17話
メインクエスト強行攻略、2日目――
あいかわらずNPCの台詞をほとんど聞き流しているが、それでもわかるほどに話の空気が変わっている。
倒さなければならないモンスターが動植物のようなものから人型のものに変わったのだ。
小柄だが集団で行動しいやらしい戦法を使ってくるゴブリン、大柄で動きは雑だが当たれば大ダメージをくらう怪力のオークなどだ。
「■■■■、■■■■■■■■!!」
「■■、■■■■。■■■!」
意味はわからないけどただの叫び声ではない、明らかに規則性のある言語も使っている。
この強行攻略を始める前に聞いていたDFO世界の情報から推測するに、おそらく戦う相手がククルカン大陸から追い出されたはずの人類の宿敵・魔族に変わったようだ。
見た目こそ野蛮だが知性ある種族との戦い、これは盛り上がってそうだけど……
「はい、さくっと片付けて進めるよ。次はストーンタウンにワープ!」
「了解、【バレットブロウ】からの銃剣士範囲攻撃コンボをくらえ!」
今急いでるからこれまでのモンスターと同じノリで駆逐するよ!
うーむ、どちらが悪の種族かわからなくなってくるスタイル。
「ちなみに魔族語は公式設定資料集に翻訳方法が載ってるしゲーム内の台詞は全部ちゃんとした文章になってる」
「なにそれ気になる」
「暇ができたらシナリオ集貸してあげるから今は攻略に集中だよ」
「じゃあ今そんなこと言わなくても良かったんじゃないかな!?」
アルカナの情報開示に翻弄される僕だった。
*
その後ワープしてやって来たのはストーンタウン。
ククルカン大陸の先住民族で魔族の襲来後も避難することなく抵抗活動を続けていた獣人種族・ルーガルーが本拠地としているこの町は、常に魔族の再来に備えているひりついた空気をまとっている。
メインクエストが佳境に入ったことでそれは更に増しているようで、武装したNPCが前に来たときよりも増えている気がする。
まあ、本当にそうなのか確かめずにひたすらクエスト進行だけやってるんだけれども。
もはや手慣れた作業のようにNPCの台詞を飛ばすのを2、3人に繰り返したところでムービーに入る。
「休憩タイムだね、時間は10時ちょっと過ぎ……予定通り今日中に終わりそうだよ」
「それは良かった……具体的にあとどれくらい?」
「えーっと、このムービーが終わったら南にわたしの乗機で移動して前線基地ってところに行ったらまたちょっとムービー、その後ダンジョン3連続攻略したらおしまい」
「ダンジョン3連続は大変そうだけど、それならけっこう余裕もあるね」
安心した僕だが、アルカナは首を横に振る。
「ここからが苦行だよ。これから行く3つのダンジョンがめちゃくちゃ長い上に合間に流れるムービーもクッソ長い。もちろん飛ばせない。クリア後に再挑戦するときは他のダンジョンなら飛ばせるのにここだけは例外」
そう語る言葉にはなにやら恨みがこもっていた。
今流れているムービーもまだまだ終わりそうにないのでとりあえず止めずに続きを聞くことにする。
「副職業で作れる人気オシャレ装備の材料も、家具の材料も、このダンジョン周回しなくちゃ集められないのに!当時何回も口汚いお便り送ったし公式掲示板で何回も話題になったのに今に至るまで改善なし!いや、ここ以外に再挑戦でもムービー飛ばせないダンジョンないから意見が届いてないってことはないだろうけどさ、じゃあここも飛ばせるように変更してよ!!」
そこそこ溜まっていたものがあったようで、それがガンガン流れてきた。
黙って聞いているとアルカナはどんどんエスカレートしていって、DFOへの不満が止まることなく溢れ出していく。
困ったことにムービーは未だに終わる様子がない。
「あとやっぱり1章の問題といえば無駄にブレイブポートとサマレン往復させやがる一連のクエストね!正直今でもフェリクス、往復指示してくるあのNPCね、やつの顔見る度にムカつきがよみがえって……」
「フェリクスは僕もお前名前覚えたぞってなったね……じゃなくて、もしかして実はDFOのこと嫌いだったり……?」
恐る恐るした僕の質問に、アルカナはきょとんとした顔をする。
「まさか!大好きだよ、そうじゃなきゃ毎日プレイしないよ」
「その割にはさっきから不満が無限に出てくるような……」
「それはやり込んでるからこそ気になってくるところっていうか、DFOならもっとちゃんと出来るでしょっていう信頼あっての不満というか……とにかく、わたしにとってDFOは最高のゲームって思いは揺るぎないよ!」
そういうものだろうか?
早速僕自身がハマりつつあるものの、もともと彼女と一緒に楽しみたくてこのゲームを始めたので本当に楽しんでるかはやはり重要である。
「不安にさせちゃったみたいだけど、わたし一緒にDFO出来て本当にうれしいんだよ?わからないところ聞いてあげられるのも、こうして攻略の手助けをしてあげられるのも。好きな人と好きなものを共有出来るって最高なんだから」
「そっか、よく考えたら昔から僕の前だとおじさんやおばさんの悪口もよく言ってたもんね」
「そうそう。二人っきりならなんでも言えるからつい……そういえばわたしが言ったことパパやママにチクってないよね?」
「……もちろんないよー」
ないはず……そう、本当にマズいことはちゃんと隠してるから情報源が僕だとバレるような騒ぎに発展することはないはず……!
「なんか目が泳いでない?」
「ないない。あっ、そろそろムービー終わりそうだよ」
「おっと、じゃあそろそろダンジョン行くってルピナスさん達呼ばないとね」
よし、ごまかせた。
それじゃあ、最後のダンジョン3連続、気合い入れて行こうか!
*
「マジでダンジョン長いんですけど!」
なんで長くなるかっていうとボスが使ってくる攻撃の複雑さが急に上がってる!
回避するのに手間取って攻撃になかなか手が回らなくなってしまったのだ。
「カカソーラさん落ち着いて、ちゃんと大技避けれてるから進行に問題はないよー」
ルピナスさんの励ましの声はリラックスしたものなので実際ちゃんと進行できているのだろう。
しかし、今までのダンジョンからいきなり上がった難易度に僕の頭の中は大混乱だった。
「次、面倒なの来るからカカソーラは何も考えずにわたしについてきて!立ち止まったら遠距離攻撃でヘイト維持だけよろしく」
「了解……ウワーッなんかでっかい隕石落ちてきてる!」
アルカナが逐一動き方を教えてくれるおかげでなんとかやれているようなものだ。
そんなこんなでやっと1つ目のダンジョンをクリア、アルカナには不評の長いムービー、今の僕にはありがたい休憩時間の到来である。
「これ……最初に挑んだときどうやってクリアしたの……?」
「俺達がやったときはもう攻略法がネットに出回ってたし、急に難しくなるって聞いて予習してたから上手くやれたよ」
「アルカナさんならもしかして初見クリアしてたり?」
ルピナスさんからの質問をアルカナは静かに否定する。
「流石にその頃はまだ攻略の最前線にいないよ、わたしがそこまで行けたのは3.0……2回目の大規模アップデートの後くらいだから」
「ちょうどボク達がDFO始めたあたりじゃん」
そこからは2人の思い出話に花が咲き、僕はそれを聞きながら精神的疲労の回復に努める。
VRゲームって体は動かさないけど脳は働いてるからなんだかんだで疲れるよね……




