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耕作

「えへへーー!!ナナもおとーさんのおしごとてつだうー!」


今朝もナナは元気いっぱいである。ナナは見た目が子どもだし、俺としてもその可愛らしさで早くも自分の娘のように思ってしまいつつある。なんといってもむちゃくちゃにカワイイのだ。それでもナナはれっきとしたアンドロイドである。生身の人間をあらゆる面で凌駕するその能力を腐らせておくのはもったいないので、俺の仕事を手伝ってもらうことにする。本人もこの通り、とてつもなく乗り気だし。


「ありがとう、ナナ。ウォーリーも手直しして動けるようにしてやろう。2人にはそれぞれ任せたい仕事があるんだ。ひとつはプラズマライフルの木を管理する農夫の仕事で、もうひとつはランスさんの店の店番だな。」


ランスさんは町で有名な銃の職人だが、弟子も従業員もおらず、ずっとハルと2人でやっていたという。しかしどういうわけかハルが俺について来たがるので、ここ数日は仕事に支障をきたしている。ランスさんは部品探しで外出したり、作業のためにこもりっきりになることが多いので、接客担当が必要なのである。ハルがランスさんの手伝いに戻ればいいのだが本人にその気がなく、ランスさん的にも「やりたいことが見つかったんなら、そっちをやりな・・・(重低音)」とのことなので、戻るつもりはあまりないらしい。


そんなハルが俺の話を聞いて、言った。


「確かにね!ナナちゃんはカワイイから、店番にはぴったりだわ!ウォーリーも、ちゃんとした身体に改造してあげれば、マジメそうだし農夫もできるかもね。」


「・・・ハル、何を言ってるんだ?」


「え?違うの?」


「逆だよ逆。ナナが農夫で、ウォーリーが店番だ。」


「ええええええーーー⁉︎」


俺の話を聞いて、ハルが絶句する。


「だってそうだろ?ナナは戦車を片手で3台持ち上げられるアンドロイドなんだから、重労働の農夫にぴったりだ。子どもは土まみれになって遊ぶ方がいいに決まってるし。だいたい、銃器を販売してる店の店員に、小さい女の子はマズイよ。」


「そ、そっか・・・そういうもの?アタシは小さい頃からお店を手伝ってたから、感覚がマヒしてるのかも・・・いやでも・・・ナナちゃんが肉体労働で、元拠点防衛型兵器に店番・・・?」


いまいち納得していないハルを尻目に、俺たちはプラズマライフルのマガジンを植えた空き地にやってきた。俺の後ろには自分の身長より大きなクワを軽々と振り回すナナ、釈然としない表情のハル、ハルにべったりついて歩くクロ。マキちゃんがそんなナナを見て注意する。その姿はまさにナナのお母さんだ。


「ナナ、クワを振り回して歩くのはおやめなさい。ご主人様以外の人に当たったら大変ですよ。」


「はーい、おかーさん!」


いや、俺に当たっても大変だと思うよ。ナナまで俺をぞんざいに扱い始めたら確実に泣く自信があるよ?


前回空き地に植えたマガジンは3つ。植えてから一晩しか経っていないが、そこには見事に、俺の腰の高さほどの苗木が3本生えていた。それぞれ少しずつ緑の葉っぱを生やし、根元にアクセス用のコネクタがついている。大成功だ。


「おおーっうまくいってるな!プラズマライフルの苗木だ!」


この3つの苗木は実験用だ。それぞれ少しずつ違う改良が施してあり、データを集めれば、栽培するのに最適な改良を見極めることができる。


「生育情報を収集しています・・・完了しました。ご主人様、3つの苗木から得られた情報をもとに、最適な品種改良プランを決定いたしました。あとは品種改良をほどこしたマガジンを大量に用意して同じように植えれば、ほぼ確実にプラズマライフルの林を生み出せますわ。」


