友情パワー
【前回までのあらすじ】
・重機の群れはどっかいった
・唐突に現れる最凶アンドロイド
・ピチピチスーツを最高画質で撮影にきまシタ
「ふん・・・レールガンなどレイには効かない。邪魔をするな、デク人形。」
レールガン【ハリケーン】を続けざまに数発叩きこまれたはずのレイは、しかし無傷でそこに立っていた。ダンプカーを一撃で鉄クズにする【ハリケーン】の攻撃力を持ってしても、レイのプラズマ放射を破ることはできないらしい。ウォーリーは排熱しきれず煙を吐く【ハリケーン】を投げ捨て、代わりに背中に背負っていた大型のプラズマライフルを構える。
「我のビッグなガンでも満足できないナンテ・・・困ったお嬢サンですネ。」
「まずはお前からか、サイボーグ・・・いや、ロボットか?」
レイがウォーリーの方を向くと、今度は違う方向からプラズマ弾の雨が降り注ぐ。レイが軽く片手を上げてプラズマを放射し、軽々とそれを防いだ。プラズママシンガンを展開したクロがワフッと吠える。
「今度はイヌか・・・ふん、そこの子ども型アンドロイドと比べると、どいつもぬるいな。まとめて消し去って・・・」
レイが言いかけると、今度は遥か遠くから弾丸が飛来して、やはりレイの眼前に出現したプラズマの盾にぶつかり消滅した。今度は高台で狙撃位置についていたランスさんたちによる狙撃だろう。
「ちっ・・・次は狙撃か。」
再びレイの身体が光を放ち始める。しかしこれは・・・ひょっとしてチャンスだ。俺は努めて冷静に、しかし堂々と呼びかける。
「待て、レイ。」
「・・・レイの名前を気安く呼ぶな、人間。お前から消すぞ。」
おっと、会話が成り立ったぞ。やはりチャンスだ。これを逃してはいけない。
「まぁそういうなよ、レイ。俺はここにいる全てのアンドロイドたちの主人だ。俺を殺したら、ここにいるメンバーは防衛目標を失うから誰もお前と戦ったりしないぞ。」
「・・・。」
まぁ嘘だ。ウチのメンバーなら、俺が死んでも他の人間を守るために全力を尽くしてくれるだろう。だがこういうのは言ったもん勝ちである。現にレイは黙った。やったぜ。
「見たところ、お前は戦闘能力の高い相手を探しているようだな。」
「・・・それがどうした。」
レイは無表情のまま質問を返してくる。会話が成り立つなら、いかようにもやりようがあるぞ。
「なぜだ?」
「答える義務はない。」
「そうか?俺が所有する戦闘用アンドロイドは、実のところ今ここにいるメンバーだけじゃない。場合によっては、もっと強いアンドロイドを連れて来てやってもいいんだぞ?」
さらに嘘だ。本日、ここには俺の家族全員がもれなく揃ってます。テヘ!
