28話
「っっっやったーー!!」
試合終了後再びワープで戻ってきた選手控室で僕はガッツポーズをした。
興奮冷めやらぬ気持ちで自分の闘技場プロフィールを確認すると、0だった勝利数が間違いなく1に増えており、いくらかの勝点も入手している。
「わあっ、本当に勝ったんだ……」
少しの間数字を見つめ、勝利の味を噛みしめる。
しかしいつまでもひたっていてもしょうがない、さらに試合をこなして経験を積み、出来れば少しでも勝ち点を増やしたい。
僕は再び選手控室にある掲示板へ向かい、さらなる試合のマッチングを開始する。
今回もすぐにマッチングは完了し、次の対戦相手――眼鏡をかけた召喚士が表示された。
「『試合を受ける』っと……よし、次もがんばるぞ!」
*
召喚士は妖術士の上位職で、様々な召喚獣を呼び出して戦う魔法使い系のDPSである。
召喚獣の発動する効果は魔術師の魔法に威力では劣る分、召喚にかかるキャストタイムは短いという特徴を持っている。
さらに召喚獣は一定時間同時に3体までフィールドに留まり続けるため、擬似的なパーティを構築することが出来る。
そのため魔法使い系職業の中では魔法剣士に次いでソロでの戦いに向いている、とアルカナが言っていた。
1対1といいながら4対1に近くなる次の戦い。
とはいえ召喚士がその理想的な状況を簡単に作れてしまうなら、闘技場の参加者は召喚士だらけになってしまう。
そうなってはいない理由、召喚獣対策はもうある程度確立されているのだ。
過去の試合動画を見てそれを学んでいる僕は、落ち着いてそれを思い出して試合に挑む。
「【サモン・サンダーバード】!」
相手の召喚士がまず呼び出したのはキャストタイムが最も短い雷属性の攻撃型召喚獣だった。
雷のオーラをまとって突進してくる霊鳥をかわし、僕はその対策に移る。
おそらく相手は僕がサンダーバードに対処している間に他の召喚獣の呼び出しも済ませてしまうつもりなので、ここは迅速に対処を済ませなければならない。
僕はカートリッジを消費、戦闘スキル【マジックバレット】によって魔術師の初級氷属性魔法【アイスアロー】をサンダーバードにお見舞いする。
するとサンダーバードは断末魔の叫びも残さず消滅する。
これが基本的な召喚獣対策、「対属性中和」である。
DFOには物理・火・水・風・土・雷・氷・光・闇の9つの属性が設定されている。
そして物理以外の8つの属性には対となる属性――火と水、風と土、雷と氷、光と闇――があり、反発し合うようになっている。
その設定に従って、召喚獣は自分の属性と対になる属性の攻撃を受けると1発で消えてしまうのだ。
……簡単そうに思えるが、戦士系の職業にとって物理以外の属性攻撃を行うのはけっこう大変で、今使った【マジックバレット】もそこそこカートリッジの消費が重い。
つまりこのまま相手が召喚獣を揃えてしまう前に速攻でこちらの攻撃に移らなきゃいけない!
