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43話

 満員の観衆、そして万雷の歓声に包まれたエトワールの舞台。

そこに2人のプレイヤーが対峙していた。

片方は中華風の装束を身にまとったエルフの青年――絶対王者・クウ。

もう片方は2本の剣を背負ったトロールの男――今シーズン躍進中のゼン。

試合開始までのカウントダウンが進む中、ゼンの方が口を開く。


「相変わらず大暴れしているようだな、クウ」


「そうだね。でも大暴れってことなら君の方だってしているんじゃないかい?『パルクール神拳』だっけ」


「絶対王者の耳にも入っているか、光栄だな」


 一見何気ない会話、しかしゼンはその下で闘志をみなぎらせ、クウは腹の底を伺わせない穏やかな笑み。


「知っているのなら話は速い、鍛錬の末に完成させたこの技で、あなたの神話をこの手で終わらせる!」


「楽しみになることを言ってくれるじゃないか。いい試合にしよう!」


 ゼンは睨み、クウは(わら)った。

そしてカウントダウンが終わり、試合開始の合図が下りる。


「行くぞ、【守護陣・散開】!」


 ゼンが繰り出したのは風水士の防御魔法、フィールド上に複数のバリアを設置する効果を持つものだった。

本来それはレイドボスとの戦闘などで範囲攻撃に対する安全地帯を作るために用いられるもので、1対1の個人戦では扱いにくいはずの魔法である。

だがゼンにとっては地の利を得ることが出来る最高の補助魔法。


「クウ、あなたの動きは現実で身につけた武術によるものだろうが……パルクールの経験はどうかな!?」


 ゼンは設置したバリアを足場にトロールの巨体からは想像できない俊敏、かつ華麗な機動を見せる。

ゼンとクウ2人の最初の激突は――クウがギリギリのところでゼンの攻撃を回避する形になった。

地面を駆けるクウとバリアを足場に自由自在に跳び回るゼン、お互い有効な一撃を繰り出すことは出来ていないが、明らかに流れはゼンに優勢だった。


「確かにパルクールの経験はないな……こうして間近で見るのも初めてだ!」


「ならばここで覚えてもらおう、敗北の味とともに!!」


 ゼンは次こそクウを捕らえんと、その機動をさらに自由に、ダイナミックに展開していく。

ゼンは映画出演の経験もあるプロパルクールチームのメンバーである。

パルクールとはフランスで生まれた人間の身体能力をフルに使い、自由自在に「移動」することによって心身を鍛える運動方法。

未だ新しい技術であり、影響された若者が事故を起こすケースなどから偏った見方をされることもあるが、技術の高さ、そして精神修練の効果は伝統的な武術にも劣らないとゼンは信じている。


 パルクールのダイナミックな動きを、現実と差異のあるVRゲームの肉体で再現するのは長い鍛錬を要した。

身体能力そのものは上がっていても自身の脳がそれを使いこなすのに時間がかかったのである。

それでもゼンは世界中で大流行しているVRゲームの世界でパルクールの技術を表現することが業界の発展につながると信じ、ついにその糸口を掴んだのである。

今シーズンから披露したパルクールの技術を活かした戦法は既にネットで話題となり、パルクールの話題がSNSで人気となっている。

「パルクール神拳」という二つ名は正直勘弁してほしいが、盛り上がるのなら仕方なし。


「絶対王者よ、これで終わりだ!」


 ついにクウの背後を取り、勝利を確信したゼンは叫ぶ。

迫る双刃にクウは――やはり咲った。


「パルクール、素晴らしい技術だね。本当に……()()()()()()()


「!?」


 クウが素早く、これまでよりもより自由自在、ダイナミックな動きで回避する。

そしてゼンが設置したバリアを足場に、彼もまた跳び上がった。

走り、跳び、地形を活かして跳び回る。

正しくそれは、ゼンが行ってきたパルクールの動きだった。


「うん、これはいいね。楽しくなってきた!」


「馬鹿な、俺の動きを見ただけで!?」


「こんなに近くでたくさん見せてもらったんだ、出来て当然だろう?」


 同じ技術を得たことにより、ゼンの持っていた地の利は消失した。

そうなれば、もはや闘いは絶対王者の独壇場。


「ありがとう、今日は本当に楽しい試合だった。次もよろしくね」


 ゼンの上空を取りながらクウは楽しそうにそう言って、コンボを始動する。

まず上から叩き落とす攻撃、ともに落下するまでの間に絶え間なく撃ち込まれる連撃。

ゼンが地面に叩きつけられ、クウが華麗に着地したときには勝負はついていた。


「WINNER クウ」


 その表示とともに、試合動画は終了した。



「こんなのって……アリなの?」


 みんなでクウの試合動画を観に来た闘技場で、僕は思わずそう呟いた。

お祖父ちゃんの友人のフランス人からパルクールは基本的なところだけだが教わったことのある僕だが、その経験から言ってもゼンさんが披露していた高度な動きを間近とはいえ見ただけで学習するなんて、人間業とは思えない。

若い頃のお祖父ちゃんにだって無理なんじゃないか?


「2人の会話からしてゼンの過去の試合動画のチェックはしてたんだろうけど、だからってこれは……」


 アルカナもドン引きである。

一緒に動画を観ていたMEIさん達もドン引きで、1人ルピナスさんだけが無邪気に興奮している。


「久々に出たね、クウのトンデモ逆襲劇!最近は奇策を出してくる人も減ったからね」


「久々って、前にも同じようなことしてたんですか?」


 兼光さんが恐る恐るといった風に尋ねる。


「それはもう、ずっと絶対王者やってるわけだからね。ボクが一番印象に残ってるのは空中ジャンプ事件かな」


「このゲーム空中ジャンプあるんですか!?」


 衝撃の事実に驚いてしまう僕だった。

それに答えてくれたのはMEIさん。


「あるんですよ。存在自体はクウが現れる前から知られていて、しかし非常に難易度の高い技術だったので戦闘で活用するのは不可能、フィールドや町の探索中に乗機では乗り入れられない隠しポイントへ行くためのものだとずっと思われていたんです」


「それを!範囲魔法に捕まって絶体絶命かと思われたときに空中ジャンプで回避して戦闘活用も出来るって証明してみせたのがクウなんだよね」


 ルピナスさんが大興奮で解説に補足する。


「その後で研究が進んでわかったことなんだが、空中ジャンプの難易度は敏捷力と装備品の種類で変化するらしくてな。敏捷力が高い前衛職かつ軽鎧を装備する格闘士系か双剣士系の職業ならがんばればいけるんじゃないかって流れになったんだ」


「《ヴァンガード》にも空中ジャンプ得意な忍者がいるよ。今では中級者と上級者の壁くらいの扱いかな、空中ジャンプ」


 シリウスさんとアルカナも解説を加えてくれた。


「もしかしてクウさんが見つけて広まったテクニックがそこそこあったりします」


「ありますねぇ……バグだと判明して封印されたテクニックやほぼ個人狙いのバランス調整がされて封印されたテクニックもあります」


「今拳聖の【カウンター】ってどれだけ弱体化してるんだろうねぇ」


「弱体化してもクウだけは有効活用してくるから運営が諦めて最初の仕様に戻ったはず」


 なんかもうクウさんが歩くバグのような有り様である。

打倒を目指す敵としては恐ろしいが、突き抜けすぎて憧れてしまう自分もいる。

とりあえずこの動画から学べる事実が一つ。


「クウさんの機動力、また上がっちゃったってことですよねこれ」


 頂点にありながら成長止まらず。

将来僕はそんなクウさんにどうやって挑むべきだろうか?

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