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25話

挿絵(By みてみん)


 リン――浅井倫子(あざい・りんこ)はやや乱暴な手つきで装着していたダイブ・ギアを取り外した。

きらびやかなDFOの世界と違い慎ましやかな自室を少し見回して、心を落ち着けようと深呼吸をする。

しかし、まだ中学2年生、満年齢は13歳の彼女には感情のコントロールは難しいことだった。

ダイブ・ギアを机の上に置いて、勢い良くベッドに飛び込む。


「……なんなのよ、あいつ」


 怒りを込めてそう呟いてから、枕もとにいつもいるお気に入りのマスコットキャラクターのぬいぐるみをつかんで抱きしめる。

頭に浮かぶのは今日出会ったカカソーラとかいうプレイヤーのことばかり。

せっかく闘技場でアルカナさんに会えたのに、どうしてあんなやつに台無しになさなきゃいけないんだろう?

そんな不満をぬいぐるみを抱きしめる腕に強くこめる。

倫子はイライラする気持ちをいつもそうして発散しているのだ。


 倫子がDFOを始めたのは10歳のとき、小学4年生のクリスマスからだ。

当時はVRMMORPGを題材にしたアニメが大流行しており、倫子もその影響を受けて小学生でもプレイできて評判の良いゲームを探し、DFOを見つけた。

元々お絵かき帳にオリジナルのキャラクターを描くのが大好きだったこと、影響を受けたアニメにいたロールプレイヤーの登場人物が好きだったこともあって、キャラメイクは設定までがっつり気合を入れて正しく自分の分身として作り上げ、ロールプレイメインのプレイスタイルを選んだ。

公式サイトを使って同じプレイスタイルのプレイヤーが集まるクランも見つけ、DFOのプレイヤーの大部分を占めるライトユーザー層としてゲームを楽しんでいた。


 それが変わったのはある装備、現在も外見をマジックスキンで愛用しているものをクランのみんなで作ってみないか、と企画が持ち上がったときだった。

高難易度コンテンツ全体から見ればそう難しいものでもないが、倫子達ライトユーザーにとっては敷居の高い24人レイドダンジョン・悠久の神域。

そこに挑戦するにあたって、まずクランでは攻略記事や攻略動画を吟味してしっかり予習しようということになった。

そして倫子は出会った――憧れのプレイヤー、アルカナに。


 当時の《ヴァンガード》は急速に頭角を現してきた新進気鋭のクランだった。

一糸乱れぬ連携プレイを武器に高難易度コンテンツを迅速に攻略し、高い分析力で安定した攻略法を割り出す。

公開する攻略動画のコメントからたまに伺われるクラン内での遠慮のないノリには賛否両論あったが、総合的には高い人気を博していた。

アルカナはその中でもエース、魔法剣士の特性を最大限に活かし近接戦闘・遠距離攻撃・回復・バフ・デバフ、時にはサブタンクまでこなしてしまう万能選手として目立つ存在だった。


 魔法剣士は近接戦闘もある程度はこなせるものの本業は魔法職。

当時主流の――現在でもヘビーユーザー以外にとっては間違っていない認識なのだが――そんな認識を持っていた倫子は衝撃を受けた。

衝撃のあまり目的の悠久の神域に関するもの以外の《ヴァンガード》の攻略動画も漁ってみたところ、アルカナをメインとした魔法剣士講座、魔法職にオススメのスキル構築など関連動画はたくさんあった。

アルカナの中性的で大人びた女性のようにも、優しげな男性のようにも聞こえる声で紡がれる解説はとてもわかりやく、倫子の心を鷲掴みにした。してしまった。


 倫子はアルカナの背を追って、ライトユーザーからヘビーユーザーの世界へ足を踏み入れた。

アルカナの動画を参考に自分のメイン職業・魔導師を徹底的に練習、そして研究した。

クランのメンバーと挑んだ悠久の神域では獅子奮迅の活躍をし、称賛の嵐を浴びた。

もちろんそれだけでは満足せず、少しでもアルカナのいる高みにたどり着くためにクラン単位ではなくメンバーを募集して高難易度コンテンツに挑んでいるグループに混ざって修業を積んだ。

