24話
闘技場の前提クエスト「戦士の舞台」はNPCのミシェルさんからいくつか説明を受けるだけで、拍子抜けするほどあっさり終わった。
クエストが完了するとメニューの中に「闘技場プロフィール」という項目が加わり、とりあえず選択してみると免許証のようなデザインのプロフィールカードが表示される。
真っ白な背景に証明写真のような僕――カカソーラの画像、名前にカドリーユの階級、まだ0だけが並ぶ戦績がそこには記されていた。
「見て見て!これで闘技場にエントリー出来るみたいだよ」
「どれどれ……うん、大丈夫っぽいね。見た感じ背景とかは闘技場で実績出した報酬で変えられるようになるみたいだけど、キャラ画像とここのコメント欄はもう変更できるんじゃない?」
アルカナのアドバイスに従って闘技場プロフィールをいじっていると、確かにその2つは変更可能だった。
コメント欄には志は高く「打倒!クウ」と入力して、キャラ画像はスクリーンショット機能を使う必要があるみたいなので起動しカッコ良く見えるポーズを模索する。
とりあえず武器に手をかけ抜刀術の構えを取って撮影してみる。
「……よし。アルカナ、こんな感じでどうかな?」
「いいね、カッコ良く決まってるよ。コメントの方はいきなり大きく出過ぎな気もするけど……」
「最終的にはそこを目指すんだから、最初から言ってもいいじゃん」
表示されているプロフィール画面を並んで見ながら、アルカナとそんなことをおしゃべりする。
まだ闘技場のシーズンが始まっていないので、周囲にはプレイヤーの姿はそこまで多くない。
その多くが僕と同じく今のうちに前提クエストだけでもクリアしておこうとやって来た闘技場初心者のようで、僕達の行動は目立っているわけでもなかった。
しかし、僕はともかくアルカナはそれなりに有名人。
それが闘技場に顔を出したのを見つけて、声をかけてくるプレイヤーがいた。
「こんばんは、アルカナさん。もしかしてあんたもついに闘技場を始めるのか?」
その声はだいぶ下の方から聞えてきた。
目線を下げるとそこにいたのは小柄な種族・ブラウニーの女の子。
いかにも魔女といったとんがり帽子とローブをまとった、小さい割には大人っぽい雰囲気のキャラクターだった。
頭上に浮かぶプレイヤー名は「リン」、口振りからアルカナの知り合いなのかと思いそちらを振り向く。
「どうもこんばんは。ご期待に添えなくて申し訳ないけど闘技場を始めるのはわたしじゃなくてこっちのカカソーラ……わたしのリアル身内で初心者だよ」
あまり親しい間柄というわけでもないのか、今回は彼氏とは紹介されなかった。
それはともかく紹介されたからには僕も挨拶をしなければ。
「どうも、カカソーラです。えっと、リンさんも同じクランの人?」
僕の問いに二人は首を横に振る。
「おれはロールプレイヤークラン《ウィッチクラフト》に所属しているリン。アルカナさんとはこれまでに何度か困難なる冒険で助っ人をしてもらった関係だよ」
「ロールプレイヤー?」
「DFOの世界のキャラになりきるプレイスタイルの人のこと。今は初心者のカカソーラの前だからロールプレイ度ゆるめだけどね」
「あはは、おれことリンは魔術の深奥を探求する学徒だぜ」
ふむ、設定を詰めるのは大変そうだが中々楽しそうなプレイスタイルである。
では彼女が言う「困難なる冒険」というのはなんらかのゲーム用語の言い換えだろう。
「ざっくり言うと、《ヴァンガード》が暇なときに募集探して高難易度攻略の助っ人を何回かした関係」
「助っ人までやってるんだ、流石アルカナ」
「そう、アルカナさんはすごいんだ!クランの仲間との万全な状態での攻略だけじゃ満足せず、急造のチームでも突破できる盤石の攻略法を導き出して、それを惜しげもなく公開する。ククルカン大陸の冒険者の鑑なんだ!」
