35話
翌日、実力テスト2日目なので今日も下校時間はいつもより早めである。
テストの手応えは十分で、これなら当面の間は学力の問題でDFOを制限されることはないだろうと確信できた。
帰宅後母さんにもテストの手応えを報告して、満足頂いてから稽古のため道場へ向かう。
……そういえば、ルピナスさん達はDFOとリアルの両立はどうやってこなしているのだろう?
そういう話題も出来るくらいに、もっと仲良くなりたいな。
*
同日、九州のとある公立高校。
この学校のスケジュールでは実力テストは翌日からの開催であり、生徒達は最後の悪あがきに勤しんでいる真っ最中だった。
2年1組に在籍するルピナス――大狼総司もその1人である。
DFOでは女性キャラを使用しており、現実でも小柄で愛らしい容姿をしているが立派な男性だった。
「そもそもなんで進級したてのこんな時期にテストなんてやるのかなぁ!?中間テストと期末テストだけでも大変だっていうのに!」
テスト範囲の英単語帳とにらめっこするのに疲れ果て、総司は無意味な抗議を始める。
「そんな文句言ったって誰も聞いてくれないよ……疲れたんなら休憩にしようか?」
「休憩する!っていうか、茂人はなんでそんなに余裕そうなのさ。ログイン時間ボクと同じくらいのはずなのに」
総司と一緒に英語の試験対策をしていた大柄な同級生の犬川茂人――DFOでのシリウスは、はあ、と溜息をついてから答える。
「授業中ちゃんとノートをとって、通学時間使って復習してるからテスト前に焦らなくてすむってだけだよ。この話、もう何回かしたよね?」
「したけどボクにはそれが無理なんだって!朝課外とかいうクソ因習のせいで登校時間はまだ眠いし、下校時間はくたくただし……」
弱音を吐きながら総司は机に突っ伏す。
それを仕方ないな、という風に見守りながら茂人は続きを代わりに言ってみせた。
「そしてもちろんDFOを我慢するつもりもない、と」
「当たり前でしょー。闘技場始めたばっかりだし、アレの頭数も揃いそうなところなんだから」
「あのアルカナさんとフレンドにもなれたしな……そういえばカカソーラさんとのやり取り見た感じ、俺達とけっこう年近かったりするんじゃないか?」
総司はがばりと頭を上げる。
「それ思った!あー、アレが出来たらSNSのグループとか作ってさ、通話したり、オフ会とかもしたりしたいな」
「わかる。まあオフ会は交通手段とかが難しいだろうけど」
「全員九州住みだったらなんとかならない?」
「そこまで都合の良い偶然はないでしょ……」
総司と茂人はテスト勉強そっちのけにDFOの話題で盛り上がる。
その結果、当然翌日からのテストで総司は苦労する羽目になるのだが……
*
こちらは同日の午前中、関東地方のとある都市。
DFOでもMEIこと目白伊介は一人暮らしの自宅でのんびりと過ごしていた。
伊介はこの世で最も時間と体力を持て余した立場・大学生をやっているからだ。
さらに次男として甘やかされ仕送りも十分ある人生イージーモードの極みだった。
今は朝の支度をゆっくりと済ませたあと、DFOの最新情報をネットで探しているところである。
「来月の季節イベントの配布は和風のオシャレ装備ですか、シリウスさんが好きそうですね」
一人暮らしを始めてから癖になってしまった一人言を呟きつつ、情報収集の場を公式サイトからファンが運営する攻略サイトに移動する。
最新高難易度ダンジョンの踏破はやはり大手ギルド《レヴィアタン騎士団》がトップ、しかし《ヴァンガード》も流石の追い上げを見せている。
「エースのアルカナさんが休みがちになってどうなっているかと思いましたが、やはり《ヴァンガード》は層が厚い。もめんどうふさんの人徳ですかね」
サービス開始当初からDFOをプレイしてきた伊介はトッププレイヤーと言われている面々ともいくらか親交がある。
しかし伊介自身は生来の不器用さもあってトッププレイヤーの中には数えられていない。
「初心者に親切にしてくれる着ぐるみの人」として評判はけっこういいのだが、「いい人」ではなく「すごい人」になりたいという願望は伊介にもあるのだ。
現在挑戦中の闘技場でも、類まれな才能を持つカカソーラはともかくルピナスとシリウスにも成績で差をつけられている状況だ。
この状況を打破すべく、何か策を考えなければ……と思い悩みながら伊介が攻略サイトを巡っていたとき。
「……これは!」
闘技場に関するページのスレッドで伊介はあるものを見つけた。
「さて、これはすぐにカカソーラさんに伝えるべきか。それとも成し遂げてからにするべきか……」
当初の目的を忘れて、伊介は最近出来た友人のことを考える。
変わったところのある伊介だが、基本的にやはり「いい人」なのだった。
*
またまた同日、都内の有名私立中学校。
ここでは天の高校と偶然にも同じスケジュールで実力テストが行われており、テストから解放された一人の少年がぐっと伸びをしていた。
2年花組、滝沢光司――DFOでの兼光である。
終礼が終わり、下校前に生徒達は親しい友人達と思い思いの話題で盛り上がる。
光司とその友人達の話題は、彼らの世代でも大人気のゲーム・DFOのこと。
「――で、ついにオリハルコンシリーズの武器を手に入れたんだ!」
「いいなぁ、あれの素材全然落ちないんだよな」
「滝沢の方はどんな感じ?メインクエスト2章入ってからけっこう経っただろ?」
「実はメインクエストの方はちょっと止まってて……みんな、闘技場は興味ある?」
その言葉に友人達は目を輝かせる。
「えっ、もしかして闘技場やり始めたのか!?」
「あっ、そうじゃなくて!すごく上手いプレイヤーさん見つけて……」
光司は慌てて訂正する。
「すごく上手いって、クウみたいな?」
「クウなら知ってる!先月のシーズンも無敗だっただろ?」
「情報遅いって、今月もまだ無敗だよ!」
光司の友人達は自分で闘技場に参加はしていないものの、みんな動画でクウのことは知っているようだった。
もちろん光司もクウを動画で知っていたから闘技場に観戦に行くようになったのだが、今話したいのはクウのことではない。
「今シーズンから闘技場参加し始めた人……というかDFO自体も始めてそんなに経ってないっぽい人なんだけど、クウみたいなすごい動きをする人がカドリーユにいるんだ」
「へぇ……?そんな人本当にいるのか?」
「本当だよ!試合のログ見たらみんなも絶対びっくりするよ、名前は……」
光司がそこまで言ったところで、後ろから1人の女子生徒が話しかけてくる。
「滝沢くん、明日の日直はわたしとあなたですからよろしくお願いしますね」
「あっ、浅井さん。うん、よろしく……」
返事を聞くとそれだけで満足したようでその女子生徒――浅井倫子は教室を去り下校して行った。
「あのお硬い浅井と一緒に日直か、大変だな」
「まあ言ってることは正しいんだけど、細かいし言い方キツいんだよな」
「ゲームとか全然興味なさそうだし」
友人達はそう言うが、光司は浅井倫子にそこまで悪い印象は抱いていなかった。
ちょっと気が強いけれど、真面目で他人にも自分にも厳しいところは美点だと光司は思っている。
それに以前偶然見てしまったが、彼女の端末の待ち受け画面はDFOの画像だったのだ。
みんなが思ってるほど堅物でもないんだよね、と光司は口には出さないが彼女のことを思うのだった。