「・・・レイは戦闘データを集めている。さらに戦闘能力の高いアンドロイドボディを開発するために、強い相手を探すよう指令を受けている。」
素直な回答に、俺は内心ガッツポーズを決める。
「誰から?」
「・・・。」
「俺はモリサワインダストリーの役員なんだ。力になれるかもしれないぞ。なぁマキちゃん。」
「はい。ご主人様のIDを表示します。」
マキちゃんに表示してもらったのは、ウォーリーがいたビルをハッキングした時に入手した「モリサワインダストリービルの管理者権限」だ。もちろんこれはあくまで「ビルの管理者権限」であって「役員の証」ではない。ちょっと無理があるような気がしないでもないが、ビル全体の管理者権限なんて役員ぐらいしか持ってないはずだし、ゴリ押せる可能性は高い。レイがマキちゃんのように賢くないことを祈ろう。
レイはIDをじっと見た後、黙って俺の方を見る。うまくいっているのかどうかわからないが、とにかく堂々とすることが大事だ。
「で、誰から指令を受けてるんだ?」
「・・・モリサワ第13機密兵器研究所だ・・・です。」
おっ敬語になった。こいつもモリサワのアンドロイドなのか。ナナとマキちゃんの姉妹だな。それにしてもなんだか一気に余裕が出てきたぞ。ふへへ・・・どうしてやろうか、こいつ。ウォーリーが「なんかこの感じ・・・デジャヴを感じマス・・・」とつぶやくのが聞こえた。
「第13機密兵器研究所、か・・・。ずいぶん無茶させるもんだな。さて、じゃあ役員権限で指令はいったん取り消しだ。いいな?」
「・・・なぜ、モリサワ以外の製品をお使いなのですか?」
「ん?」
素直に従うと思ったが、レイは無表情のまま俺に質問してきた。
「モリサワの役員は、他者の目につく外出先での他社製ロボット・アンドロイド使用を禁止されています。にも関わらず、そこにいるイヌはマードック製。ロボットの身体は影山精密のものに見えます。」
「・・・まぁ、色々と事情があってな。」
マズい。思わぬところからボロが出てきたぞ。そんなルール知らないし。焦るな、体温や脈拍も安定させろ。アンドロイドは相手の身体情報を読み取って嘘を見抜くから、焦りは禁物だ。俺のハッキング歴は500年、この程度で焦るほどヤワじゃない。IDの件がバレてなければまだ大丈夫だ。
「それに、先ほど表示したIDは役員のものではなく、ビルの管理者権限では?確かにビルの完全なルート権限は役員レベルでなければ取得できないでしょうが・・・正しい役員権限の提示を要求します。」
「・・・うん、まぁ、色々と事情があってな。」
バレてた。脇から汗が噴き出す。股間に続いて脇の下がビショビショだ。着替え持って来ればよかった。
「その、事情というものをレイにお聞かせいただけますか?」
「・・・き、き、き、機密事項なんだ。」
ああああ慌てるな。まだ慌てるような時間じゃないないないないない。
「脈拍及び体温に変化、発言の信頼性が揺らいでいることを警告させていただきます・・・。それではなぜ、先ほどの識別信号に応答なさらなかったのですか?すべての役員に対して通達されているはずですが。」
識別信号ってなんだ。そういえばマキちゃんが正体不明の信号がどうとか言ってたような。もはや俺の脇汗は滝のようだ。ちょっと涙も出てきたし、ヒザもプルプルする。もうおうちかえる。
「・・・まぁ、色々とじじょ」
言い終わる前にレイが俺に向けて手をかざし、俺は爆風に襲われてひっくり返った。
「生体情報に虚偽の兆候多数。発言の信頼度が10%を切りました。・・・レイを騙そうとするなんて、なかなかいい度胸だ、人間。・・・ゲームオーバーだ。」
冷や汗をダラダラ流して地面に転がった俺がどうにか身体を起こしてレイの方を見ると、俺の方にかざした手のひらが強く発光し始めた。強力なプラズマ放射で俺を完全に消滅させる気か。こいつも旧文明の遺物なのだろうか、ナノマシン持ちの人間を殺すやり方を知っていて、しかもそれを俺に使う気らしい。おしっこが漏れそうだが、今日はナナとジャンプしまくった時に漏らしきっているのでなにも出ないぞ。漏らしておいて本当によかった。
発光がひときわ強くなる。ああこれ死んだな。今までの思い出が走馬灯のように駆け巡る。ゴミを見るような目で俺を見るマキちゃん、「イモムシかと思ったらご主人様でしたか」というマキちゃん、「今すぐ私のボディを探してくださらないと、ご主人様のパソコンにある『仕事』フォルダを削除しますわよ?」と脅すマキちゃん・・・。なんだろうなぁ。マキちゃんに冷たくされると興奮するんだよなぁ。いい人生だったなぁ・・・。
