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27話

「今日は随分気合いが入ってるな」


 4月15日、日課の稽古中お祖父ちゃんにそんなことを言われた。

闘技場に向けて気持ちが高揚しているのが、期せずして稽古にもいい影響を与えたようだった。

はたから見ていたらしい門下生のみなさんも、気迫が違うと口々に褒めてくれる。


「最近楽しいことが多くて調子がいいからかな」


「そりゃあいいことだ。よし、今日の残りの稽古は俺が見てやろう」


「あはは、お手柔らかにお願いしまーす」


 身長が伸びてきたのと若さとでなんとか勝負の形に出来ているが鍛錬の差は歴然で、お祖父ちゃんとの手合わせで僕は負けっぱなしなのだった。

こっちの勝負もがんばっていかなきゃな、と思いつつ、今日もやっぱりボコボコにやられた僕だった。



 お風呂とか夕食とかもろもろのことを済ませて、秘ちゃんに連絡してからDFOにログイン。

昨日待ちきれずに闘技場の目の前に行ってからログアウトしたので、ログインしたらすぐ目の前に闘技場である。

しかし昨日までとは違ってそこは大勢のプレイヤーによって埋め尽くされていた。

思わず圧倒されていると、アルカナからボイスチャットがかかってくる。


「もしもし、わたしだけど。今どの辺にいる?」


「えっと、闘技場の入口の本当に目の前。入口から見て右の大きい柱のところだよ」


「わかった。すぐそっちに行くね」


 そう言ったすぐあと、プレイヤーの人混みに変化があった。

ある方向がうねるように動き出し、有名な旧約聖書のエピソードのように人混みがきれいにわかれる。

そこから颯爽と歩いてきたのは、予想通りアルカナだった。

内容まではわからないが、周囲のプレイヤー達はアルカナを見ながら興奮したように会話をしている。

有名プレイヤーを目撃できたことに喜んでいるのか、あるいはアルカナも闘技場に参加すると勘違いしてしまったのか。

まあ話題の渦中の本人は全く気にする様子もなく、朗らかに僕に話しかけてくる。


「お待たせ。どう、心の準備は出来てる?」


「もちろん!それにしてもすごい人だね、こんなにたくさんのライバルがいるんだね」


 気持ちを高ぶらせて言った僕だったが、アルカナはあっさりと否定した。


「いや、試合を見たり有名プレイヤーのおっかけしたりするためだけに来てるのも多いよ。わたしもさっきから直接話しかけられはしないけど、じろじろ見られたりついて来られたりしてる」


「一流は大変だね」


「そこまでじゃないって。それよりここでダラダラしてていいの?」


 一流と言われて照れたのか、露骨に話題をそらしてくる。

だが一刻も早く僕も試合に参加したいのは事実なので、周囲の目線を放っておいて、僕達は闘技場の中に入る。

受付に行って参加の手続きをすると、選手控室に移動しますか?というシステムメッセージが表示された。


「ここから先は参加者だけのエリアに入るみたい。行ってくるね!」


「うん、ちゃんと試合観ながら応援してるから、がんばって!」


 手を振るアルカナの応援を胸に、僕は選手控室に移動した。

そこは簡素な個室で、闘技場内にあったのと同じ過去の試合を観るための魔法の映像機、十分なスペースと特訓くん、現在のマッチング状況を表示している掲示板などがあった。

対戦相手決定までの予想される時間が短かったので、掲示板を見ながら待機する。

実際あっという間に対戦相手は決まって、闘技場プロフィールが表示される。

背景も画像に写っている対戦相手の装備も真っ黒で、職業は大剣士(ヘビーソード)の上位職でDPSの合体剣使い・剣舞士(ソードダンサー)、名前は「†セツナ†」と記されていた。

端っこの記号なんて読むんだろう?

