20話
出だしには若干つまづいたものの、騎士・魔導師・聖者のレベル上げは順調に進んでいる。
ジョブクエスト担当のNPCが騎士はヒューマン、魔導師はブラウニーと違和感のない種族だったのに、ひたすら後方で回復と支援をこなすはずの聖者がトロールのゴツいおじさんなのには違和感があったけどね。
聖者を実際にやってみたら武器は大槌だし、回復魔法を発動するときの動きも雄叫びを上げたり地面をぶっ叩いたりだったので納得した。
「……いや、おかしくない?性能的にもっと優雅な感じになるものじゃないかな」
「安心して、みんなそう思ってる」
前提になる治療士のときはそんな感じのモーションだったし、僕が遊んだ『ソードバレル』を含む『ドラゴンファンタジー』メインシリーズでもそういう一般的な回復役のイメージは引き継がれていたはずなのに。
「ジョブチェンジシステムがあった2作目の『レイピア』で最終的に回復役に一番向いてたのがゴツいおっさんキャラだったことのオマージュ説と、プロデューサーが昔かわいいモーションの回復役やってた姫プにサークラされた恨み説が有力視されてるね」
「前はともかく後の理由が酷すぎる!」
「冗談めかしてだけど、ことあるごとにその話するからね、プロデューサーの日村……」
そんな風にミラクルドリンクの無駄にリアルな喉越し以外は大した問題もないだろう……と思われたのだが。
*
翌日、何事もなく起床し、早朝の稽古をしっかりこなしてから登校、午前中の授業も乗り越えて秘ちゃんの教室にお邪魔したところそこで問題は起きていた。
秘ちゃんが深刻そうな顔で端末で何かを入力していたのだ。
「秘ちゃん……なんかあったの?」
「わっ!?あ、天もう来てたの?大丈夫大丈夫、問題ないから。お昼食べようお昼!」
明らかに何か問題があったとしか思えない慌てぶりだった。
これはどうしたものかと思って視線を泳がせていると、偶然秘ちゃんの端末の画面が目に入ってしまう。
そこにはSNSと覚しきアプリが開かれており、『《ヴァンガード》談話室』という文字列が並んでいた。
《ヴァンガード》、確か秘ちゃんが所属していいるDFOのクランだったはず。
「ごめん、うっかり見えちゃったんだけど今クランの人と連絡中?」
「えっ、あー……そうだけど、大したことじゃないよ!スケジュールをちょっと確認してただけっていうか……」
スケジュール、そういえばこの頃秘ちゃんはDFOでずっと僕につきっきりで、つまりその分今までやって来たことがおざなりになっているはずで。
「もしかして僕のせいでクランの人から付き合い悪くなったって言われてる?僕よりそっち優先したっていいんだよ」
そうだったら一大事である。
恋人である秘ちゃんに一番に優先してもらいたい欲求はあるものの、そのために他の人達との関係が悪化しても構わないというような束縛はしたくない。
そんな思いでの発言だったが、秘ちゃんは困った表情を引っ込めてはくれなかった。
「本当に大した事ないんだって、前にも言った通りノルマとかはないクランだし……」
言葉では否定するものの、態度は僕の懸念がそう的外れではないことを示すかのように挙動不審だ。
さてどうやってこの件を納めようか……と頭をひねり出したところで――僕の腹の虫が鳴った。
……。
「とりあえずお昼食べない?」
「ッ……そうだね」
秘ちゃんは笑いをこらえられていなかった。
めっちゃ恥ずかしい。でもこの場の空気も変わったし引きずらずに行こう!
「正直に言うとレイド攻略にそろそろ戻って来てって言われてるんだ」
緩んだ空気のおかげか、お昼ご飯を食べつつ秘ちゃんは本当のところを話してくれた。
「それを断れなくて困ってたんだ」
「いや、断ること自体は問題なかったんだけど……うん、むかつくから天も見て」
そう言って秘ちゃんは端末を僕の方へ差し出す。
人の端末を見るのに少し気後れしつつもそれを覗くと、こんな会話がされていた。
『もめんどうふ:@アルカナ
レイド復帰出来そう?
連絡よろしくお願いします
アルカナ:ごめんけど彼氏もDFO始めたから無理
しばらくつきっきりで教えてあげる予定だから
もめんどうふ:無理了解です
って、彼氏ですと?
フレイ:嘘つかなくていいよ
ノルマ無しがうちのいいところ
一茶:そうそう
祖父母殺す必要も無から彼氏錬成する必要もない
アルカナ:は?
実在するし
そもそも前からいたし
フレイ:いやいやいやw
一茶:そのログイン時間で彼氏作る暇はないでしょ
真紅:しかも一緒にDFOしてくれるとかないない
氷見山優利:性別逆で考えたら一瞬でわかること
アルカナ:お前らさぁ……
もめんどうふ:みんなそのへんで……
煽るのやめて
アルカナさんも理由なくて本当に大丈夫だから
フレイ:もめさんも信じてないwww』
「えーっと……仲いいんだね?」
「どこが!?よく見てよこの失礼な連中!!」
ここまで好き放題言い合える環境はかなり仲良くないと無理だと思うんだよね。
それはそれとして、つまり秘ちゃんは僕の存在を信じてもらえなくてムキになっていただけらしい。
とりあえず一安心である。
「まあこんなことなら一発で解決できるからいいじゃん」
「解決って、このバカどもをどうやって?」
「実際僕が《ヴァンガード》にお邪魔すればいい」
この提案に秘ちゃんは一瞬キョトンとした顔をした後、邪悪な笑顔を浮かべた。
「そう……だね!元々装備の件でフレイは紹介しようと思ってたし、うん、それなら一発だ」
そう言って秘ちゃんは嬉々として端末に何かを入力する。
さっきのSNSで僕がお邪魔することを報告しているのだろう。
しばらく邪悪な笑みを続けていた秘ちゃんだったが、突然すっと表情が消えたと思ったら不機嫌オーラをまといはじめる。
「こいつら……」
「落ち着いて、どんな返事だったの?」
秘ちゃんは無言で僕の眼前に端末の画面を突きつける。
『アルカナ:そこまで言うならクランハウスに彼氏連れて行くから
今晩首を洗って待ってろ
一茶:え、本気?
真紅:引っ込みつかないのはわかったけど落ち着け
フレイ:新人さん脅して連れて来るつもりか
もめんどうふ:みんな本当にやめて……』
全力で信用されていなかった。
「天!こいつら全員わからせてやって!!」
「出来る限りがんばります」
というわけで、今日はレベル上げノルマをこなした後で《ヴァンガード》訪問が予定に加わったのだった。