次の瞬間、レイの頭のすぐ横、何もない空中からプラズマ弾が飛び出して、レイの頭をぶち抜いた。至近距離で頭部を撃ちぬかれたレイは大きく仰け反って地面に倒れる。
「アナタこそ、ゲームオーバーデス。」
透明化していたライフル、腕、身体、そして全身が出現する。そこには片手で大きな銃を構えたウォーリーが彫像のように立っていた。いつの間にか透明化して、レイが回避できないほどの至近距離まで接近していたのだ。頭を撃ちぬかれたレイは、しかしまだ完全に破壊されたわけではない。半分が吹き飛んで内部機構をさらした頭を片手で抑え、よろめきながらも立ち上がる。
「おのれ・・・!!不意打ちとは卑怯な・・・!!」
怒りの目を向けるレイの視線を浴びながら、ウォーリーはまったく気にする様子もなくレイを指差して言った。
「不意打ちではありまセン。友情パワーデス!」
「・・・は?」
いや不意打ちだろ。その場にいた全員があっけにとられる中、なぜか自信満々のウォーリーが続けた。
「いいデスか、あなたは強いですが、クロのように索敵能力が高くありまセン。」
「・・・?」
みんなウォーリーの発言についていけず、なぜかレイまで黙って聞いている。
「ナナサマほどの反射速度もありまセン。ご主人サマのような詐欺的トーク力もありまセン。マキちゃんサマのような計算能力や判断力もありまセン。・・・だから簡単にトークで気を逸らされ、マキちゃんサマに算出された最適なルートでこっそり忍び寄った我の不意打ちをかわせなかったのデス。」
「・・・??」
「そしてなにヨリ、アナタには我のように大きなおちんちんがありまセン!」
「なんだ、何が言いたいんだ・・・?」
レイはこんらんしている!
「わかりまセンか!みんなが協力すれば、アナタなど恐るるに足りないと言っているのデス!バーン!」
バーンとか効果音まで自分で言い始めたぞ。なんだこれ。ちょっとカッコいいと思っちゃった俺の気持ちを返せ。
「ただの不意打ちでダメージを与えられたからといって、偉そうに・・・ヌゴッ」
いつの間にか接近していたナナが砲弾のように飛び出し、レイの腹部に足をめり込ませた。レイは身体を折って吹き飛び、100メートル以上地面を転がっていく。たぶんマキちゃんの指示なんだろうけど、容赦ないな、うちの子・・・。しかしレイはそれでもガクガクしながら立ち上がり、こちらを睨みつける。
「ゆるさん・・・許さんぞ・・・!!貴様らまとめて地獄に送って」
レイが言い終わるより早く、突然四方八方から弾丸が飛んできて、すさまじい爆風が彼女を包んだ。まわりを見ると無数のトラックがレイを取り囲んで、たくさんの人が荷台や助手席から弾丸をバラまいている。
「これは・・・町のみんな!?重機狩りに来ていた人たちか!」
「助太刀するぞ!ネコ使いの兄さん!なぁ、みんな!」
「「「「「「おお!!」」」」」」
重機狩りに来ていた町の皆さんは、マキちゃんの重機誘導作戦の邪魔をしないように一度下がってもらっていたはずだ。なかなか戻らない俺達を心配して戻ってきてくれたのだ。見れば治安維持部隊の人たちも一緒に参加しているらしく、エリスさんが声を張り上げて指揮をとっているのが見えた。
「ぐ・・・ぐぐ・・・レイの身体が万全なら、この程度の攻撃・・・!」
レイに向けて、四方八方からとめどない弾丸の雨がふりそそぐ。プラズマ放射を展開してなんとか弾丸の雨を防ごうとしていたが、ダメージのせいか明らかに光が弱々しく安定せず、防ぎきれなかった弾丸が少しずつ彼女の身体を削っていく。あっけにとられた俺がその様子をぼーっと見ていると、ナナがどこからか持ってきたライフルを手慣れた動作でリロードしていた。自慢の大型プラズマライフルを構えたウォーリーもその横に並ぶ。さらに隣にクロがやってきて、背中のプラズママシンガンを展開した。
「友情パワーデス。」
ウチのメンバーが銃撃に加わると、弾丸の密度は凶悪なまでに高まってレイに降り注ぐ。プラズマ放射を高めて必死の抵抗をしていた彼女はしかし、すぐに絶叫を響かせながら銃弾の雨に沈んだ。俺は消し炭になったレイに向けて、ひとり小さく呟いた。
「あの・・・なんか、ウチの連中がすみません・・・。」