「はぁぁぁ!!」
「させるか、【サモン・ゴーレム】!」
僕が速攻を仕掛けてくること読んでいたのか、相手が召喚しようとしていたのは土属性の防御型召喚獣だった。
だが、もちろん僕だってそれが出てくることを読んでいた。
土属性と対になる初級風属性魔法【ウィンドカッター】を発動。
ゴーレムは呼び出された瞬間に魔弾と対消滅する。
「行くぞ!」
今度こそこちらの番、相手の召喚士にコンボ攻撃を叩き込む。
吹き飛ばされた相手は立て直しを目論むが、そうはさせない。
動画で得た攻略法の次は、僕のVR操作能力を活かす番だ。
カカソーラの肉体の優れた体幹を十全に活かし、技を打ち込んだ後の体勢から途切れることない動きで吹き飛ばした相手の方に踏み込む。
その動きに驚愕した召喚士は隙を生んでしまい、僕の刃の餌食となる。
鐘の音。僕の勝利だ。
*
三戦目、相手は双剣士の上位職、みんな大好き忍者だった。
忍者は短剣2本から繰り出される怒涛の連続攻撃と印を組み合わせて発動する特殊な戦闘スキル・忍術が特徴の職業だ。
忍術はMPを消費しないが魔法として扱われ、戦士系の職業では本来突破できない通常ダメージ耐性を突破したり、様々な補助効果を受け取ることが出来る。
弱点としては印の組み合わせが本気で複雑な上に失敗すると自分がデメリットを受けてしまうという点がある。
そのため初心者ランクのカドリーユでの忍者はよく使ういくつかの忍術の印だけを覚えて、強力でも汎用性の低い忍術の使用は諦める、という戦法を取っているプレイヤーが多いようだ。
アルカナの職業講座と過去の動画視聴で集めたデータを呼び起こしつつ目の前の試合相手を観察する。
さて、この相手ははたしてどんな忍術を覚えているのか、それとも実は全ての忍術を使い分けられるほどの実力者か?
なんにせよ、相手が忍術を使い始めたら素早く種類を見分けなければ。
そう気合を入れたところで、試合開始の合図が来た。
「行くぞ!」
「はあぁぁぁ!」
戦士職同士、相手も僕もまずは接近戦を仕掛ける。
僕の武器のほうが間合いと威力は大きいが、相手の方が取り回しと手数では有利。
ならば打ち合いを制するのは、お互いの特性をより理解している方だ。
忍術も含めるのならDFOのプレイ時間が長い試合相手に軍配が上がるだろうが、武器の打ち合いである現段階では現実で武術をやっている僕の方が上だった。
「もらったぁ!」
いける――と思いかけたところで、忍者が次々に様々な色のオーラを発していたことに気がつく。
これは、印を入力しているエフェクトだ。
その組み合わせから予測される忍術は【隠形の術】、自身を透明化させる効果のものだ。
おそらく相手は既に普通の接近戦では不利だと判断し、それを覆すための作戦を立てたのだ。
忍者は回避と同時に印の入力を完了し、その姿を消す。
このまま見失ってはまずい……が、見失わないための策はある。
地面に残る影、地面を踏みしめる音、相手の動きが引き起こした空気の動き。
直接的な情報以外を頼りに相手の位置を割り出す、お祖父ちゃん直伝の武術の技を活かすときだ!
教わったときはこんな技術活かす機会なんて絶対来ないと思っていたが、なんと今がその時だ。
ありったけの自己強化効果を持つ戦闘スキルを発動した渾身の一撃を、空中に向かって叩き込む。
「なにぃ!?」
はたして、その一撃は命中した。
このチャンスをふいにはしない、さらにコンボ攻撃を繰り出し相手を地面に叩きつける。
足で踏みつけた感覚で相手の位置を確かめ、そこに【マナバレット】の追撃。
そこでちょうど【隠形の術】の効果が切れ、忍者が姿を現した。
まだ諦めておらず、僕がとどめの攻撃に移る前にと性急に印を入力している。
全ては見えないが、状況を含めるとどの忍術を使うかは予想がついた。
おそらく【変り身の術】、後方に移動しつつ自分がいた位置に爆発して火属性ダメージを与える身代わりを設置する術だ。
「終わりだ!」
僕の叫びに、忍者はひりついた笑顔で答える。
「いいや、まだだ!」
印の入力が完了、僕の前には身代わりが残る。
だがそれが爆発する前に僕は初級水属性魔法【ウォーターレイン】を発動。
忍術は魔法として扱われる、だから忍術による身代わりも召喚獣と同様に対になる属性の攻撃で消滅させられるのだ。
「言ったよ、終わりだって!」
後方に退いた忍者に追いつき、とどめを狙った一撃を打ち込む。
今度こそどうしようもなく相手はそれを受け、鐘の音が鳴った。
三連勝。運もあるのだろうが、けっこういけるんじゃない僕?




