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14話

 翌日、いつもの時間にDFOへログインした僕は冒険者訓練所から入れる「修練場」というエリアに来ていた。

このエリアには同時に8人までのプレイヤーしか入れず、モンスターも現れない。ただ攻撃の的となってくれる雑な作りの人形『特訓くん』が数体並んでいるだけの空間だった。

僕は特訓くんを相手に、受け継ぐ予定の武術――花果無形流の剣術の技を繰出す。

幼い頃から体に覚えさせてきた一連の動きを()()()()()()()()()()


「ふう……じゃあ本番行くね」


 ここまでは準備運動だ。

次はカカソーラの身体能力――現実の自分とは違う性能を活かして剣を振るう。

この体は、剣の重さを重さと感じないほどの筋力を持っている。

この体は、まるで思考と同時に動いているかのような瞬発力を持っている。

この体は、全く息切れせず運動を続けられる持久力を持っている。

それらを盛り込んで行う動きは稽古の中理想として思い描いてきたものよりも更に上で、やってて最高に気持ちよかった。


「どう、かなりいい線行ったと思うんだけど!」


 僕は興奮して後ろを振り返る。

そこには僕の「VRで体を動かすのに違和感がない」という発言の真偽を確かめに来てくれた、アルカナとルピナスさん、シリウスさんにルピナスさんの友人で闘技場挑戦に乗り気という一人のプレイヤーさんが揃っている。

4人ともしばらくぽかんとしていたが、まずアルカナがひきつった表情で口を開いた。


「本当にVRの体を使いこなしてる……ありえない、まだ始めたばっかりなのに……」


「すごいよ、ホントにクウレベルの動きしてるじゃん!えっ、何か特殊な訓練でも!?」


 続いて聞いてきたのはルピナスさん(男性疑惑発生中)だった。


「アルカナは僕が始めてからずっと一緒にプレイしてるから知ってることなんですけど、特別な練習はしてないですよ。出来そうだからやってみて、実際出来たみたいな……あ、リアルで剣術の経験はあります」


 僕の答えに食いついたのはシリウスさん、ステータス情報によると今日は陰陽師ではなく野伏(レンジャー)という職業をやっているようだ。


「わかるんだけどそこもおかしいんだよね……俺も弓道やってるけど野伏で弓使うときリアルとの感覚の違いで結構戸惑うっていうか、いつも通りに出来るはずがないのに」


 かなり戸惑っている様子だった。

そう言われても本当に全然違和感ないんだけどな。


「これは、噂の『VR適正』の持ち主ってやつなんでしょうね」


 意味深な言葉を呟いたのは、ルピナスさんが連れて来た本日初対面のプレイヤー・MEIさん。

僕はその意味深な言葉……ではなくMEIさんの姿にギョッとする。

いや、だって会ってからずっと気になってたっていうか、どうしたって気になるでしょ。

MEIさんの微妙にリアリティが高くて怖いパンダの着ぐるみ姿には。


「あ、はい……」


「あれ?カカソーラさん少し腰が引けていますが、もしや私なにか失礼なことを?」


 されてないです、世界観がおかしいだけで!

僕がMEIさんとのコミュニケーションに戸惑っているのを察したのか、ルピナスさんがMEIさんに耳打ちをした。


「MEIさんの見た目がアレだから対応に困ってるんだよ。装備の見た目戻しちゃえ」


「えっ、嫌ですよ!あのキャラメイクを見せるわけには……って引っ張らないで!引っ張っても装備は取れないけど!!」


 2人の戯れが始まってしまった。

キャラメイクを見せたくないってどういうことなんだろうか?


「あのー、シリウスさん。ルピナスさんを止めなくていいんですか?」


「大丈夫だよ、いつものことだから。MEIさんはDFOのベテランで、つまり始めたときはかなり若かったらしくて……」


「あー、なんとなくわかった」


 シリウスさんの説明の途中でアルカナが割って入った。


「わかったって?」


「中二病全開の見た目にしちゃったってやつでしょ?」


「正解。それが今では恥ずかしいからネタ装備で隠してるんだ」


「やっぱり。あれだね、オッドアイとか」


「そうそう、十字の傷とかね」


 アルカナとシリウスさんがうんうんとうなずきあう。

僕にはよくわからないが具体例が浮かんでくるということは二人にも昔好きだった見た目が今は恥ずかしいというのに覚えがあるようだ。

なら出来るだけ早くMEIさんのネタ装備に慣れてあげなければ。


「MEIさんの事情はわかりました。だったらさっき言ってた『VR適正』のこと詳しく聞きたいんですけど……」


「そうだね。おーい、2人ともその辺にして、カカソーラさんから質問だよ」


 じゃれ合っていたルピナスさんとMEIさんの間にシリウスさんが割って入る。

シリウスさんの言う通りいつものことのようで、2人はぱっとじゃれ合いをやめ僕の方に来てくれた。


「ごめんねー、こっちで盛り上がっちゃって」


「VR適性の話ですね。まあ私も専門家じゃないのであれなんですが……」


 そんな風にMEIさんが話し始めたのは次のようなことだった。

VR適正――医学的にもちゃんとした名前がついているものらしいがそれは長過ぎて僕が覚えられなかったので割愛、ネットで広まった俗語であるVR適正という呼び名の方を使っていく――それはVR技術の一般化によって発見された人間の才能の一種。

仮想現実(VR)を通して精密な遠隔操作を可能とさせる研究の中で、現実の肉体との違和感という問題が発見されると同時に、その問題を全く無視した操作が出来る人間が極稀に存在することも判明したのだ。

この才能を持つ人物ならば高度な精密操作を遠隔で行えるどころか、これまで不可能だと思われていた人体からかけ離れた構造の機械に没入(ダイブ)して完璧に使いこなすことも可能となると学者達の間では大騒ぎになったらしい。

VR適性の持ち主が希少だったことから今のところ(表向きには)実用化されていないが医療、軍事、宇宙開発など様々な領域での活用が模索されているとか。


「噂によればこの才能は遺伝もするとか……っと、少し喋りすぎましたね。ついてこれてます?」


「なんとか……」


「ちょっと眉唾ものの話にも聞こえたけどね」


 混乱一歩手前の僕と違って、アルカナはきちんと聞いて真偽の判断もしようとしている。


「確かに今のところ解明されていない部分がほとんど、仮説だらけの分野です。一般的にはVRゲームの天才がいるらしいといった噂話で話題に登る程度の知名度しかないですしね」


 それにMEIさんが気を悪くすることもなく答える。


「しかしクウさんやカカソーラさんのずば抜けた操作技術の説明はこれでつきます」


「……まあただの雑談のネタだし、そういうことにしておくよ」


 うーん、よくわかんないままだけどアルカナがいいって言うならそれでいいか。


「まあとにかく、これでアルカナも僕の打倒クウさんへの挑戦、いけると思ってくれたよね」


「うん、さっきの動きを見せられたらね」


「よーし、じゃあ早速闘技場に行ってみよう!!」


「いや、今すぐ行っても無理だよ」


 ルピナスさんの冷静なツッコミが入った。

あれ、そうなの?

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