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21話

 いくつかの町にいる居住区管理人なるNPCに話しかけることで入れる居住エリア。

プレイヤーまたはクランはそこに土地を購入しハウスを持つことが出来る。

アルカナが所属するクラン・《ヴァンガード》のクランハウスはブレイブポートから入れる海辺の景色が美しい居住エリアの一角にあった。

石造りの要塞を思わせる外観で、庭には特訓くんも2つ並んでいる。


「わぁっ……カッコいい家持ってるんだね」


「クランでハウス持つのは簡単な分外装や家具にG(ゴールド)突っ込んでるからね。……それより、ここに来た目的ちゃんとわかってる?」


 アルカナは気合の入った口調で尋ねてくる。


「わかってるよ。《ヴァンガード》の皆さんに実在する彼氏ですってご挨拶と、生産メインにやってる人に僕の闘技場用装備を作ってもらうんでしょ」


「ご挨拶なんて甘い気持ちじゃダメ!うちの連中の減らず口を黙らせて、申し訳ありませんでしたって謝らせるくらいの勢いで行くの!!」


「勢いかぁ……つまり僕らの愛を見せつけちゃうってわけだね」


「へぁっ!?愛!?」


 アルカナの声が裏返り、挙動不審な動きをしだす。


「そ、そ、そうだけど!公序良俗に反しない程度っていうか、やり過ぎると恥ずかしいっていうか……」


 目を泳がしたり手を無意味に振り回したりしていて照れているのがわかりやすくてかわいい。

アルカナの顔色は変わっていないが、現実世界の秘ちゃんはきっと真っ赤になっていることだろう。

ちなみに操作しているキャラクターの顔を赤く染めたり真っ青にしたりするのはメニューの『コミュニケーション』から対応するコマンドを選んで行えるそうだ。

そうやっていちいち入力して変えてると思うとすごく嘘臭いけれど。


「でも性別やプライベートの話をするくらい仲の良い人達なんでしょ?ちょっとくらい強めに見せつけてもいいんじゃないかな?」


「つ、強めに……いいのかな?どうしよう!?」


 なんて風にクランハウスの前でいちゃついていたところ、ワープを使ったのかいきなり近くに一人のプレイヤーが現れた。

ウサ耳――ドワーフの男性と思わしきそのプレイヤーは丈夫そうな鎧と十字架のような大剣を装備しており、頭上には彼の名前……そう、名前が浮んでいる。


『もめんどうふ』


 昼休みに見せてもらったSNSに参加していた中でも印象深い名前の人だ。

名前は柔らかそうなのに反して堅牢そうな見た目である。


「こんばんはー、アルカナさん。一緒の彼がもしかしなくても例の人?」


 近距離のプレイヤー全員に聞こえる会話モードで話しかけてくる声も柔らかく、ボイスチェンジャーを使用していないとすればおそらく成人女性のようだった。

僕との会話で完全に油断していたアルカナは、新たな登場人物に挙動不審さを増していった。


「び、びっくりした!え、もめさん、今のわたし達の話聞いてた!?」


「いや、会話モードはパーティ限定にしてたんでしょ?聞こえてはないよ、変な動きは見えてたけど」


「そうだよね!良かった……それで、えーっと、こっちのカカソーラだけど、例の人っていうか彼氏だよ」


「はじめまして、アルカナの彼氏のカカソーラです」


 僕は会話モードを切り替えて、とりあえずもめんどうふさんに挨拶をした。

それを受けてもめんどうふさんは「あ、はじめまして」と挨拶を返してくれたものの、まるで信じられないとでもいう風に――というか実際信じられないんだろうけど――僕とアルカナの顔を交互に見る。


「どう、ちゃんと連れて来ましたよ?」


 沈黙を破ったのはアルカナだった。

もめんどうふさんはハッと我に返ったように視線を動かすのを止め、慌ててしゃべりだす。


「そ、そうだね!まさか実在するとは……じゃなくてこんなにすぐ来るとは思ってなかったから驚いちゃって……あー、カカソーラさん、改めてはじめまして。《ヴァンガード》のクランマスター――一応リーダーをやらせてもらってるもめんどうふです。呼び方はもめさんで通ってます。暗黒騎士メインにタンクをやってるよ、よろしくね」


 今度はしっかりした自己紹介もしてもらったので僕もちゃんと自己紹介をしようと口を開きかけたが、アルカナがそれを制す。


「カカソーラの詳しい紹介は後でみんなの前でやろう。今は早くあいつらをわからせなきゃ」


 そう言うアルカナは両腕を組んでどこか自信満々に見えた。

もめんどうふさん、改めもめさんの反応がそこそこ満足だったようだ。

それを聞いたもめさんは苦笑いしつつ、クランハウスの入口に僕を招くように移動する。


「ははは……とにかくいらっしゃい、カカソーラさん。ちょっとノリが良すぎるメンバーが多いけど、楽しくやってる我が《ヴァンガード》へ!」


 僕はアルカナと並んで招かれるままにクランハウスへと足を踏み入れる。

建物の中は外観のイメージ通り要塞の中の作戦会議室といった雰囲気で、中央に会議用の大きな机が置いてあった。

それを囲むように4、5人のプレイヤー、そして奥の暖炉の前にもう1人プレイヤーが座っている。

彼等は入ってきたもめさんとアルカナに声をかけようとして――すぐに僕の存在に気がつく。


「どうも、はじめまして。アルカナの彼氏です」


 結構惚気ける気満々でやって来た僕は、先手を打つように挨拶をする。

それを聞いた《ヴァンガード》のみなさんの反応は、一瞬の緊張、そして。


「マジで新人脅迫して連れて来やがった!!」


「それだけはやっちゃいけないでしょ!?」


「いや、待て。ちゃんと報酬を払っている可能性もある」


「大丈夫?トッププレイヤーのなり方教えてあげるとか適当なこと言われてない?」


 ……まあ予想通り、もめさんの言うところの「ノリが良すぎる」感じだった。

当然アルカナはこの反応にはキレちゃうわけで。


「お前ら失礼過ぎるでしょ!なんとか言ってよ、カカソーラ!!」


「脅迫も雇用も詐欺もされてない、正真正銘の彼氏ですよー。ねっ?」


 僕はそう言いながらアルカナと腕を組む。

アルカナの見た目がカカソーラよりも背の高いイケメン男性なのでちょっとアレな絵面だけど。

これを目の当たりにした《ヴァンガード》のみなさんの間には流石に「え、本物?」「マジで?」とざわめきが起こる。

しかし、奥にいたプレイヤー――銀髪に褐色肌、DFOにはいないと聞いていても思わず「ダークエルフ」という単語が浮かんでくる見た目のエルフ男性――が立ち上がってさらにこの空気を変えて来た。


「アルカナ、無理するなよ。オレは騙されないぜ」


「フレイ……騙されないって、じゃああんたはカカソーラのこと何だと思ってんの?」


 ダークエルフさん、もといフレイさんはふふん、と笑い堂々とそれに答える。


「お前今日オレに闘技場用の装備頼むからって言ってたよな?それはこのカカソーラさん用ってわけだ」


「ようだよ。それがどうかした?」


「はっ!どうしたもこうしたも、始めたばかりの初心者がいきなりエンドコンテンツの闘技場用の装備必要になるわけないだろ。つまりカカソーラさんは装備で雇われたそこそこやってる替え玉だ!」


 フレイさんはえっへん、と胸を反らす。

そしてこれを聞いた他の人達もなるほど!とフレイさんの意見に同意しだした。

どうしましょう、始めたばかりで闘技場に行きたがる人、ここにいるんだけどな……

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