空母の倒し方
【前回までのあらすじ】
・空母狩り、開始
・サリー、ブラックリストに登録決定
「ナナサマ、ナイスショットでございマス!」
空母から10キロ以上離れた岩山に、巨大な重火器を構えた2つの人影がある。ナナとウォーリーである。
「ウォーくんもナイスしょっとぉー!」
「ボディがパワーアップしたノデ、レールガンもガシガシ撃てるようになりまシタ。むっちゃ快感でございマス。」
「どんどんいくよぉー!」
2人はそれぞれ愛銃の【ハリケーン】と【ラッキーセブン】を構え、肉眼では目視不可能なほど遠くにいる空母の方向に繰り返し弾丸を撃ち込んでいた。
「ひぃぃぃぃぃ!レイは・・・レイは処理が追いつかなくてCPUが焼きつきそうですぅぅぅぅ!!」
2人の横ではレイが必死になり、全身から冷や汗を流して計算を繰り返している。
今回の作戦は、こうだ。
まず、ナナとウォーリーによる超遠距離射撃で、空母の主戦力である戦闘機を一方的に攻撃する。とはいえ、これほどの遠距離射撃を高速で飛行する戦闘機に命中させるのは、いかにナナとウォーリーでも不可能である。それを可能にするのが、レイとレーダーウサギによるサポートだ。
今、ナナたちと空母の間には無数のレーダーウサギが配備され、刻々と変わる風、温度、湿度、敵の状況といったデータを観測し続けている。レイはそのデータを集計し、リアルタイムにシミュレーションしながら最適な射撃角度をナナとウォーリーに伝えている。これにより、あり得ないほどの遠距離射撃を命中させることができるのだ。もちろん、銃職人ランスの作品である【ハリケーン】と【ラッキーセブン】の精度が並外れているのは言うまでもない。
こうして、安全圏から敵の戦力を削ぎつつ意識を逸らし、サリーたち突入チームが光学迷彩で姿を消して空母の艦内に侵入する。艦内では隠密行動を基本とするが、邪魔になる人型ロボットは高い戦闘能力を持つサリーが排除。ロックされたドアの開錠や、空母の脳にあたるコンピュータのハッキングはマキちゃんが担当する。マキちゃんの主人は一生懸命サリーについていく、という役割分担である。安全かつシンプルな作戦は、もちろん我らが作戦本部長エド氏(7歳)の立案だ。
「3機撃墜デス。」
「ナナはよっつ、おとしたよー!」
「オット、負けていられまセン!」
ナナとウォーリーは次々と空母の索敵範囲外から弾丸を送り込む。空母の甲板ではサイレンが鳴り響き、艦内の戦闘機がスクランブル発進するために続々と滑走路に運ばれているが、空中に飛び出す前に超速の弾丸が命中して爆散する。搭載していたミサイルに誘爆し、空母の甲板は火の海である。
「いい感じに混乱してるな・・・。」
俺は作戦通りの展開に胸をなでおろしつつ、深呼吸して心を落ち着ける。サリーには俺と同じ光学迷彩・パワーサポート付きの戦闘服を渡してある。俺たちは光学迷彩を起動して姿を消し、岩山に固定してあるロープの金具を自分のベルトにしっかりと固定した。
「よよよよしサリー、行こう。」
「ええ、楽しみましょう。」
深呼吸してから、ふたり同時に岩山から空母めがけて飛び降りた。眼下に広がる空母の甲板がみるみる近づいてくる。風にあおられて、熱風が頬を撫でるのを感じる。格好つけて飛んだはいいものの、正直怖すぎて大便的なものが出そうだ。だって100メートルぐらい落ちてるし、マジでこういうお腹がヒュンってする系のやつ慣れない。無理。甲板に衝突する寸前、ベルトの金具が強烈なブレーキをかけた。減速したサリーが華麗に金具のロックを外して地面に着地し、俺も慌てて金具を外して無事に頭から落ちる。
「・・・甲板は大混乱ね。誰も私たちに気がついていない・・・すごいわ。さあ、艦内に侵入しましょう。」
「ふぉっごぅまっごふうぉ。」
「・・・アゴの骨、砕けてるわよ。」
