お茶
「やっぱり俺は『スキャニャー』がいいと思う。」
開けて翌日。俺とエドは手に入れたスキャナを作業机に置いて、今後の方針を検討していた。
「そうですか?ここはもっとオシャレに『スキャット』の方が良いと思いますよ?」
「えー?それかわいくなくない?」
「師匠のネーミングはいつもかわいさ重視じゃないですか。これは一般の人が使うことはないんですから、オシャレな感じにしましょうよ。」
あれ、検討してなかった。スキャナをネコに内蔵して使うという方針は決まったけど、ネーミングで揉めていただけだった。最終的にジャンケンをして俺が勝ち、スキャン機能を搭載したネコは「スキャニャー」と呼ぶことで決着した。3回勝負にしてよかった。
「手に入れたスキャナは大きいので、いくつかのモジュールに分解して、それからネコの身体とうまく組み合わせる感じですね。細かい設計を詰めておきます。」
「よし、頼んだぞ、エド!」
最近はハードウェアに関してエドに任せっきりな感じがある。本人も楽しそうだし、まぁいいか。俺はもともとエンジニアじゃなくてハッカーだし。弟子(7歳)に仕事を丸投げした俺は、久しぶりにハルの店を覗きにいった。ハルから「たまに様子を見るぐらいしたら、オーナーさん?」と言われたのだ。そういうハルも、割と仕事をほったらかして重機狩りとかスキャナ狩りとかで俺と出かけてる気がする。
「アニキ・・・いや、オーナー!お店に来てくれるなんて珍しいッスね!」
店の裏にある従業員用入り口から入ると、ガイが在庫の整理に精を出しているところだった。そういえばガイは副店長なんだっけ。ガイに案内されて店の中を見て回ると、今まではなかった「ウサギコーナー」が出来上がっている・・・しかし、肝心のウサギは品切れのようだ。
「ああ、ウサギコーナーッスね。アニキが町の警備のためにウサギを放してからずっと町の話題をかっさらってるんですよ。・・・ただ、半年先まで予約でいっぱいなんで、もっとたくさん作ってもらえると嬉しいんッスけど。」
「ああ・・・もうすぐ量産できる・・・と、思うよ。たぶん。」
「マジッスか⁉︎それは最高ッス、オレも欲しいのに、ハル店長が予約させてくれないんスよ。お客様優先だって。」
今はレーダーウサギの耳をプラズマカッターに換装した「カッターウサギ」を販売しているが、これは全て手作業で改造したものである。主にウォーリーが暇な時間で改造作業をやっているので、日に1、2体しか生産できていない。ウォーリーは「我ばかり馬車馬のように働いておりマス」と嘆いていたので、早くスキャニャーを完成させて量産体制に入らないとかわいそうだ。
「まあ、期待して待っててよ。量産できたらすぐガイにもあげるからさ。」
「さすがアニキッス!俺とアニキは運命の赤いケーブルで繋がってるに違いないッスよ!」
「ガイ・・・店員の女の子たちが変な目で見てるから・・・やめて、肩を組まないで・・・」
いたたまれなくなった俺はガイと別れ、そそくさと店を後にする。時間は昼下り。特に急ぐような用事もなく、ひとりで町をブラブラと歩いて行く・・・こういうのも新鮮だな。そんなに出歩くのは好きじゃないし、最近は出歩くにしてもハルとかエドとか、必ず誰かが一緒だったし。厳密に言えば今もマキちゃんと一緒なんだけど、こういう時のマキちゃんは空気を読むのであまり自分から出てくることはない。
「・・・で、我は言ってやったのデス。『これが友情パワーデス!』・・・ってネ。」
小さな飲食店が並ぶ通りに差し掛かった時、聞き覚えのある声がした。何もしていないのに着ている服の光学迷彩が起動し、俺の身体は透明になる。こんなことができるのは・・・もちろんマキちゃんだけだ。出てくることはない、とか言ったそばから出てきた。
『なに?どしたのマキちゃんさん?』
『ご主人様、気配をお消しになってください・・・おもしろいものが見られそうですわ!』
聞き覚えのある声がしたのは、少し先のカフェ・・・そのオープンテラスになっているあたりである。あまり客は入っておらず、席についているのは2組ほどだった。問題はそのうちのひと組・・・大きな身体の男と、スラリと背の高い女性が楽しげにお茶をしている。あれは、まさか。
『ウォーリーですわ!ウォーリーのくせに、女性とお茶をしていますわ!』
マキちゃんがピョコピョコ跳ねながら言う。めちゃくちゃ楽しそうである。ダメだよそんな、人の会話を盗み聞きするようなマネは・・・うんごめん、正直、俺もすごく興味がある。俺たちは会話がよく聞こえるよう、姿を消したままそっと近づく。ウォーリー相手に隠密するのは人生で2回目だ。あの時と違って、見つかってもレーザーで撃たれたりはしないだろう。
「ウォーくんの話はおもしろいわぁ。どこまでがホントの話でどこから作り話なのか、ぜんぜんわからないけどね。」
「全て130%の真実デスよ?」
「100%を超えてる30%の部分はなんなの?」
「ちょっとした演出でございマス。」
「あははははははっ!やっぱり!」
おいおい、なんかすごくいい感じにしてるぞ。どうなってるんだこれ。いつもの下ネタも出てこないっぽいし。
「ねぇウォーくん、わたしはキミと話すと楽しいけどさ。どうしていつもわたしに構ってくれるわけ?」
「そんなコト、決まっておりマス。」
俺とマキちゃんが前のめりになって聞き耳を立てていると、ウォーリーは俺たちの予想を大きく上回る、巨大な爆弾を投下してきた。
「アナタを愛しているからデス。」




