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18話

「天ー、まだ寝てるの?何かあった?」


 母さんの声が聞こえる。

まだ寝てるのって、あれ、いつの間に寝たんだ僕?

昨日はメインクエスト1章を攻略してて……そう、最後まで終わったんだ。

ラスボスの闇の魔術師って感じの魔族が変身を2回残してて大変だったし、倒した後のムービーがこれまた長くて……

待て、本当にいつの間に寝たんだ僕。記憶がない。


「聞こえてるー?もう8時過ぎよー」


 混乱しているうちにまた母さんの声が聞こえてきた。

8時、ってことはいつもなら早朝の稽古も朝ご飯も終わって学校に行く時間……


「嘘、もう8時!?」


 思わず大声で叫びながら僕は飛び起きる。

急いで居間に向かうと、朝食をとっくにすませた他の家族―祖父母と母が心配そうにこちらを見ている。


「おはよう、天がこんな時間まで寝てるなんて体調悪いの?」


「そうよ天ちゃん、大丈夫かい?」


「なんでもないよ、母さん、お祖母ちゃん。それに……」


 僕は恐る恐る祖父の顔色をうかがう。

花果(はる)、今年64歳ながら元気いっぱい。ついでに僕の父親と間違われることもあるほど若々しいお祖父ちゃん。

武術の師範をやっているだけあって優しくはあっても甘くない性格の祖父なので、寝坊したことを怒られるんじゃないかと怯えずにはいられないのである。


「本当に大丈夫か?体調不良は遠慮せずに言え」


 どうやら今まで寝坊も風邪もほとんどしたことがないおかげで心配のほうが勝ったらしかった。

この場は切り抜けられそうだと心の中でほっとため息をつきながら、急いで朝食の支度をする。

いつも余裕をもって家を出ているので今からでもなんとか学校に間に合うのである。


「本当に大丈夫だよ。学校にも行くから、心配しないで!」


 心配する家族の視線を痛く感じつつ僕は朝の準備を済ませるのだった。



 後で端末を確認したら秘ちゃんからも心配するメッセージが届いていたので無事を伝えて、なんやかんや午前中を乗り越え昼休み。

僕は秘ちゃんの教室にお邪魔して一緒に昼食をとっていた。


「ごめんね、天は昔からずっと早寝早起きだからいきなり遅くまでゲームは辛いかもって気づくべきだった……」


「いやいや、大丈夫だよ。たまたま起き損なっただけで体調は全然悪くないし」


 しゅんとしてしまった秘ちゃんに僕も申し訳なくなって必死に元気アピールをする。


「でも寝坊が何回も続いたら陽おじいちゃんに怒られるし、稽古に支障が出るでしょ」


「それはそうだけど……目覚ましのタイマーセットしたし繰り返さないように対策はしたよ。あと……そうだ、秘ちゃんは前からDFOを夜やってたんだから寝坊しないコツとかあるでしょ、それを教えてくれたらさ」


「わたしは車で送迎してもらってるから朝ゆっくりしてるだけ」


 お嬢様待遇のおかげだったかー。

さて、どうしたものか。怒られるかどうかはまあいいとして、道場を継ぐという将来設計に支障が出るのはかなり困る。

でも早く闘技場に挑戦したい気持ちも抑えきれないし……


「まあ一番時間のかかるメインクエスト攻略は終わったし、ここからはもう夜更かししないペースでも大丈夫のはずだよ。リアル第一で行こう」


「リアル第一……そうだね、あくまでゲームはゲームだし」


 うん、大事な一線を越えかけていたようだ。

冷静に、自制心を持ってゲームを楽しもう。


「というわけで夜更かししない分授業中でも確認出来る銃剣士必須戦闘スキル一覧表を天の端末に送っておいたから、それ今夜までに覚えておいてね」


「言った側から勉強(リアル)犠牲にさせようとしてる!?」


 さては秘ちゃんこれまでも普通に授業中攻略情報チェックしてたね!?



 ツッコミはしたけど誘惑に負けて授業中戦闘スキル暗記という内職に励んだ僕は、帰宅後朝の遅れを取り返すべく気を引き締めて道場に向かった。

僕が学んでいる流派――花果無形流(はなかむけいりゅう)はその名の通り花果家が代々受け継いできた武術である。

規模は小さいが歴史は長く発祥は江戸時代の初め頃、祖父・花果陽は十二代目当主にあたる。

近年はお祖父ちゃんが幅広い世代に向けたPRに力を入れたおかげで門弟さんもそこそこ増えた。

十三代目当主(予定)の僕がここで途絶えさせてはいけないのである。


 稽古着――といっても普段着を想定した武術なので傷んでもいいように普段着とわけているだけのTシャツとジャージのズボンだが――に着替えて準備運動を済ませ、早速稽古に入る。

今日の予定は柔術、素手での格闘術だ。

花果無形流は剣術・柔術・棒術を始め馬術や手裏剣術も含む十八の武術をおさめる総合武術なのだ。

柔術であって柔道ではないので当身技も普通にやるしね。

というわけで一通り型を練習していると、お祖父ちゃんが僕の方にやって来たので一旦止める。


「師範、どうかしましたか?」


 道場ではお祖父ちゃんではなく師範と呼ぶ約束である。


「ああ、そういえばお前が最近始めたVRゲームについて思い出してな」


 まずい、ゲームに夢中になりすぎてるって怒られるのか?


「……知り合いの間で『ストリートバトラー・リアル』というのが話題になってるんだがそれだったりするか?」


 違った。


「それではないね……知り合いって、お祖父ちゃんの武術仲間?」


「ああ、完全手動操作で離れた場所でも試合ができるからお前もどうだと勧められている」


 祖父には世界中に友人がおり、いずれも何らかの武術の達人、中には有名な格闘家もいる。

それどころかマジの軍人さんもいてこっそり軍隊式格闘術を教わったりもしているのだ。(僕も少しだけ習ったがバレたらマズい気がしている)

そんな人達が楽しんでいるのだから、その『ストリートバトラー・リアル』というのもけっこうよく出来たゲームなのかもしれない。


「じゃあ今度気が向いたら調べておくよ」


「頼む。カナダのジョシュアが世界大会に出場するらしくてな……」


 めっちゃドハマリしてるなジョシュアさん!!

確か成人したら銃の撃ち方教えてやるからパスポート取れって言ってた人だ!

VRゲームの隆盛、恐るべし。


 そんなちょっと驚く新情報もあったがいつも通り稽古を終え、風呂に入ったり夕食をとったりしてようやく本日の自由時間。

軽く調べてみた『ストリートバトラー・リアル』の評判は「魔境」「蠱毒」など恐ろしいことになっていたのですぐに調査終了した。

祖父には悪いが僕はやっぱりDFO一本で行こう。

秘ちゃんからもらった戦闘スキル一覧表を再確認して今日も元気にログインだ。

確か今日からは汎用スキルを覚えるために他の職業の習得とレベル上げだったかな?

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