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30話

 翌朝、早朝の稽古を終えて端末を確認すると、秘ちゃんからこんなメッセージが届いていた。


『今日はランキング入り記念、わたしがお祝いのランチを作るよ!

 菜穂(なお)おばさんに連絡よろしくね』


 恋人の愛情たっぷり手作りお弁当イベント発生である。

僕は大急ぎで菜穂おばさん――もとい母さんに今日のお弁当はいらないと伝えるため台所に急いだ。


「母さん!今日のお弁当のことなんだけど……」


「そのことなら心配いらないわよ。良かったじゃない、秘ちゃんがやる気出してくれて」


「不器用なあの子が一生懸命がんばって作るんだから、褒めてあげなよ」


 が、家族ぐるみのお付き合いな花果家と三千院家、僕が伝えるまでもなく情報は共有されているようで、母さんとお祖母ちゃんに微笑ましく迎えられた。

そういえば稽古の途中でお祖父ちゃんもにやにや僕を見ていたような……


「もう、知ってたなら言ってよ……」


 ちょっと気恥ずかしくなって、文句を言いながら朝食の準備の手伝いに入る。


「それじゃあせっかく天を喜ばせようって連絡する秘ちゃんが可哀想でしょう?」


 母さんは僕の文句をまったく気にせずそう答えた。

その通りだけど、恥ずかしいものは恥ずかしいのである。

お互いの事情が家族経由で筒抜け状態での交際、流石に気まずいお年頃だ。


「小学校3年生くらいだったかねぇ、密くんといっしょにクッキーを焼いて、どっちがきれいに焼けたかでケンカしてたのは」


「ありましたね、いっしょに焼いたんだから差があるはずないのに」


 こういう懐かしエピソードも掘り出されちゃう!

あのときはケンカっていうか、秘ちゃんが一方的に言い張ってただけのはずなんだけどな。



 とはいえ、初めての恋人が作ったお弁当。(秘ちゃんの高校受験のときに僕が作ってあげたことはある)

午前の授業中、僕はそれはもうワクワクしながら過ごしていた。

どのくらいかと言うと、クラスメイトになんかいいことあった?と、聞かれるくらいに。

それに彼女の手作り弁当が待ってるんだと答えたら妬みの視線を浴びることになったが、背後のそれを無視して昼休み、軽い足取りで秘ちゃんの教室へと向かう。


「先輩方お邪魔しまーす」


「あっ、花果くん来た」


「いらっしゃーい」


「三千院さんがお待ちかねだよー」


 おや、何やらいつもよりたくさんのお出迎えとうっすら感じる妬みのオーラ。

秘ちゃんもクラスメイトに話したのかなと思って彼女の席の方を見ると、そこにはにっこり笑って僕を手招きする秘めるちゃんと、机の上に置かれた弁当箱――いや、重箱だった。


