23話
複雑な気分は一旦置いておいて、僕とアルカナはフレイさんに連れられて《ヴァンガード》のクランハウスの地下に移動した。
そこは鍛冶場、実験室、厨房などを思わせる家具がいくつも並んでおり、それらは副職業による製作の効率を高める効果がある、つまりここは工房であるらしかった。
フレイさんは鍛冶場ゾーンで道具一式とアルカナが渡した素材及び触媒を広げ、早速僕用の装備の製作に取り掛かってくれるのだ。
「素材の不足はなし、道具の状態も万全、ステータスアップの薬品は……まあ今回はいらねえだろ。じゃあぱぱっと作ってやるからちょっと待ってな」
「はい、よろしくお願いします。近くにいて邪魔じゃないですか?」
僕の質問にフレイさんは作業に取り掛かり始めた手元を見ながら答える。
「いや、そこまで集中いるものじゃないから気にしなくていい。むしろ、せっかくだからいくつか聞きながらやらせてもらう」
「プライバシーに関わることは無理ですけど……」
「そういうんじゃねえよ。今装備を頼みに来たってことは今月のシーズンから早速始めるつもりだろ?アルカナはどんな無茶な育成させてんのか気になるんだよ」
無茶な育成……なのかどうかはよくわからないが、これまでの道のりとこれからの予定をかいつまんで説明する。
「会話スキップしながらメインクエスト1章を強行軍でクリアして、今は汎用特技揃えるために騎士と魔導師と聖者のレベル上げをミラクルドリンクがぶ飲みしながらやってる感じですね」
「ミラクルドリンクがぶ飲みって……それ自作?まさかマーケット?」
これにはアルカナがドヤ顔で答える。
「プレイヤーマーケットで買い占めたよ。調理師育ててないし」
「マジかよ、あれの相場今いくらくらいだっけ!?G余らせてるだろうけど貢ぐなぁ」
きゃはは、と笑いながらもフレイさんの手元は全くブレず、あっという間に1つ目の胴装備が完成する。
そして一息も入れず次の装備に取り掛かりながらさらに質問を続けてきた。
「じゃあそんな感じでレベルと装備は間に合うとしてよ、闘技場の環境の予習とかはどうやってんの?」
「環境……っていうと?」
「どんな戦術が流行ってるかってこと」
僕の疑問に素早くアルカナが補足を入れてくれる。
なるほど、流行している戦術があるのならそれに相性の良い戦い方……もう一段流行の戦術に相性の良い戦い方に有利を取れる作戦まで考えるくらいはしておくべきだ。
「公式アカウントで観れる動画はけっこう見てますけど……」
「あー、それはまだ上を見過ぎだな。最初は初心者ランクのカドリーユから見ていかねえと。オレは闘技場観てないけどさ、参加してる顔ぶれが違うんだから流行りも当然違うってことは想像つくぜ」
「確かに……」
しかし公式アカウントでは最高ランクであるエトワールの動画しか配信していなかった。
カドリーユの動画を見れる場所はどこなのだろうか?
「今カカソーラが悩んでるだろうことならもう調査済みだよ」
「えっ、本当?」
えっへん、と口を開いたアルカナの方を振り向く。
「闘技場の前提クエスト、『戦士の舞台』をクリアしたら受付から過去の上位ランカーの試合がいくらか観れるんだ。それはランクごとに別れてるからカドリーユの動画もばっちりだよ」
「おー!!」
「それならそこに行けばいいな。まだ寝るような時間じゃないし、装備受け取ったら今日の内に闘技場行ってくればいいんじゃねえの?」
時計を確認すると、確かにもう少し夜更かししても大丈夫そうだった。
「行きたいんだけど……どう、アルカナ?」
「そうだね、レベル上げも順調に進んでるし一足先に前提クエストクリアだけやっておこうか」
アルカナの太鼓判によっしゃ!と気合いが入る。
そうなればもうわくわくが止まらず、フレイさんが装備一式を完成させるのを今か今かと待ちわびるのだった。
*
出来上がった装備一式を受け取り早速装備。(見た目はちょっと変な形の鎧だったので早速マジックスキンで変更した)
フレイさんにお礼と《ヴァンガード》のみなさんにお暇を告げて、アルカナと一緒に闘技場を目指す。
闘技場はメインクエスト2章を少しだけ進めると入れるようになる町・アルカンジェルにあるので、今回はスキップせずにメインクエストを進行する。
メインクエスト1章の間に親しくなったらしきエルフのNPC・シャルルに案内されてククルカン大陸を南に進む。
「全速力でやってる間は全然わかんなかったけど気さくでいい人だね、シャルルさん」
「普通に1章やってても出番あんまりなかったキャラだから安心して欲しい。でも2章ではけっこう出番増えるよ」
なんて話をしつつ、たどり着いたのはこれまで出てきた町よりも洗練された、都会っぽい雰囲気の町並み。
「ようこそ、エルフの町・アルカンジェルへ!」
シャルルさんの台詞が目的地への到着を知らせた。
彼の説明によると、このゲームの主な舞台であるククルカン大陸の北西にある大陸には「メリュジーヌ」というエルフの大国があり、メリュジーヌの軍隊が魔族との戦いで奪還し新たな領土としたのがここ、アルカンジェルの町だそうだ。
説明が終わるとクエストは一区切り、自由行動が出来るようになった。
「わぁっ、NPCにエルフがいっぱい!」
闘技場を目指しつつ、エルフ好きにはたまらない光景を満喫する。
町並みだけでなくNPCの服装も洗練されたオシャレな感じで、これまでとは一味違う雰囲気だ。
「なんかみんな貴族っぽいっていうかお金持ちそう……さすがエルフだね」
「公式設定資料集によると実際お金持ちの多い種族ってことになってる。そこら辺闇もあるんだけどね」
「闇っていうと?」
「ククルカン大陸の先住民はルーガルーって話あったでしょ?それが魔族を追い出したらいつの間にかこのあたりはエルフの領土ってことになってた……みたいなことを世界中でやってる設定」
おお、それはまあ面倒臭そうな裏話がありそうな……
「ククルカン大陸では同じことを他の種族もやって更に大変なことになってるんだけどね」
「けっこう難しい話もやるんだね……余裕出来たら1章のシナリオの配信ないか探してみるよ」
「ならオススメ紹介するよ」
そうこう話しているうちに。
古代ローマの遺跡でお馴染みの形をした施設――闘技場に到着した。
入口の近くには、重要クエストを受注出来ると知らせる!マークの付いたNPC、ミシェルさんが立っている。
「……ついに来たね」
「まだ来ただけだよ。それっぽいこと言うのは気が早い」
えへへ。
照れ隠しに笑いつつ、僕は闘技場の前提クエストを受けるべく一歩を踏み出したのだった。