道のりは険しかった。

装備を揃えるための素材集めには何度も心が折れそうになったし、散々他のメンバーに迷惑をかけておきながら悪態をついて去って行くプレイヤーとギスギスしたこともある。

バランス調整の結果魔導師の性能が弱体化したときは思わず日村Pの名を叫んだ。

だが倫子は心折れず、メキメキと腕前を上げていった。


 そんな苦労が神様に認められたのか、1年ほど前からアルカナがたまに助っ人でやって来るグループに倫子も参加できるようになった。

舞い上がりすぎて挨拶のときは噛んでしまったし、その様子を倫子がアルカナのファンだと知っているグループのプレイヤーにからかわれもしたが、それは些細なことである。

憧れの人と一緒に遊べる、その指示を受けたり、時にはサポートをすることも出来る。

打ち合わせの合間合間に、他愛のない雑談だって出来るのだ。

アルカナと一緒に高難易度コンテンツに挑む間、倫子は幸福の絶頂にいたと言っていい。


 あのダンジョンは面倒臭かった、あのボスの演出は綺麗だけど発動後の効果がエグい。

そんな風にアルカナは色んなことを倫子に教えてくれたが、一つだけそれはやったことがないと言われたものがあった。

それが闘技場である。

倫子は思った、自分が先に闘技場で結果を出せば、アルカナに一緒にやってみませんか、と誘う口実になるのでは?

その計画というより妄想に近い考えを、倫子は実行した。

なにしろその頃にはPvPに挑むことに気後れを感じないほど、彼女も染まってしまっていたから。


 情報収集と事前準備を重ねて、先々月のシーズンから闘技場への参加を開始した。

最初のシーズンこそ負け続きだったが、闘技場の空気やコツはしっかりと掴んでその次、先月のシーズンではけっこうな勝点を稼ぎ出し十分な手応えを得た。

その結果見事初心者ランク・カドリーユを卒業し、今月のシーズンから次のプルミエに進むことが出来たのだ。

大きな達成感とともに、闘技場で観られる先月のシーズンの動画でプルミエの研究をしようと今日あの場に行ったのだ。

そこで偶然にもアルカナと鉢合わせ、予定とは違うがより親交を深めるチャンス到来と思い、わくわくして話しかけた。

なのに、その隣には妙にアルカナと親しげな初心者がいた。


 カカソーラ。

声と話し方からは中学生か高校生くらいの少年という印象を受けるプレイヤー。

アルカナの身内って、一体どういう関係だ?

惜しげもなく装備やG(ゴールド)を注いであげられる関係なんて友人、家族、あるいはもっと……?

そこで倫子はブンブンと頭を振る。


「べ、別にそこは関係ないじゃない。どんなに親しくたって、甘え過ぎちゃいけないラインはあるんだから」


 思わず考えを口にしてしまう。

自分は決して、カカソーラがアルカナと親しそうだから嫉妬をぶつけているわけではないのだ。

言い聞かせるようにそう考えて、ばっと倫子は起き上がった。

流石にそろそろ寝る支度をしなければならない。

寝坊したり授業中に居眠りしたりしてしまえば親に怒られてDFOのプレイ時間を減らせと言われるかもしれない。


「あーあ、アルカナさんはどうやってプレイ時間を確保してるのかな」


 そんなことを考えながら眠りについた倫子は、その晩夢を見た。

夢の中で彼女は現実でアルカナのプレイヤー(倫子の妄想、ゲーム内のアルカナにそっくりな少し年上のお兄さん)と会うことになっていた。

お洒落をして、手を振りながら彼の方に駆け寄っていくと、隣にもう一人誰かいる。

そう、カカソーラである。


 倫子は翌朝悲鳴とともに目を覚ました。

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