39話
「それじゃあクランハウスの模様替えについて、大まかな方針を決めていこう!」
まだ何もない我らが《ヴォワヤージュ=エトワール》のクランハウスの広間でルピナスさんがそう宣言する。
本当に何もないので床にそのまま座って輪になって座りながらの会議である。
「とりあえず椅子とテーブルですかね……」
「間に合わせでいいならイベントでもらった家具の中に椅子がいくつかあったはずですから持ってきましょうか?」
僕が出した要望にMEIさんがすかさず応えてくれた。
「ボクも家具をいくつか倉庫に預けてるから取ってくるよ。他の人は?」
「わたしは《ヴァンガード》の方のクランハウスに家具は使っちゃってるから……」
「俺は使わないと思って家具は売っちゃったから無し」
「おれも家具は持ってないです」
というわけで、MEIさんとルピナスさんが家具を取ってきてくれることになった。
内容は季節もののカーペットや壁掛け、マスコットのドランくんやかわいい系のモンスターのぬいぐるみ、コラボイベントでもらったらしい別のゲームのキャラクターの置き物などなど。
そして肝心の椅子はというと。
「ボクはこのバレンタインイベントでもらったピンクのハートの椅子使うね。シリウスはどうする?」
「……この一番普通のやつで」
「夏イベ産の折りたたみ式椅子ね、わたしはこっちのハロウィンイベ産ソファーもらうよ。二人掛けだからカカソーラも一緒に座ろう」
「うん、クッションがカボチャみたいになっててかわいいねコレ。兼光さんは残りどっちがいい?」
「えーっと……こっちのドランくんチェアもらいます」
「すると私は周年イベントでもらったこのアニバーサリーキングチェアですか」
そう言ってMEIさんは童話の中で王様が座っているような豪華な椅子に腰掛けた。
今日のMEIさんの着ぐるみはカエル(めずらしくちゃんとかわいいデザイン)なので、とってもメルヘンな雰囲気を作り出している。
これで椅子は揃ったが、なんだろう、間に合わせとはいえカオス過ぎる部屋になっちゃったな。
「Gを使って改築すれば2階と地下室を増やせるけど、今使えるのはこの広間とそれぞれの個室だけだね。どんな部屋にしたいか意見ある人いるー?ボクはMEIさんの現状を見てメルヘンな部屋にしたい気持ちが湧き上がってます」
ルピナスさんの提案もアリだとは思うが、せっかくなのでどうしたいか自分でも考えてみる。
とはいえ僕はゲーム内にどんな家具があるのかまだ把握できていないので、ちょっとイメージが浮かびにくかった。
悩む僕をよそに、アルカナはいち早く挙手をして意見を出す。
「全体の雰囲気はそれで構わないけど、兼光さん用に製作スペースは用意しておくべきだと思う」
「そうですね、製作施設を整えられるのはハウスを持つ大きなメリットの1つですから」
「でも、おれのためにそんな……」
アルカナの意見とMEIさんの賛同に兼光さんは恐縮してしまったようだ。
しかしアルカナは腕を組んで、そんな兼光さんをたしなめる。
「これは兼光さんだけじゃなくて、クランの活動のためでもあるんだよ?きみの副職業のレベルが上がって装備の製作をクラン内だけで出来るようになったら、『闘技場挑戦』というクランの目標に役立つんだから」
「おれがクランのお役に……?」
「そうなってくれたら助かるけど、将来的な目標程度に考えてくれ。カカソーラさんみたいな生き急ぎはアルカナさんのサポートありきで出来ることだからな?」
どうも、シリウスさんにもツッコまれる生き急ぎ野郎です。
無茶したからには結果を出して報いなきゃなとちゃんと思ってるんだけどね。
まあそれはそれとして、今の議題は兼光さんのための製作スペースのこと。
「僕は製作スペース作るの賛成かな。兼光さんが巻き込まれてくれたからこうしてクランも設立できたわけだし、お礼としてサポートはしてあげたいっていうか……まあ僕も初心者だから出来ることは少ないんだけど」
「カカソーラさん……!そこまで言って頂けるなら、おれ、副職業のレベル上げがんばりますから製作スペースのことお願いしたいです!!」
「うんうん、やる気が出てきたみたいでいいね!じゃあとりあえずの方針は『製作スペースの用意』ってことで!」
ルピナスさんが満足気に宣言する。
僕がそれに拍手で答えると、みんなも付き合って拍手してくれた。
《ヴァンガード》の雰囲気もいいけど、うちもなかなかいい雰囲気じゃないだろうか?
「じゃあ次は方針に基づいた今日の活動!まずカカソーラさんはいつも通り闘技場でガンガン勝ち点稼いで来てね!」
「えっ、僕はいつも通りでいいんですか?」
「うん。ぶっちゃけ製作施設に関してカカソーラさんに手伝えることはないです」
はっきり言われた!!
確かにここまでほとんど全てのリソースをレベル上げに注ぎ込んできたから製作のこと全くわかんないね!
「それに今昇格圏内にいるのはカカソーラさんだけだからな、クランの一番の目標である闘技場で上手く行っている人に専念してもらうのは当然だ」
「そうだよカカソーラ、きみはエースなんだから裏方のことは他のやつに任せるぜ!って気持ちでがんばってきて」
フォローしてくれるシリウスさんとアルカナの言葉が心にしみる。
するとMEIさんがベテランならではの提案をしてくれた。
「私は副職業はそれなりにしか触っていませんが、製作設備については以前調べてみたことがあります。設備入手のお役に立てると思いますよ」
「さっすが!じゃあ今日はカカソーラさん以外は設備入手のためにがんばろうってことで……」
「待った、わたしは兼光さんに教えておきたいことがある」
ルピナスさんの音頭をアルカナが遮る。
「教えておきたいこと、ですか?」
「カカソーラにぴったりの装備があってね、今の兼光さんでもちょっとレベル上げすれば作れるはず。だからレシピの入手と最高効率のレベル上げ、今日からでも兼光さんに教えておきたいんだ」
「えっ、僕にぴったりの装備ってどんなの?」
僕の質問にアルカナはくすりと笑ってはぐらかす。
「それは出来てからのお楽しみ。というわけで今日はわたしと兼光さん、それからMEIさんとルピナスさんとシリウスさんの2班に分れたいんだけど」
「オッケー、じゃあ今日はそんな感じで行こう。何かあったらクラン専用チャットで連絡してね」
ルピナスさんの指示にみんな了解し、今日の活動に移っていく。
僕もクランのエースだから、と気を強く持って闘技場へと向おうとしたとき。
「あの、カカソーラさん。ちょっといいですか?」
兼光さんに引き止められた。
「大丈夫だよ、なんでも言って」
「いえ、大したことじゃないんです。新装備のためにがんばりますから、カカソーラさんもがんばってきてください!」
「うん、お互いがんばろうね。兼光さ……」
「あ、それと!僕の方が年下なんで、さん付けはちょっと申し訳ないというか」
ふむ、確かに年上に気を使われすぎると逆に居心地が悪いかな。
問題は呼び方を変えるに当たって生じるであろう誤解。
「アルカナー、そんな目で見なくても心配いらないよー」
「……別に年下の男子にまでそんな警戒はしてない」
「本音は?」
「クラン全体で呼び方変えるならアリ」
MEIさんから他のメンバー、僕達高校生組から兼光くんはくん付けすることで落ち着きましたとさ。




