忘れていましたよ」
「うう……羨ましい……」
MEIさんの余裕の態度にルピナスさんがうめき声をあげる。
そしてはたと気がついたように、アルカナの方を見て尋ねる。
「そうだ、アルカナさんはどうやって学業とDFO両立させてるの?めっちゃ効率のいい勉強法知ってたり、もしかして学業捨てた廃人スタイルだったり!?」
「え、わたし?」
ルピナスさんの質問にアルカナは少し悩んでから心の底から不思議そうに、質問で返した。
「勉強法って言われても……学校の勉強や受験勉強程度にそんな努力とか必要?」
「へ?」
「教科書に載ってる公式とか単語とか、全部暗記しちゃえばなんとかならない?」
余りの言いように、場が静まり返る。
そう、アルカナはとんでもない記憶力の持ち主で、それを活かして今日まで授業時間のみの勉強でテストも受験も乗り切ってきたのだった。
「カカソーラさん、カカソーラさん。この人本気で言ってる?」
「本気で言ってます……うちのアルカナがすみません……」
「自慢するどころかなんで出来ないのと言わんばかりの態度、大物ですね」
「何、聞かれたから正直に答えただけなんだけど!?」
いやぁ、廃人やるにもそれなりのスペックが必要ってことなのかな?
高難易度コンテンツ攻略にもアルカナの記憶力はボスの行動パターン解析に役立っているそうです。
とにかく一連の会話のうちに、ルピナスさんの気力も復活したようだ。
「よし、テストの話はもう終わり!闘技場に向けた各自の目標発表会するよ!!」
「おー、いいですね」
「いきなりだけどいいんじゃないか。アルカナさんと兼光くんはサポートだから外すとして、どういう順番で発表する?」
「DFO歴長い順で!MEIさん、ボク、シリウス、カカソーラさんね」
「こっちに飛ばして来やがりますか」
悪態はついたものの、MEIさんはコホンと咳払いをしてから目標を発表する。
「私は今のところ一番戦績が良くないですからね。まずは堅実に、『勝利数を敗北数より多くする』で行きたいと思います」
「なんか地味だねぇ。ボクはもっと志高く、『プルミエ昇格』を目標にするよ!すぐ追いついてみせるからね、カカソーラさん」
ルピナスさんがポーズを決めながら僕の方を指差す。
クランマスターにして言い出しっぺ、流石のやる気である。
一方次の順番であるシリウスさんは少し考えてから目標を発表する。
「俺は……昇格はちょっと無理そうだから『欲しいアイテム分のコロッセウムポイントを貯める』で」
「えー、シリウスなんか地味じゃない?」
「いいじゃないですか、シリウスくんの自由で。ちなみにどのアイテムが欲しいか伺っても?」
「クランハウスに置ける庭具。家具は充実してきたけど庭はほとんど手つかずだろ」
シリウスさんの言う通り、《ヴォワヤージュ=エトワール》のクランハウスの庭はまだまっさらな芝生にアルカナが持ってきた特訓くんが1体いるだけだった。
「庭具いいですね!最後はカカソーラさんですけど、目標はなんですか?」
「ふふふ、わたしは大体予想できたよ」
兼光くんの問いに、僕はおそらくアルカナが予想している通りの答えを返す。
「僕の目標は……『エトワール昇格』だよ」
「!!最高ランクにも一発通過ですか!?」
「エースのカカソーラならこのくらい当然の目標だね」
「すごい!けどそしたらボクが目標達成しても追いつけないじゃん!」
「そのときはまたがんばって追いついてくださいということで……」
「ははっ、カカソーラさんも言うなあ」
クウさんを打倒するにはこれくらいやってみせなきゃね。
こうしてそれぞれの目標を確認した僕達はクランハウスの中(着ぐるみのMEIさんにぴったりのファンシーな内装が完成しました)で記念写真を撮影し、お互いにエールを送って解散した。
明日はアルカナも観戦して応援してくれるらしいし、全力でがんばろう!
*
翌日、5月15日の夜。
いつも通りの時間にログインし、アルカナと一緒に闘技場に行き、見送られて選手控室に移動する。
半月ぶりの選手控室で特訓くん相手に準備運動を済ませてから、僕は意気揚々と試合に挑む。
大丈夫、プルミエの傾向も研究したし、新しい戦闘スキルもしっかり覚えた。
リアル戦闘技術もお祖父ちゃんの機嫌を良くするくらいには成長している。
対戦相手はトロールの傭兵、防御力がガチガチに固いタイプだ。
「さあ、今シーズンも勝ちまくるぞ!」
*
「見ろ、公式動画に出てたカカソーラってやつ。プルミエでも連勝してるぞ!」
「言われなくてももう見てるよ!『第2のクウ』ってのは伊達じゃないな」
ボイスチャットのモードを近距離にしているプレイヤーの会話が耳に入り、アルカナは満足気に笑う。
そうでしょう、わたしの彼氏はすごいでしょう!と自慢したくなる気持ちを抑えるのが大変だ。
カカソーラには天賦の才があり、DFO経験豊富な自分のサポートでゲーム経験の不足も補っている。
自分達の二人三脚ならカカソーラの目標である打倒クウも絶対に実現できる――共に闘技場に向けた準備をしているうちにアルカナはそう信じるようになっていた。
中級者ランクのプルミエは初心者ランクのカドリーユ同様通過点、今シーズンもカカソーラのカッコいいところをいっぱい堪能させてもらおう。
アルカナはご機嫌でカカソーラの試合――もちろんまた勝利だ――を観てほくそ笑む。
「また勝った!誰か止められるやつはいねえのかな……」
「おっ、次は”騎士姫”のミロとやるみたいだ!これは流石にキツいんじゃないか?」
カカソーラの次の試合相手が決まり、辺りが少しどよめく。
ミロ、注目のプレイヤーの1人としてチェックしていた相手だ。
アルカナは一人言モードでボソリとつぶやく。
「がんばれ、天」




