48話
「……で、《ヴォワヤージュ=エトワール》でも活動紹介動画を作ってみたいって話だったな」
「そうだったけどシリウスさんが急に出してきた謎の単語に持って行かれましたよ!」
殴り陰陽師とかいう謎の存在に集中力を削がれてしまったが、今回挑んだボス(安全地帯の狭い範囲攻撃を連発してくるのが厄介だった)も無事に撃破しダンジョン攻略を終えると、原因のシリウスさんが何事もなかったかのように話を戻すのでついツッコんでしまった。
「ボクもいきなりぶっこんで来てびっくりしたよ。なんなの殴り陰陽師って……」
「構築の名前っぽいですけど……想像もつかないです」
ルピナスさんと兼光くんも僕と同じように困惑したようだ。
「そこまで変かな……あー、陰陽師界隈以外だと【強化陣法・術式】ってあんまり話題になってないのか」
「なんだっけそれ、名前の感じは風水士の戦闘スキルっぽいけど」
シリウスさんがあまり聞き慣れない戦闘スキルの名前を出す。
しかしアルカナに一度教えてもらった覚えがあるので僕はなんとか記憶を手繰り寄せる。
「えっと、確か風水士の補助魔法で汎用スキル、効果は対象との距離が近いほど使用する魔法の効果が上がる強化状態に入る……だったかな」
「ああ、それであってる」
「すぐに効果が出てくるなんて流石カカソーラさん!……でもなんか、扱いづらそうな効果ですね」
兼光くんの感想は正しい。
魔法は基本的に対象と距離を取って使うもの、距離が近いほど上昇するのではあまり恩恵が受けられない。
陰陽師の戦闘スキルで恩恵を受けられそうなのは、パーティの遠距離型DPSに対する回復魔法か補助魔法くらいだろう。
……待てよ、補助魔法?
「もしかして、自分自身に補助魔法をかけるときに効果がすごいことになったりします?」
「正解!カカソーラさん感がいいな」
僕の推測は正しかったらしく、シリウスさんからお褒めの言葉を頂いた。
シリウスさんはさらに解説を続ける。
「《陰陽寮ククルカン支部》――陰陽師の性能研究でトップにいるクランもそれに気がついてな、豊富な補助魔法を持つ陰陽師と【強化陣法・術式】を組み合わせたらどうなるか検証してみたら、前衛もこなせるレベルのステータスになるって結果が出たんだ」
「え、つまり殴り陰陽師って、陰陽師で前衛やるってこと!?」
ルピナスさんがドン引きしたような表情で言う。
当然の反応だ、魔法使い系職業の中でも近接戦闘もこなせるように設計されている魔法剣士でさえ、アルカナのような上級者でなければ基本的に後衛として戦うのが定石なのだ。
「最初に聞いたときは俺もドン引きした。でも前衛になれば【強化陣法・術式】の効果が敵に対する攻撃魔法や弱体化魔法にもいい感じに乗ってくるだろ?そうしたら理論上陰陽師がDFO最強の職業になるってことで、陰陽師界隈で今一番盛り上がってるのが殴り陰陽師なんだ」
「いやいやいや、理論上最強って言ったって実際に激しく戦況が動く前衛で的確に魔法を使うのに必要なプレイヤースキルってどれだけ!?」
「相手の攻撃を避けながら魔法を発動しなきゃいけない以上マニュアルモードは必須ですし、しかもマニュアルモードだと魔法の入力動作は近接戦闘系職業の戦闘スキルよりずっと複雑で……」
いや、待て。
自分でやると考えると、マニュアルモードならなんとかなるな?
魔法は発動の難易度が高い分威力は高いわけだから、コンボを考えず強い魔法をひたすら撃てばいいわけで……
つまりマニュアルモードで近接戦闘が出来る程度の運動経験があればなんとか?