「待ってたよ、天!いっぱい食べてね!!」


 食堂派のため昼休みはいつも空席になっている秘ちゃんの前の席の椅子を借りて座ると、早速秘ちゃんが3段の重箱を広げ始める。

1つの段にはおにぎりがびっしり、半分は秘ちゃんが好きなのりたま入りで、もう半分は僕が好きなシンプルなのりのおにぎりだ。

残り2つの段にはおかずが入っていて、最低限の野菜を申し訳程度に入れているものの、ほぼ肉・肉・肉。

彩りなど放り投げた、男子高校生大喜び、もちろん僕も大喜びのセレクトだった。


「秘ちゃん、これ……」


「うーんと、ちょっと……それなりにパパにも手伝ってもらったけど、わたしがメニューを決めて作ったんだ!……どう?」


「……最高!」


 わーい!と両手でハイタッチする。

一般的には家族みんなでピクニックに持っていっても余りそうな量だが、運動やってる成長期の男子な僕と実は大食い体質の秘ちゃんなら全く問題ない範囲。

僕達は和気あいあいと食事を始め、お互いにあーんとかしちゃったりしつつ、猛スピードで重箱の中身を平らげていく。


「ごちそうさまでした!超おいしかった!!」


「お粗末様でした」


 テンションが上がっていたためいつも以上に食が進み、食べ終わったのはいつもよりさらに早い時間。

昼休みが終わる前にちょっと話していく時間は十分にある。


「ランキングに入ったけど、このまますんなり昇格ってわけにはいかないよね?」


「そうだね、っていうかもう圏外に落ちてるしね」


 そう答えて秘ちゃんはDFO公式サイトの闘技場関連ページを表示させた端末を僕に見せる。

言葉の通りカカソーラの順位はガクッと落ちてギリギリ昇格圏外にいた。


「うわ、いつの間にこんなに……」


「天が寝てる時間がメインのプレイ時間って層も多いからね。でも昨日みたいに連勝を重ねていけば一発昇格も射程圏内だと思う。そうすれば……」


 秘ちゃんは少しもったいぶってこう言った。


「闘技場史上2人目、クウ以来のカドリーユ一発昇格者になれるよ」


「そんなにすごいことなの!?」


「うん。ネットで闘技場絡みの情報を調べたんだけど、ベテランのプレイヤーが対策してから闘技場に参加して記録に挑んでも、まだ1人も成功してないみたい。2シーズン目から昇格できたってプレイヤーは何人か見つけたんだけどね」


 思ってた以上にすごいことをやりかけているのだと思い、思わず息を飲む。

そんな僕を見て、秘ちゃんは煽るように言った。


「この情報、プレッシャーになっちゃったかな?」


「まさか、やってやろうじゃんって気持ちになったよ」


「あはは、天ってけっこう勝負事好きだよね」


 好きかと言われるとそうでもないような気がするけど……

いや、武術を習うのが楽しかったり強い人を見つけたら自分もやりたい!ってなったりするし、自覚してないだけで勝負事大好き天くんなのかも?


「そう……なのかもね。ところでカドリーユの次、中級のプルミエから最高ランクのエトワールへはクウさんがどれだけかけて昇格したかも知ってたりする?」


「クウはそっちも一発で昇格してるみたいだよ。その後現在に至るまでエトワールの最上位」


「やっぱりかー。目標は遠いね」


 思わず遠い目をして感慨に浸る僕だったが、秘ちゃんがそれを許してくれない。

なぜならば。


「そんな遠い目標に至るために、日々コツコツと続けていかなければならないことがあります」


「……なんとなく予想がつくけど、教えて下さい」


「プルミエではレギュレーションが変わって、キャラの最高レベルは60、装備も更新が必要です」


「わーい、またレベル上げだー……」


 普通はレベルを上げきってから闘技場に参加するか、ランク昇格するまでに十分な時間があるかで生じないはずが、テンションに任せて生き急いでしまったからこそのレベル上げ時間足りない問題。

自分で飛び込んだ苦行だから仕方ないんだけどね!


「装備は今回もわたしが用意するし、メインシナリオの進行はもう関係ないからね。今から闘技場の勝ち点稼ぎと並行してやっていけば今までやって来たのよりは余裕があるはず」


「あ、余裕はあるんだ」


「その余裕に新たな戦闘スキル取得のため隠密(シーフ)陰陽師(オンミョウジ)の習得をねじ込む」


 余裕なかった!

もちろんやるけどねじ込むって表現がなんか怖い!!


「天の戦闘スタイルは相手の攻撃は耐えるより避ける方向性だから、タンクの戦闘スキルよりDPSの戦闘スキル優先ってことで隠密。あらゆる状況に対応できるように手札を増やすってことで陰陽師だね」


「その辺のチョイスはお任せします。……じゃあ史上2人目になるためにもがんばりますか」


 そう覚悟を決めたところで、もうすぐ昼休みが終わる時間。

僕は秘ちゃんに改めてお弁当のお礼と別れを告げて、午後の授業へと向かった。

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