ソフトウェア開発
「よーしレイ、テスト用のウェブサイトを表示してくれ。」
作業机の上に座るレイのネコがンナーと鳴いて、空中に画面を表示した。表示されたウェブサイトのタイトルは『今日のお姉さま』。無数の写真のサムネイルが表示されているが、どの写真も写っているのはマキちゃんだ。ざっとウェブサイトを見てみると、現在の写真総数は15,193枚らしい。このサイトはレイに「なんでもいいから、具体的なコンテンツのあるウェブサイトを作ってくれ」とお願いしたら出てきたものだ。まさかこの文明で作られた初めてのウェブサイトがマキちゃんの盗撮サイトになるとは夢にも思わなかった。
「うん・・・表示の崩れとかないし、転送速度はまったく問題ないな。」
俺は空中の画面を指でスクロールしてみる。もちろんこれはホログラムなので触れることはできないが、ネコが手の動きを読み取ることで、まるで触っているかのように操作することができるのだ。違和感なく操作できるように何度もテストを繰り返し、自分でも納得できるレベルの操作感を実現していると思う。
「しかしレイ・・・マキちゃんの写真・・・撮りすぎじゃない?」
俺の言葉に、レイが自分のホログラムを表示して力いっぱい反論する。
「ご主人さま、お言葉ですけどこれでも徹底的に厳選した写真しか載せていないのです!」
「ああそう・・・。レイもカワイイんだから、自分の写真とか載せたらいいのに。」
俺の言葉に、レイがピクリと背筋を伸ばし、驚いたように目を見開いてこちらを見た。それから顔を真っ赤にして、ネコの耳がピクピクと落ち着きなく動き出す。
「ご・・・ご主人さま、マキ姉さまとハルさまだけでは飽き足らず、レイまでチョロまかそうとするなんて・・・姉さまに報告です。」
「え、いや、そんなつもりじゃ・・・ただ、レイもカワイイと思っただけで・・・」
「それ!それェーーーー!いきなりなんなんですぅ!?唐突に口説くのやめてほしいですぅーーーー!」
レイはかわいい。初めて会った時は冷徹な殺戮マシーンといったイメージだったけど、今はクルクルと表情が変わる、明るくて一緒にいて飽きないタイプの女の子だ。ナナとマキちゃん、それにウォーリーの人格データも少し入っているらしいので、みんなの良いところが色々と混ざったのかもしれない。その性格のせいか見た目も少し幼く見えるし、実際に胸のあたりを幼く改造されているのも今となっては彼女のイメージに合っていると言えなくもない。元戦闘用アンドロイドと思えない整った顔立ちは、マキちゃんとはまた違った魅力のある美しさ・・・美しさというか、可愛らしさ・・・がある。
「いや、悪かったよ・・・しかしこれでも厳選してるって、すごいな。」
レイはごほんと咳払いして落ち着きを取り戻すと、ニヤリと悪そうな笑みを浮かべて言った。
「ふふふ・・・実はですね、肌色部分が多いマキ姉さまのセクシーショットは私の宝物なので、ここには載せてませんです!」
「えっマキちゃんのセクシーショットとか・・・あるの?」
400年一緒の俺だって、マキちゃんのセクシーショットなんて一度も見たことがない。レイは得意気に胸を張り、ふふんと鼻を鳴らした。
「24時間完璧にお姉さまを見つめ続けるレイにしか撮れないショットなのです!どうしてもとお願いされるなら、ご主人さまに見せてあげなくもないですよ?」
「・・・マジで?あの、どうかお見せいただけないでしょうかレイ様。」
俺は本能に従って、何のためらいもなくレイに土下座する。
「えへへへへ・・・仕方ないですねぇ・・・ではこちらのはひゅん」
喋っている途中でレイのホログラムが不自然に消滅し、代わりに満面の笑みを浮かべたマキちゃんが出現した。・・・やばい、これはわりと怒ってるときのマキちゃんだ。
「えへへ・・・やぁマキちゃん、エドにプログラミングを教えてたんじゃなかったっけ・・・?」
マキちゃんは俺の質問をスルーして、さらに素敵な笑顔を見せた。殺されるのは俺か?それともレイか?