「ふぉっごぉ。」
「早く行こう、とおっしゃってますわ。」
俺たちは炎上する甲板を静かに通りぬけ、戦闘機を甲板に運ぶための大きなエレベーターから艦内に侵入した。人が1人通るのがやっとの狭い通路に入り込む。通路は赤い小さな電灯がぼんやりと照らしているだけで薄暗く、なんとなく巨大生物の体内という感じがする。
俺たちの目標は空母の中心、膨大な電力を生み出しているジェネレーターだ。そこにはジェネレーターと一緒に、この空母の「脳」にあたるコンピュータが設置されている・・・はずだからだ。ただし、今まで人類で野生の空母に侵入したものはいないので、実際には違う場所にある可能性もある。だが、他にアテもないので仕方がない。光学迷彩で姿を消せば見つからないし、のんびり探せばいいだろう。
「これで脳ミソなんかなかったら笑うしかないよね・・・。」
「それでも構わないわ。その時はジェネレーターを破壊してやればいいだけだもの。心臓を潰せばこのデカブツも終わりよ。」
「ええ・・・俺、必要なくない?帰っていい?」
俺もサリーも光学迷彩を起動しているので、お互いの姿を認識することができない。サリーはどんな表情をしているのか分からないが、ふふっという笑い声が聞こえた。
「いいえ、もしこの空母をほぼ無傷で無力化できたら、それは人類に計り知れないほどの恩恵をもたらすわ。ジェネレーターを破壊すれば、間違いなく半径数キロに渡る大爆発が起きるから私たちも無事では済まないしね。」
「うげっ・・・そうなの?じゃあジェネレーター破壊は絶対やめよう。それか俺がいない時にやっといて。」
「ま、最後の手段ってヤツね。・・・それにあなた、とても簡単に空母の内部に侵入したけど・・・これはものすごいことなのよ。ユニオン軍は3000年かかっても一度も成功しなかったんだから。」
「ふふん、まぁね・・・。」
「・・・あなた自身は何もしてないけどね。」
サリーと俺が話しながら駆け足で通路を進むと、マキちゃんが警告を発する。
「ご主人様、周囲の大気に未知の微粒子を検出しました。毒の成分および電子機器への干渉が予測されます。」
「え?毒?」
「落ち着きなさい。ナノマシン持ちの私たちに毒は効かないわ。でも、これは・・・」
突然、光学迷彩が無効になって俺とサリーの姿が現れた。服のパワーサポートは生きているようだが、光学迷彩には影響があるようだ。
「マキちゃんは大丈夫?」
「私の腕時計は完全な密閉構造ですから問題ございませんわ。それより発見されたようです。ご注意を。」
目の前の曲がり角の先から、複数の足音がする。続々と人型ロボットが集まってきているようだ。
「これは・・・想定外の事態だ。うん残念、作戦失敗。走って帰ろう。」
「それは・・・無理ね。」
振り返ると、通ってきた通路の天井から何枚もの分厚い隔壁が降りてくるのが見えた。逃がしてくれる気はないらしい。かなり大便的なものが漏れそうになってきたし、サリーとマキちゃんがいなかったら泣きながら漏らしていた可能性が高い。涙目でサリーを見ると、彼女は楽しそうに笑っている。
「ふふふ・・・こういうの、本当に久しぶりだわ。うふふふふ・・・。」
「ええ・・・この人こわい・・・。」
足音が間近に迫った時、サリーがハンドガンを片手に曲がり角を飛び出した。10数体の人型ロボットの中心に飛び込んだかと思うと、取り囲むように並んだロボットたちを目にも止まらぬ早さで蹴り、殴り、そして撃った。嵐のような連撃が収まると、通路に残ったのは大破したロボットの山と、その中心に無傷で立つサリーのみ。
「ふふふ・・・さ、行きましょ。いいウォーミングアップになったわ。ここからは私がエスコートしてあげる。」
楽しげに微笑むサリーを見て、俺は改めて思った。
「ええ・・・俺、必要なくない?帰っていい?」