「カカソーラさん急に黙ってどうしたんですか?」
兼光くんが心配そうにかけてくれた声でハッと気がつく。
「あ、ごめん大丈夫だよ。考えてみたら殴り陰陽師いけそうかもってなってただけ」
「マジで!?」
「実際いけてる人がいるんだよ。ほらこれ、《陰陽寮ククルカン支部》のPieceって人の殴り陰陽師実践動画」
シリウスさんがウィンドウを開いて、動画サイトのページを表示する。
動画ではPieceさん――現代風のスーツ姿のオシャレ装備に身を包んだヒューマンの女性が殴り陰陽師の概要について説明しているところだった。
「初心者非推奨!」「格闘技経験者推奨」「野良パーティではやらないように!」といくつも注意事項をテロップで強調し、上級者向けスタイルであることを強調していた。
『――では、実践に移っていきます。詳しい解説はその後で』
その言葉とともにPieceさんはダンジョン――メインクエスト1章ラストのダンジョン3連戦の最後――にタンクに戦士、他3人は陰陽師という尖ったパーティで突入していった。
「なんかパーティ編成もおかしくありません?」
「これが《陰陽寮ククルカン支部》の基本スタイルだ。全員陰陽師で挑戦してる動画もあるぞ」
「キマってるクランだねぇ……」
殴り陰陽師の実態を見る前から既に気圧されつつあるが、気を取り直して動画の続きを視聴する。
異様な動きはすぐに始まり、Pieceさんが【強化陣法・術式】を皮切りにいくつもの補助魔法を自分にかける。
複数の魔法のエフェクトがPieceさんを包んだ結果、まるで禍々しいオーラをまとっているようである。
それが終わった辺りでちょうど最初の敵集団に遭遇、戦士がまず突っ込んでヘイトを集め――Pieceさんも前線に飛び出した。
まずは敵に弱体化魔法をかけ、次にほぼゼロ距離で陰陽師の攻撃魔法【式打ち】を打ち込む。
複数の補助魔法での強化に敵に対する弱体化魔法まで加わったその一撃は強力で、くらった敵は一撃で消し飛んでしまった。
「……マジで?ここの雑魚ってけっこう固いのに」
「【強化陣法・術式】の補正がすごいことになってるからな」
「近距離で【式打ち】使うと本当に殴ってるみたいに見えますね」
「なるほど殴り陰陽師」
その威力におののきつつも、ここはまだ雑魚戦。
今のところは僕達も適当に茶々を入れつつ動画を視聴する。
そして辿り着いたボスとの戦闘――長いムービーは編集でカットしてくれていてありがたい――で、Pieceさんは殴り陰陽師の真価を見せた。
『安全かつボスに近い位置を常に意識して移動してください。補助魔法の更新も忘れずに。あとはひたすら【式打ち】パンチ!』
解説の言葉通り、Pieceさんはボスの近くを常にキープ。
目まぐるしく補助魔法と弱体化魔法の更新をしながら、攻撃魔法も連発する。
口で言うのは簡単だが忙しすぎるマルチタスクの成果は甚大で、Pieceさんが一発殴るたびに信じられないペースでボスのHPゲージが削れていく。
Pieceさん以外の2人の陰陽師のサポートで回復面も万全、結果ボスはあっという間に討伐された。
「どうだ?すごいだろ、殴り陰陽師」
「すごい……けどやっぱり常人には無理でしょ!」
「いけそうかもって言ったけどあのペースでの魔法管理は僕じゃ無理です……」
「すごい人っていっぱいいるんですね……」
いや本当に、正直この人に闘技場に来られたら絶対苦戦する。
戦闘中に見せた構え――おそらく空手の構えも完璧だったからリアルでも強いんだろうし……
兄ちゃんが高校生だった頃に当時から交際中だった日向義姉さんの空手の全国大会を観に行ったが、おそらくあのときの日向義姉さんくらい強い。
「Pieceさん、闘技場に来ないかな……」
思わず願望をこぼしてしまう僕であった。