まあそんなことはどうでもいいので、僕は「試合を受ける」を選択、間を空けずに試合が成立しました、舞台に移動しますというシステムメッセージが現れて、ワープで選手控室から移動した。


 闘技場の舞台は、外から見た印象通り古代ローマ風の造りだった。

観客席にはまばらにNPCが配置されており、プレイヤーは僕と正面にいる真っ黒な衣装の青年――†セツナ†さんしかいない。

上空に浮かぶ試合開始までのカウントダウンを確認してから、まずは挨拶をする。


「こんばんは、カカソーラです。よろしくお願いします」


「フフフ……初試合のようだな?手加減はしてやらないが、挑んで来た勇気は称賛しよう」


 妙に芝居がかった言い回しだった。

この人もロールプレイというやつをやっているのだろうか?


「お互いがんばりましょう!えーっと、名前の読み方はセツナさん、でいいんですよね?前後の記号の読み方がわからなくて」


「……そ、それで大丈夫です」


 なぜかぷるぷる震えだした。

何か変なことを言ってしまっただろうか?



 一方その頃、アルカナはカカソーラの試合を観戦すべく選手をフレンドリストで絞り込み、迅速にカカソーラの名前を見つけ出し、試合画面を目の前に開いていた。

そこに声をかけて来た白熊の着ぐるみ――MEIが現れた。


「こんばんは。カカソーラさんはもう始めたようですね」


「ええ、こんばんは。せっかくだから一試合見て行きません?」


 アルカナが試合画面を少し大きくして、MEIに勧める。


「そうですね、では失礼して……」


 画面にはカカソーラと対戦相手の†セツナ†の名前が映し出されている。

MEIは悶えだした。


「どうしたんですか!?……もしかして、課金で改名したけど始めた頃の名前は……」


「はあ、はあ……お察しの、通りです。消したつもりでも過去は追いついてくるものですね、(ダガー)……」



 試合開始まで、あと10秒。

†セツナ†さんの震えも収まって、両者とも準備万端だ。

実力を発揮できるように心を落ち着かせつつも、勝ちたい気持ちを燃やすのを忘れずに。

ソードバレルを構えて、試合開始の合図を待つ。

3、2、1――0!


 合図とともに僕は戦闘スキル【リロード】でMPをカートリッジに変換、続けて【マジックバレット】で魔術師の弱体魔法【カース】を発動する。

【カース】は相手の受けるダメージを低倍率だが属性問わず増加させる優秀な魔法だ。

魔法は抵抗されることなく通るが、突撃してくる†セツナ†さんはそれを気にする様子はない。

合体剣を攻撃力重視の大剣の形態にして、僕目がけて振りかぶる。


「はあぁぁぁ!!」


 当たればそれを起点に強力なコンボで大ダメージを喰らうのだろうが、この程度の動き、日々お祖父ちゃんに鍛えられ、VRの身体能力を得た僕にとって避けるのは容易い。

最小限の動きでこれを交わし、さらに†セツナ†さんの死角を取る。


「くっ!」


 もちろん相手は立て直そうとするが、そんな余裕は与えない。

【マジテックソード】から始まる銃剣士の基本コンボを叩き込み吹き飛ばして、【マナバレット】でそれを追撃する。


「まだまだここから!」


 そう叫んで、カートリッジを消費して攻撃力を高める戦闘スキル【オーバーロード】を発動。

立て直そうともがく†セツナ†さんに再び【マジテックソード】からのコンボをお見舞いする。

大ダメージを与えたが、相手を戦闘不能にするには至らない。


「こっちこそ、まだだ!!」


 †セツナ†さんは合体剣の形態を短時間しか使えない最強形態・七剣乱舞に変更する。

両手に1本ずつ持ち、空中に5本浮かべた片刃剣を自在に操り猛攻撃を繰り出すのがこの形態だ。

しかし、数が多すぎるのだろう、1つ1つの攻撃が雑だ。

冷静に、確実にいなして七剣乱舞の稼働時間を使い切らせる。

ついに効果が切れた瞬間、生まれた隙を逃さず【マジテックソード】を叩き込む!


 鐘の音と共に、「YOU WIN」の文字が浮かぶ。

初試合、初勝利を飾った瞬間だった。

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