36話
「――よし、今日の稽古はここまでだ」
「ありがとうございました!」
今日もしっかり師範であるお祖父ちゃんにボコボコにされて稽古は終了した。
重点的に行なった棒術の道具を片付けながら、長柄武器を使う職業のプレイヤーとの試合に活かせそうだな、とついついDFOに思いを馳せる。
「天、お前最近他流試合をしているわけじゃないよな?」
するとお祖父ちゃんから思わぬ質問が飛んで来て、全く覚えがないので困惑しながら僕は答える。
「全然してないけど……なに、うちの門下生が道場破りしまくってるみたいな噂でも立ってるの?」
「立ってたらもっと早く聞いてるぞ。そうじゃなくてお前の身のこなしが急に変わったと思ってな」
「僕の身のこなし……相変わらずボコボコにされてるだけな気がするけど」
お祖父ちゃんはゆっくり首を横に振り、少しうれしそうな声色で言った。
「俺に比べたらまだまだというだけで、近頃急成長しているのは間違いないぞ。まるで、実戦経験を積んできたようにな」
実戦経験……そう言われて僕ははっとなる。
闘技場での試合の経験が現実にも効果を表しているのだ。
「それで俺の知らないところで練習相手が出来たんじゃないかと思ったんだが……」
「そういう意味なら心当たりがあるよ!ほら、最近始めたゲームがあるでしょ?」
僕はお祖父ちゃんにDFOと闘技場のことを説明する。
聞き慣れないゲーム用語に戸惑いながらもそれを聞いてくれたお祖父ちゃんは、感心したように頷く。
「実戦さながらの経験が積めるとは、フルダイブ型VRとやらはすごいな」
「僕もお祖父ちゃんに言われるまではそんなに効果があるなんて思ってなかったよ」
「ともかくお前が父親のようになる心配はいらなさそうで良かった……」
「父さんの……?」
そう聞き返すと、お祖父ちゃんは深くため息をついてから、重苦しげに言った。
「お前の父親は本当に暴れん坊でな……実力を試したいとか言って道場破りどころか不良のたまり場に殴り込みに行くわ、書き置き一枚だけ残して海外に武者修業に行くわ……挙句の果てにできちゃったとほざきながらお前の母親を連れて来たときは失神しそうになったぞ」
「昔の父さんってそんなのだったの!?」
お父さんのイメージが寝たきりの姿で固まっている僕には衝撃の事実だった。
病気になる前は海外を中心に格闘家として活動していたことは知っていたが……
言われてみると兄ちゃんの年齢に比べて父さんと母さんの年齢はかなり若い。
兄ちゃんが今年28歳で、父さんと母さんが確かよんじゅう……
「え、そのできちゃったときってもしかして父さん達今の僕とほとんど同じ……」
「菜穂さんの実家にはとりあえず土下座したな……」
お祖父ちゃんは遠い目をしつつ僕の肩を強く掴む。
「いいか、天。武術という殺人術を修める者は精神こそをより厳しく鍛えなければならない。だから病気のことがなくてもお前の父親には花果無形流を継がせないと決めていた。お前はその辺ちゃんと、秘ちゃんとは向こうの家も公認だからある程度いちゃつくのはいいが、せめて成人するまではできちゃわないように気をつけてくれ……!」
お祖父ちゃんからの初めての切実な嘆願だった。
こんなのが初めてってめっちゃ嫌だな!!
だが大事な問題なのは事実なので、僕は固くその辺気をつけると誓ったのだった。
*
知りたくなかった両親の若い頃のやんちゃを知って母さんの顔をまともに見れなくなりつつも夕食を済ませ、本日のDFOの時間である。
後半の話題があまりにも衝撃的だったが、闘技場での経験値が現実でも活かされているというのもうれしい事実。
これまで以上に闘志を燃やして、試合へと臨んでいく。
1戦目、対戦相手はドワーフの拳聖。
明らかにクウさんの影響を受けたバトルスタイル、だが使い手の腕前は天と地との差だ。
コンボの繋ぎ目の隙を逃さず捉え、耐久力のない相手を難なく撃破。
2戦目、対戦相手はトロールの戦士。
耐久力に優れたトロールに金属鎧の装備と戦士の豊富な自己強化スキルが合わさって歩く要塞の有り様だ。
その分相手の攻撃は鈍重で避けやすく、地道に体力を削って撃破。
かなりの時間をかけてしまったのでこのタイプの敵への対策は強化しておく必要がありそうだ。
3戦目、対戦相手はルーガルーの竜騎士。
今度は突撃スキルや跳躍スキルを豊富に持つ高機動型の職業が相手。
相手の攻撃タイミングを見切って回避と同時にカウンターを叩き込むスリリングな戦いの末に撃破。
4戦目以降も色々あったけど細かいところは省略!
そういうわけで今日の成果は……
「絶好調!ランキングもすっかり上位で安定してきたね」
闘技場プロフィールとカドリーユのランキングを確認し、大満足で僕は選手控室を後にする。
さてアルカナと合流して今日のレベル上げノルマもこなしてしまおう……とメニューを開いたところで1時間ほど前にルピナスさんから個別のテキストチャットが送られていたことに気がつく。
『新企画のお知らせ!
とりあえずSNSのグループに参加してね』
その下には僕も使っているSNSのグループ招待ページへのアドレスが貼り付けられていた。
なんだろうと思いつつ、ページを開いて招待を受けてみる。
『闘技場挑戦部(仮)作戦会議室』
そう名付けられたグループにはリーダーとしてルピナスさん、メンバーとしてシリウスさん、MEIさん、兼光さんと僕の名前、さらに「特別顧問」という肩書を与えられたアルカナが参加していた。
『ルピナス:あっ、カカソーラさんもやっと来た!
(うさぎのキャラクターが手を振るスタンプ)
シリウス:カカソーラさんいらっしゃい
MEI:これで全員揃いましたね
アルカナ:今から闘技場行くから移動しないでね
兼光:カカソーラさんこんばんは』
見知ったメンバーだし、昨日言っていた「頭数」はこの新企画のためのものだったのだろう。
でも新企画というわりには、闘技場挑戦部という仮称は現状とあまり変わらないような……
「見つけた!」
大声とともにアルカナが駆け寄ってくる。
その表情は少し不機嫌そうだった。
「さっき選手控室から出てルピナスさんの連絡に気がついたところなんだけど、何かあった?」
「……詳しいことはSNSの方でルピナスさんが説明するよ。今のところはそっち確認しといて」
言われるがままにSNSの画面を表示したウィンドウに意識を移す。
『ルピナス:ではでは全員揃ったところで新企画を改めて説明!
このボク、シリウス、MEIさん、兼光さん、そしてカカソーラさんの5人で……
クランの設立を提案します!!
シリウス:88888888
兼光:はち?
MEI:パチパチパチと、拍手をしているわけですね
シリウス:解説ありがとう
ルピナス:MEIさんサンキュー!
で、本題の方なんだけど、クランを設立すると所属メンバー限定のチャットが使えたり
クランハウスをもらってハウジングが出来たりします!』
「クラン……これって」
「《ヴァンガード》みたいなチームを新しく作ろうってこと……わたしはそっち入ってるから新しく作る方には入れないんだけどね!!」




