13話
「流石にもう認めますよなんとでも言ってよこの廃人ってさぁ!!!!」
「言わないから落ち着いてよ……」
少しして秘ちゃんから電話がかかってきてこの有り様である。
彼女がやり込んでいることを恥ずかしがっているのはわかっていたのに、話題に出したのは軽率だった。
興奮を宥めるためにも、僕から謝っておこう。
「君が知られたくないって思ってることに気軽に触れて悪かったよ、謝る。ごめんね」
「うっ……天が悪いんじゃないから。こっちこそごめん、取り乱しちゃって」
「落ち着いてくれたんならいいよ、全然気にしてない」
ふう、これでよし。
「……で、わたしのソロ攻略動画、天が自分から探して見つけたの?違うよね?」
いや良くなかった。
これは冷静になって全く別の問題に気がついたやつだ。
「えーっと……ルピナスさんにアルカナがそこそこ有名だって聞いたから気になって……」
「最初のダンジョン行ったときのドワ子!?なんで!いつの間に二人で会うようになってるの!?」
「会ったっていうか、通話しただけだよ。アルカナも一緒に新しいコンテンツ始めてみないかって……」
「ふーん、それで女の子に誘われたからってホイホイ釣られたの?騙されちゃダメだよドワ子なんてほとんど中身男だし女でも姫プ多いし!!」
ほら別のことでまた不機嫌になった!
まあ僕は秘ちゃんに嫉妬されるの好きだからうれしい展開なんだけどね。
とはいえ面白そうな話題と知らない単語が出てきたので名残惜しいが嫉妬する秘ちゃんを遮ることにする。
「そんなこと全然ないって!そもそもドワ子とか姫プって何のこと?」
「本当に女の子に浮かれてない?誘われて喜んでない?」
「してませんー。全く興味ないですー」
「……まあ信じてあげる。ドワ子ってのはドワーフの女キャラの通称、男だとドワ夫でエルフだとエル子とエル夫。姫プは他のプレイヤーに守ってもらったり貢がせたりするプレイヤーの蔑称だよ」
なるほど、言われてみればわかりやすい。
姫プについては完全に秘ちゃんの邪推だと思うけど、気になるのはもう一つの方。
「中身男の人かもってマジ?」
「100%確実じゃないけど、公式が発表してる種族比率とかネット掲示板見ればわかるよ。DFOの男性プレイヤーが一番使ってるキャラはドワ子だもん」
そうなの!?
でも声も普通に女の人で……いや、最近のボイスチェンジャーの性能なら素人にはわからないか。
それにしたって普通自分と同じ性別を選ぶものじゃ……いや待て。
「そういえばそもそも秘ちゃんも異性のキャラ作ってたね……」
「アルカナで最初会ったときも言ったでしょ、『違う性別のキャラ使うなんて普通』だって。自分の分身っていうより、理想のキャラクターを作る人が多いの。だからドワ子は美少女作りやすい種族でかわいい女の子キャラ好きの男性に人気ってこと」
「へぇ……となるとアルカナは秘ちゃんにとって理想のキャラクターで、イケメンなエルフで、僕に似てない」
「いやいやいやいや、観賞用としての理想と恋人としての理想は違うよ!」
すぐ強めに否定してくれたけど少し不安が残る僕だった。
アルカナ僕よりさらに背が高いし……僕とは違う西洋風の顔立ちだし……
「まあいいや、じゃあルピナスさんからの闘技場のお誘いは断ったほうがいい?気にはなってるけどきみを不安がらせてまでやりたいわけじゃないから……」
「そこまでは言ってないよ、わたしも一緒に誘われてるんだから……って待った、今『闘技場』って言った?」
「言ったけど。そうだ、秘ちゃんはやったことあるのかも聞こうと思ってたんだけど……」
そこまで言ったところで僕は秘ちゃんの様子がおかしいことに気がつく。
何かをぶつぶつと言って、まるで恐れているような……?
「マジで?闘技場に突入するってそこまでディープな人だったの?わたし以上じゃん……」
「秘ちゃん?あのー、もしもーし?」
「天、あそこはわたしもまだ手を出してない究極のエンドコンテンツだよ。初心者が気軽に行っていいところじゃない」
声のトーンが本気だった。
「そ、そうなの……?公式の動画観たけど、視聴者数すごくて人気っぽかったよ?」
「観るだけなら誰でも出来るからね……実際に始めたらやり込んでもやり込んでも同じだけやってる相手が敵になるから血を吐きながら続ける悲しいマラソンと化す魔境……!そんなところに初心者を誘うなんておそらく新規参加者に飢えた沼の底の住人……」
「あー、それは僕の――カカソーラの外見が闘技場の強豪さんと被ってて元から興味あったと思われてたみたいだよ」
「えっ、あの天の素顔そのままの外見が?」
僕は秘ちゃんにパソコンでクウさんを検索するように頼み、少し待つ。
その反応はすぐに返ってきた。
「ホントにそっくりだった。名前は噂に聞いてたけど見た目までは調べてなかったから驚いた……」
「僕も驚いたよ。っていうかガチで闘技場には全然手を出してなかったんだね」
「わたしは試行回数重ねて想定されてる攻略方法見つけるタイプだから、向こうもちゃんと考えて戦法を変えてくる対人戦は苦手なんだよ。特にこのクウってプレイヤー相手だと絶対無理」
かなり真剣な口調での回答だった。
どうやら初心者の僕ではわからない、やり込んでいる秘ちゃんにはわかる強さもクウさんは持っているらしい。
「特に無理って、どういうところが?」
「相手が戦闘スキルの組み合わせ方が上手いみたいな『ゲームが上手い』ならこっちも練習して真似たり対策したり、運営の方からバランス調整入ったりでそれなりに対抗できるようには出来るよ。それに『武道や武術が上手い』ならわたしには無理だけど武道経験者がこのゲームを始めれば対抗できる。でもこのプレイヤー――クウは、『VRの体を動かすのが上手い』んだ」
「……?運動神経がいい、ってことじゃないよね?」
「違う。なんて言えばいいか、VRゲームで動かすキャラクターの肉体はどんなに似せても現実の自分の肉体と全く同じじゃないんだ、同じだったらファンタジーな動きは出来ないしね。だから現実で運動神経がいい人やスポーツや武道の経験がある人ほどVRゲームの操作に違和感を覚える。でもクウは明らかにその壁を越えた動き……別人の体を自分のもののように動けてる」
めちゃくちゃ早口になってる!
でもおかげでなんとなくクウさんの凄さがわかってきた。
「他の人がコントローラーでドローン操作して作業してるところをこの人だけ自分の手で作業してるくらい精密な動きのしやすさが違う、みたいな?」
「うん、一人だけ世代が上の違うシステムで操作してる感じ」
なるほど、そうなると……
「闘技場、やっぱりやってみたくなってきた!」
「なんで!?そんな強いやつがいるほどワクワクする感じのタイプだったけ?」
秘ちゃんは困惑しているが、実は僕には勝算が見えたのだ。
「だって……僕さ、DFOで体動かすのに違和感ないんだもん」