リンさんは興奮した口調でアルカナを褒めちぎる。
どうやら彼女はアルカナの大ファンのようだ。
僕の彼女が慕われてて鼻が高いよ……と上機嫌でそれを聞いていたのだが、一通り話し終わってから僕の方を見たリンさんはギッと目つきを鋭くする。
「……で、そんなアルカナさんの身内だっけ?カカソーラさん。あんた、新顔なのに闘技場に挑戦するなんて、一体どれだけアルカナさんに寄生したんだ!?」
「へっ、寄生?」
強い言葉に面食らってしまうが、リンさんは勢いを緩めずさらに続ける。
「アルカンジェルに来るまでの手伝い、闘技場用の装備、修業の手伝い、ぜーんぶアルカナさんに頼りっきりだったんじゃないのか!?」
「え……そう言われると、確かにアルカナに頼りっきりだし、色々おごってもらったけど……」
「やっぱり!そんなズルいことしておいて恥ずかしくないのか?なんだよ、露骨にクウを意識した格好なんかしてさ」
言われて改めて考えると、確かに甘え過ぎたような気がしてくる。
自力でこつこつやって来た人から見たら反感を覚えてもおかしくないし、その上甘えている相手が憧れている有名人だったら苛立ちも増すことだろう。
キャラクターの外見は偶然だけど!
「そんな付け焼き刃の強さなんて、闘技場では通用しない!せいぜい連敗して負け惜しみでも……」
「リンさん、その辺にして」
アルカナの怒りを隠さない声がリンさんの勢いを押し止める。
「確かにちょっと乱暴な攻略をさせちゃったけど、それはカカソーラにやらされたことじゃなくてわたしもやりたくてやったことだよ。それにチートやアカウント売買には手を染めてないんだから、人にとやかく言われる筋合いはない」
「ッ!アルカナさん、でも……」
「付け焼き刃の強さは闘技場で通用しない?その通りだね、わたしもカカソーラが負けたらそう言って鍛え直してあげるつもりだったよ。でも新しいコンテンツへ挑戦しようとしてるプレイヤーにどうせ負けるなんて言って萎縮させるほうがマナー違反じゃないの!?」
アルカナの勢いはリンさん以上だった。
昔からアルカナは身内をかばうときは必要以上にヒートアップしてしまう悪癖があるのだ。
「アルカナ、もういいよ!そもそも僕が無茶を頼んだのが悪いんだ」
慌てて止めに入る僕だったが、結果はこの通り。
「カカソーラは黙ってて!!」
「あんたは黙ってろ!!」
対立しているはずの二人に声を揃えて反発されてしまった。
ちょっと腑に落ちない!
そしてここまでの会話はリンさんが話しかけてきてからずっと会話モードは近くのプレイヤーには聞こえるようになっていた。
つまり、周囲からもめごとが起きたのかと不安気に見られ始めてきた。
それに最初に気がついたのはリンさんで、不満気ながらも矛を収めることにしたようだ。
「アルカナさんの顔に免じて今日はこの辺にしといてやる!闘技場で会ったら叩きのめしてやるから覚悟してな!!」
そんな風に捨て台詞(会話モードは僕にだけ聞こえるようになっていた)を残して去って行った。
残ったのは僕と、こっちもまだ不満気にしているアルカナ。
とりあえず落ち着いたと判断したのか、周囲のプレイヤーの目も離れていく。
「……ふん!ごめんね、カカソーラ。嫌な目にあわせちゃって」
「いや、さっきも言った通り僕に問題があったわけだから……それにしても、あのリンさん」
「リンさんね。あの人普段はもっと落ち着いてるのに、今日に限ってなんか刺々しかった……」
普段と違ったという事実はさておき、僕が気になったのは別の点。
「オレっ娘だったね……」
「人のキャラ作りは気軽に触れていっちゃ駄目だよ」




