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29話

「ふぅ……流石に疲れてきたし、今日はこの辺にするか」


 試合が終われば即次の申請、休憩にもならない短い待機時間を間に挟んでひたすら試合を受けまくること数時間。

いくらなんでも集中力が尽きてきたので、初日から張り切りすぎるのも良くないとここで切り上げることにした。

選手控室にある扉を開けようとすると表示される退出しますか?というシステムメッセージに「はい」を選択して、闘技場の受付まで移動する。


 あたりは相変わらずのにぎわいで、待っているはずのアルカナを見つけるのに手間取ったが、遠巻きに何かを見ている集団を見つけたらその視線の先にいることをなんとか発見できた。

僕は人混みをかき分けそちらに向かい、手を振りながら声を掛ける。


「お待たせ、疲れてきたから今日はこの辺でやめとく……」


「見てたよ、すっごかった!」


 するとアルカナは僕が全部言い終わる前に駆け寄ってきて、はしゃぎながら僕の腕をつかんでぶんぶんと上下に振り回した。

その後さらに右手を掲げてハイタッチの構えをするので、とりあえず僕も乗っかって右手を上げ、空中でお互いの手をはたく。


「ありがとう。でもこんな人前で大丈夫?」


 他のプレイヤー達の視線を感じたので、僕はつい照れてしまってそう言った。


「いいんだよ、気にしない気にしない!闘技場の新星として嫌でも注目浴びていくんだから、このくらい誤差だよ」


 アルカナはかなりのはしゃぎようでそう答えた。

闘技場の新星って、確かに打倒クウさんを目指すとなるとそう呼ばれるくらいにならなければいけないが、アルカナもちょっと気が早いみたいだ。

そんな風に考えていたところ、アルカナが何かに気づいたような仕草をする。


「どうしたの?」


「ボイスチャットの通知、ルピナスさんからだね。ちょっと待ってて」


 アルカナは二、三言葉を交わしてから会話を終わらせ、僕の方に視線を戻す。


「他のみんなも切り上げたから合流しようって。奥の銅像の方にいるらしいから行こう」


「了解。みんなで報告会だね」


 僕達は受付エリアの奥の方、闘技場のオーナーだというエルフの貴族の銅像が立っている場所へと向かった。

こういうことはだいたい趣味の悪いおっさんキャラのやることだが、趣味が悪くてもエルフなので銅像の見映えはたいへん良かった。

その台座のあたりに目的の3人、ルピナスさん、シリウスさん、MEIさんはいた。


「いたいた。みんなお疲れ様」


 アルカナが声をかけると、まずルピナスさんが返事をした。


「お疲れですよー。なかなか充実した時間だったね!」


「やっぱり対人戦は勝手が違うな。そっちはどうだった?」


 シリウスさんの質問に僕は意気揚々と答える。


「僕もめっちゃお疲れですけど、楽しかったです!」


「それは良かった」


「楽しめなきゃ意味ないからね……で、勝ち点の方はどう?」


 ルピナスさんが急にシリアスな雰囲気を醸し出しながら聞いてくる。


「えっと、実は……」


「ステイ、カカソーラ。その前にそっちの成果を聞かせてよ」


 なぜかアルカナが遮ってきた。

なにやら満足気な表情でルピナスさん達を見回しつつ、である。


「えー、まあいいけどさ。ほら、こんな感じだよ」


 ちょっと不満気な表情をしながらも、ルピナスさんは闘技場プロフィールを表示する。

ルピナスさんのそれはいつの間にかピンク色の背景になっていて、画像の中のルピナスさんはあざといポーズを決めている。

その下に記されている戦績は、およそ7割の勝率であることを示していた。


「なかなかいい線行ってると思うんだ。ねっ、MEIさん!」


「……そうですね。私はこんな感じです」


 話を振られたMEIさんは苦笑いをしながら同じく闘技場プロフィールを見せてくれた。

こちらはまだ初期の白い背景で、画像もまるで証明写真である。

戦績の方は、勝ち負けは五分五分、若干負けのほうが多い。


「ルピナスはあまり煽らないように。俺は勝率6割くらいだな」


 ルピナスさんをたしなめながら最後に見せてくれたシリウスさんの闘技場プロフィール。

その言葉の通り勝率は6割程度、いや、むしろ7割弱と言った方が近いかもしれない。


「ふーん、みんなけっこうやるじゃん」


 アルカナは謎の満足気な振る舞いは続行中である。


「なんか気になる言い方!リクエスト通り先に成果教えたんだから、カカソーラさんのも早く教えてよ」


「慌てなくても見せないとは言ってないでしょ?さ、見せてあげな、カカソーラ」


「ごめんね、アルカナが謎のテンションで……僕の戦績はこんなんです」


 フォローをしつつ、僕の闘技場プロフィールを表示し3人に見せる。

それを見た3人は同時に大声を上げた。


「はぁ!?」


「嘘だろ!?」


「なんと!!」


 そこに表示された僕の戦績は、全勝。

勝率100%、である。

要するに、アルカナはこれを自慢したかったんですね。

嫌味じゃん!出すのめっちゃやり辛かったよ!!

今もどういう反応されるのか怖い!


「えっと、マッチングの運が良かったんだと思います……」


 つい言い訳じみた言葉を漏らしてしまう。

そんな僕の不安をよそに帰ってきた反応はと言うと――


「すごいじゃないか!修練場で動き見せてもらったときからヤバいとは思ってたけど、本当にここまで出来るなんて!」


 まっすぐな称賛を送ってくれるシリウスさん。


「おみそれしました。やはりVR適性は実在しますね、面白いことになってきた……」


 僕を褒めつつ自分の世界にも浸っているMEIさん。


「すっごい!!ねえ、試合の動画見て来ていい!?いや、その前に何かコツとか……じゃなくて、まずはおめでとうだね、誘った側としてうれしいよ!!」


 とにかく大興奮のルピナスさんといった感じだった。

みんな懐が深くて良かった。

この反応に喜んだのは僕だけではなく、自慢したくて仕方なかったと思われるアルカナもだった。


「試合を見てたわたしが保証するけど、戦った相手にはそこそこ慣れてるっぽい相手もいたよ。その証拠に勝ち点もほら、一番貯まってるでしょ?」


 勝利によって得られる勝ち点は試合相手との所有している勝ち点差によって変動し、勝てば勝つほど次に得られる勝ち点は減っていく。

全勝しながらも十分に勝ち点を得てきたということは、試合相手も同じく勝利を重ねて来た相手だったという証拠である。

……さっきの僕の言い訳がただの出任せだったことになりますね。


「ホントだ……ねえ、これもしかして、ランキング入ってるんじゃない?」


 ルピナスさんはそこにはツッコまず、新たな可能性を提示する。

所有する勝ち点のランキング上位者が次のランクへ昇格できるので、ランキングはリアルタイムで公表・更新されているんだったか。


「そっちはまだ確認してないですね。えっと、どこから見れるんだっけ?」


「メニューに『闘技場』が増えてるはずだからそこに入れば『ランキング』があるはずですよ」


 MEIさんの説明通り「ランキング」のページを開くと、3つのタブに別れた画面が表示される。

最初に表示されているタブには最高ランクのエトワールのランキングで、もちろん1番上にはクウさんの名前がある。

タブを切り替えてカドリーユのランキングを表示してスクロールしていくと、あった。

昇格圏内に僕――カカソーラの名前があったのだ。

えっ、これ……闘技場の新星、なれちゃう?

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