40話
クラン《ヴォワヤージュ=エトワール》を設立したことは、なんだかんだで僕のやる気に火を付けた。
ただでさえアルカナに頼りっぱなしだった上に、クランハウスの拡充にあまり役に立てないという状況、ファンになってくれた兼光くんにカッコ悪いところは見せたくないという見栄もあいまって、「クランのエース」になってみせなければ情けないというものだろう。
現実での毎日の稽古、過去の動画の研究から得られるものを少しでも増やそうと集中して取り組み、試合の後もすぐに次に向かわず振り返りの時間を作って実力を高めていく。
その結果は案外すぐに形となって現れた。
「YOU WIN」
「YOU WIN」
「YOU WIN」
……
「今日はここまで、っと」
「お疲れ様、見てたけど絶好調だね。ほとんどの試合一方的に攻めて瞬殺だったじゃん!」
《ヴァンガード》の活動の間を縫って《ヴォワヤージュ=エトワール》のサポートもしてくれているアルカナが僕を出迎えてくれる。
その言葉通り、このところは連勝を続けているだけでなく試合時間も短縮できている。
「まあ僕もこのくらい出来なきゃ、クウさんとエトワールへの道は遠いからね」
「えー、今のきみの調子なら案外近いかもよ?」
ちょっとカッコつけた僕の答えに、アルカナは上機嫌に返す。
「《ヴァンガード》のみんなにもきみのこと話してるから闘技場チェックしてくれる人がちらほらいてさ、すごい!とか期待してる!とかもう大絶賛なんだから」
「えっ、そんなことになってたの!?」
知らない間に布教されていた。
まあ前にお邪魔したとき自分でも闘技場に挑戦することは話したけど、まだ初心者ランクの僕を本当にチェックしてくれるとは、今度またアルカナの件も含めてお礼を言いに行ったほうがいいかもしれない。
「この調子だと昇格は確実だし、プルミエに備えたレベル上げ、気合い入れてやっていかないとね」
「うん!今日もよろしく!!」
僕はやる気満々で、アルカナとノルマをこなしに行くのだった。
*
そんな絶好調の日々はあっという間に過ぎていき、気がつけば今月の闘技場シーズンもあとわずか。
最後の大詰めと多くのプレイヤーが押し寄せているのか、ランキングの変動が大きくなっているが僕の順位は昇格圏内で安定している。
クランハウスの方はMEIさん達のがんばりで製作スペースが形になり、兼光くんはそこで副職業のレベル上げに励んでいる。
ついでにルピナスさんは家具集めも少しずつ進めているようで、着ぐるみのMEIさんにお似合いのメルヘンな家具が広間に並びだしている。
「だんだん部屋っぽくなってきましたね」
「でしょー?良かったらボクの個室の方も見ていってよ。誰でも入れるように設定してあるから」
家具の位置を微調整しているルピナスさんに話しかけると、そんなことを言われた。
お言葉に甘えて個室につながるドアへ向かうと、誰の個室に行くかを選択するウィンドウが開く。
初期設定からいじっていない僕以外の部屋は誰でも自由に入れるようになっていた。
まずルピナスさんの部屋に入ると、そこは一面ピンク色。
天蓋付きベッドや大きなぬいぐるみが並ぶ乙女チックな部屋だった。
「ルピナスさんの趣味……というかこういう部屋が好きな美少女キャラが好き、ってことなのかな?」
なんというか、大分徹底した趣味だ。
しかし完成度は間違いなく高いので、参考にするべくしばらく部屋の中を眺めてから次の部屋、シリウスさんの部屋へと向かう。
そちらはまたガラリと変わった雰囲気で、純和風、畳や掛け軸、鎧兜や刀が並ぶ部屋だった。
「こっちも完成度高いなぁ。そういえばDFO内の設定で和風の文化ってどこから来た扱いなんだろう?」
『ドラゴンファンタジー』シリーズのお約束なら、東の方にオロチの国という和風の島国があってそこに侍や忍者がいることになっていると秘ちゃんが言っていたんだけど。
そのうちちゃんとメインクエストを進めて世界設定も知りたいな、と思いつつシリウスさんの部屋もよく見て研究してからMEIさんの部屋へ移動する。
今度は個室というよりどこかの研究室のような、モンスターの剥製や魚の水槽、壁にはDFO世界の地図や魚拓が並ぶ部屋だった。
「こんな家具もあるんだ……魚拓はやっぱり釣りで手に入るのかな?」
ほとんど釣りを触っていない現状だが、今はもう釣りのときだけはセミオートモードにするべきだという知識を得た僕である。
魚拓の入手方法を今度MEIさんに聞く、と心の中で決めて博物館を見学するような気分でMEIさんの部屋を見て回る。
その次は兼光さんの部屋、ここはまだあまり家具が揃っておらず、シンプルな机とベッド、そして最初に間に合わせで使ったドランくんチェアがあるだけだ。
これはこれで安心した気分になりつつ、最後に自分の部屋に向かう。
「うん、本当に何もない!」
今初めて来たので当然である。
いくらなんでもアレなので所持品に入れっぱなしだったチェリータペストリーを適当に掛けておこう。
それと部屋の設定を誰でも入れるように変更して、ひとまず部屋のチェックはこれでおしまい。
闘技場でプルミエ昇格までのラストスパート、決めて来ますか!
*
一方その頃、アルカナのファンでカカソーラの立場を本人は認めないが羨んでいる少女・リン。
彼女はプルミエでそれなりの成績を上げ、満足気にランキングを眺めていた。
昇格圏内には入っていないが、ランキング報酬とコロッセウムポイントはそれなりにもらえそうな順位、昇格して初めてのシーズンとしては立派な成果のはずである。
このところ《ヴァンガード》の活動が忙しいのかアルカナとは会えていないが、次に会えたら――ちょっと納得はいかないけれど――前に会ったときのことを謝って、そして機会を見て一緒に闘技場に挑戦しないかと誘ってみようとリンは考えていた。
しかしそこでリンの中にある考えがよぎる。
(もしかして、あいつといっしょにもう闘技場に挑戦してるかも!?)
あのときは参加するのはカカソーラで自分はしない、と言っていたが、気が変わるということもありうる。
そうだとしたら一大事だ、リンはランキングのタブをプルミエからカドリーユに切り替えて、アルカナの名前がないか探すことにした。
アルカナのことだから初挑戦でも間違いなく上位にいるはず、と予想していたリンの目に入ってきたのはもちろん結局参加しなかったアルカナの名前ではなく、現在絶好調のカカソーラの名前だった。
「嘘でしょ!?初心者がいきなりこんな順位なんて……」
ボイスチャットのモードが一人言モードになっているのをいいことに、ロールプレイを忘れた普段の口調でリンは大声を出して驚いた。
なにかの間違いだと思ってランキングから闘技場プロフィールを確認するが、それは間違いなくあのときアルカナと一緒にいたカカソーラだった。
それでも信じられずに試合の動画を再生すると、そこに映っていたのは絶対王者・クウを思わせる異次元の動きで敵を翻弄し、快進撃を続けるカカソーラの姿があった。
認めるしかない、あいつはただのアルカナに寄生した初心者ではなく、とんでもないプレイヤースキルを持った実力者だと。
「……ふん、いいじゃない。だとしてもわたしが上だってことをプルミエでわからせてあげる」
カカソーラに対する一方的なライバル心が熱く燃え上がっていた。




