ナナとサイボーグ
「ガイにーちゃん、ハルおねーちゃん、そのままうごかないでね。」
ガイとハルを両腕にそれぞれ抱えてジープを飛び出したナナは、まるで背中に羽根でも生えているかのようにふわりと着地した。腰まである長い髪の先端からプラズマパルスを放射して、着地の勢いを殺したのだ。そのまま目を白黒している人間2人を岩陰に追いやり、周囲に目を凝らす。いつの間にかクロも近くに駆け寄り、犬らしい唸り声をあげている。
「ナナちゃん、一体何があったの?聖霊様は狙撃って言った?」
岩陰で身を低くしたまま、ハルが言う。
「そうだよ、おねーちゃん。でも、ナナがまもってあげるからしんぱいしないでね。おっと」
ナナは喋りながら手をかざし、どこからともなく飛んでくる弾丸を叩き落としている。
「ス・・・スゲェ。ナナちゃん、弾丸を軽々と止めてる・・・。これはもうナナちゃんじゃなくてナナさん、いや、ナナ様・・・だな・・・!」
「えへへー!ありがと、ガイにーちゃん!だいじょうぶ、これはおとをちいさくするための『あおんそくだん』だよ。こんなおそいたま、めをとじててもとめられるんだから!」
ナナは続けて飛んで来る2、3発の弾丸を次々と止めながら胸を張ってみせる。亜音速弾は、弾丸の発射速度を抑えることで音速の壁を超える際の衝撃音を軽減する、極めて静音性の高い弾丸である。人間相手ではあまり問題にならない低速な弾丸は、ボディガード用のアンドロイドであるナナにとってはほとんど止まっていると言ってもいいものであった。
「でも、おともちいさいし、つぎつぎばしょをかえてうってくるから、てきのいばしょがとくていできないよぉ・・・。クロぉ・・・。」
ナナの呟きを聞いたクロがワフッとひと声吠えて駆け出した。射撃手を探しだし始末するためだ。こちらの戦力を分散していいものかどうか判断が難しいところではあるが、ナナがハルたちの側を離れられない以上、他に可能な選択肢はない。クロの移動と同時に狙撃がピタリと止まった。狙撃手が居場所を特定されないよう、移動しているのだろう。
その時、突如としてナナの目の前に、ひとりの人間が落ちてきた。ズンッという重量感のある着地音。真っ黒なボディスーツを着こんだ、人間の男である。丸坊主でサングラスをかけ、頭がテカテカと太陽の光を反射している。顔はどうみても生身の人間だが、身体は服の上からでも分かるほどゴツゴツと盛り上がっており、明らかに不自然だ。近くの岩山から飛び降りてきたようだが、明らかに高さが10メートル以上あり、生身で飛び降りれるような高さには見えない。
「お・・・お前は『ウィローブラザーズ』!」
「よう、『ケーブル剥がし』・・・。亜音速弾を全部防いじまうなんて、良い護衛を連れてるじゃないか。」
男を見たガイの顔が恐怖の色に染まる。
「ガイ、このハゲ男を知っているの!?」
「はい、あいつは『ウィローブラザーズ』といって、金さえもらえればどんな悪事もやるって評判のハンターです。いつも兄弟の2人で行動してて、2人とも身体を機械に改造しているんだとか・・・。いったいなんで俺たちを襲うんだ・・・!?』
「ハッ!?あんた本気で言ってるの!?あんたに借金してる例のハンターが、アンタを殺してなかったことにしようとしてるんでしょ!」
「そういうこった・・・解説ありがとよ、かわいいお嬢さん。俺は弟のレッド・ウィロー、狙撃していたのが兄貴のブラック・ウィローだ、どうぞよろしく・・・それにしても、ツイてるぜ。」
レッドはハルを見ると、舌なめずりをしながら言った。
「ケーブル剥がしをブチ殺すだけで20万ボル、ついでにいい女とも楽しめるとは・・・。安心しな、身体は機械だがナニはバッチリ使えるからな・・・たっぷりかわいがってやる、ぜ・・・ふへへ・・・。」
そのにじみ出る下劣さに、思わずハルは自分の身体を抱きしめる。全身に鳥肌が立っている。
「きさま・・・ハルさんに指一本触れてみろ!俺のケーブルでがんじがらめにして・・・あの・・・アレだぞ!ホント、アレだぞ!」
ガイの虚勢を無視してレッドは無造作に歩み寄ってくる。
「ふん、生身の人間とロリアンドロイドに何ができる?俺のボディは近接戦闘に特化したタイプ・・・チタニウム複合装甲と分厚い人工筋肉、それに軽合金製の骨格で出来ている。戦車の主砲を間近で撃たれたって耐えられるんだぜ・・・。もちろんパワーもすげぇ。ひとりで戦車1台を軽々と持ち上げることができる。さあ、抵抗しなければ苦しまずおぱぁ」
レッドが言い終わる前に、決着は着いた。さらにもう一歩近づこうとした瞬間に、ナナが問答無用の右ストレートを繰り出したのである。みぞおちのあたりを直撃されたレッド自慢のボディは、あろうことか原型を留めずバラバラの鉄クズになって飛んで行く。はるか数十メートル先の岩山に激突し、大爆発を起こした。
「・・・え?あれ?ガイ、なに?今、どうなったの?」
「・・・ナナ様・・・いや、ナナ大明神様・・・一生付いていくッス。」
見事に敵を撃退した本人は、しかし浮かない顔でハルたちの方を見た。
「どうしよう・・・てかげんしたのに、ばらばらになっちゃったよう・・・せっかく、ひとがたロボットのからだがみつかったのに・・・。」