「ご主人様。これからいくつかの写真削除と、後輩の教育的指導を行う必要ができました。しばらく作業のお手伝いはできませんわ。」
「えっ、でも今はレイがいないとホントに困」
「ご主人様。」
「はい、わかりました。」
マキちゃんのホログラムが消え、レイのネコが眠ったように静かになる。レイの説教タイムが始まったようだ。・・・助かった。どうかセクシーショットのデータだけは死守してほしい。
スマートフォン・・・いや、スマートニャンのハードウェアはデキる弟子(7歳)の手によって完成し、スキャニャーの開発で量産の目処もついた。しかしスマートニャンをコントロールするプログラム、いわゆるOSやウェブブラウザといったソフトウェアの開発はまだ終わっていない。俺はスマートニャンにパソコン相当の機能を盛り込み、ゆくゆくは町の人たちに個人ホームページやブログみたいなものを作ってほしいのだ。とはいえその開発に必要なスマートニャンのプロトタイプであるレイがいなくなったので、やることがなくなってしまった。
「はぁ・・・プラズマライフルの林でも見に行くか・・・。」
俺が部屋を出ると、見慣れないネコがこちらをじっと見ている。この間の拉致騒動以来、マキちゃんとレイによる監視・・・いや、「見守り」が明らかに厳しくなった。俺は子どもか。
林の入り口まで歩いてくると、ちょうど大きなゾウが林から出てくるところだった。これはエドが開発した食品輸送用の大型ロボットで、身体の部分がガバッと開いて、その中が冷凍・冷蔵庫になっている。ゾウの鼻は精密な動きができるマニュピレーターで、食品を丁寧に積み下ろししてくれる。もともと冷蔵庫は野生の食虫植物のようなもので、ジャングルに時々生えているものだ。通りかかるナマモノや人間をバクリと中に閉じ込めて、鮮度を保ちながらゆっくりと消化するんだそうな。ジャングルをさまよっていた時に食われなくて本当によかった。エドはこれに手足と鼻を取り付け、マキちゃんと一緒に自立動作できるプログラムを作ってインストールした。大したものだ。今では林で生産した食品は、数台のゾウが自動的に卸売業者まで運んでいる。
俺がしげしげとゾウを眺めていると、エドとナナが林から出てきた。
「あっ、師匠!どうしたんですか?」
「いや、ヒマになったから『冷ゾウ庫』の様子を見に来たんだよ。」
「だから『冷ゾウ庫』じゃなくて、『リフリッジレイファント』ですってば・・・。」
「『れいぞーこ』のほうがかわいー!」
「だよなー、ナナ?」
「う・・・ちょっと、ナナぁ・・・。」
相変わらず俺とエドのネーミングセンスはすれ違っているが、最終的にナナがかわいい方を選ぶのでいつも俺が勝つ。ふははは、残念だったな弟子よ。昔の人の言葉でこういうものがある・・・「かわいいは正義」・・・覚えておけよ。
俺たちはゆっくりと歩く冷ゾウ庫と並んで町を歩き、卸売会社の倉庫までやってきた。エドは冷ゾウ庫の開発にあたって、すでに倉庫に入る許可をもらっているので勝手に入っても大丈夫だ。ゾウが荷物を鼻を使って下ろすところを見学していると、倉庫の中に見慣れた顔を見つけた。分厚い紙の伝票をペラペラとめくりながら、卸売会社の男性職員と話をしているのは・・・ハルだ。知らない男と仲良さそうに話をしている。
「し、師匠・・・えっと、あの・・・そうだ、お腹空いてきたのでなにか食べにいきませんか?」
弟子(7歳)に気を使われる俺・・・どうも、517歳です。