よし、プラズマライフルの林計画は順調だ。次はナナに、この広大な土地を耕してもらおう。必要な作業プランは、すでにマキちゃんからナナに無線リンクで伝えてある。


「ナナ、それじゃあ耕してくれ。」


「はーい!みててねおとーさん!」


ナナは元気よくクワを持ち上げ、太陽のような笑顔で笑った。なんとも微笑ましいな・・・と思ったのもつかの間、俺たちはナナの驚異的な能力を目の当たりにすることになる。


まず目に入ったのは巨大な土煙の柱。爆撃でも受けたかのように、地面が爆発して空高く土を舞い上げている。え?爆発物なんか持ってたっけ?「土を耕す」という言葉からかけ離れた光景に、その場の全員が目を疑う。次の瞬間にはずっと向こう、土地の反対側の端で、クワを持ったナナが手を振っているのが見えた。もうあそこまでまっすぐに耕したらしい。2秒ぐらいしか経ってない。ひと呼吸おいた後、再度恐ろしいほどの土の柱が次々と巻き起こり、ものすごい勢いでこちらに迫ってくる。向こうまでまっすぐに耕したのだから、今度は折り返してこちら向きに耕す。当たり前だ。土煙の先頭にいるのはもちろんナナ。肉眼では目視不可能な速度でクワを振り回している。満面の笑み。


「うわあああああああああああああああああ!!」


思わず叫び、咄嗟に身を守ってしまった。いやだってこれこんなん無理だよこれ。巻き込まれたら確実に肥料になるよ?土の爆発は怯える俺たちの目前1メートルほどのところで停止した。そこには顔を土だらけにしてニコニコ笑うナナがいる。


「おとーさん、みてた⁉︎みてたみてた⁉︎」


恐るおそる顔を上げると、そこには綺麗に耕された土の列が2本。正確に測ったようにまっすぐ伸びている。完璧な仕事っぷりだ。全部で5秒くらいしかかかっていない。この広い土地を全て耕すのに2、3日はかかると思っていたが、5分もかからずに終わりそうである。


「・・・すごいぞ。ちょっと凄すぎて、お父さん漏らすかと思ったよ。っていうか実際、ちょっと漏れたかもしれない。」


「えへへー!でも、このどうぐがこわれそうだから、ちょっとてかげんしちゃった!」


「て・・・か・・・げん・・・?」


唖然とする俺たちを尻目に、ナナは作業を再開した。ほとんど破壊兵器的なノリで、土煙の柱が土地を往復していく。何人かにこの作業を任せて俺は他の仕事をしようと思っていたのだが、本当にすぐ終わりそうだから待っていよう・・・え?終わった?マジで?見れば広い土地の端から端まで、きっちりと耕された土の列が等間隔に走っている。1分もかからなかったな・・・。ところが仕事をこなした本人は、浮かない顔で俺の前にトボトボ歩いてきた。全身土だらけで、白いワンピースも汚れている。ああ、仕事の前に服を変えてやるべきだったか。女の子だもんな。綺麗な服が土まみれになったら嫌だよな。ごめんよ。


「おとーさん、ごめんなさい・・・。このどーぐ、まがっちゃった・・・。」


え?そっち?見れば確かに、俺のお手製クワの持ち手が曲がっている。あの使い方では、形が残っているだけマシな気がする。


「いいんだよ、ナナ。ナナのおかげであっという間に仕事が終わったから、お父さんはすごく嬉しいよ。」


「でもこれ、せっかくおとーさんがつくったどーぐなのに・・・。」


しょんぼりするナナを横で見ていたハルが、突如爆発した。


「ひぁあああああああああかわいいいいいいいい!!!なんなのこのこ!なんなのこのこはぁぁあまぁぁぁ!!てんしなのおおおお!!」


叫びながらナナに抱きついて頬ずりしている。くっ・・・俺も抱っこしようと思ったのに・・・!出鼻をくじかれた・・・っ!!!仕方がないのでここはひとつ、お父さんらしく振る舞っておくことにしよう。


「そんな道具なら、またお父さんが作ってやるよ!今度はナナのために、もっと丈夫なやつを作ろうな。」


ナナの顔がぱあっと明るくなった。


「ほんとに⁉︎ほんとにつくってくれる⁉︎やくそくだよ、おとーさん!」


なるほどかわいい。俺は思わずてんしなのおおおお!!と叫びながら抱きついて頬ずりしたい衝動に駆られたが、理性の力を総動員してグッとこらえた。だってお父さんだもん。


この後は町中にある適当な木から品種改良したマガジンを大量に生成し、耕した土の列に等間隔に植えていった。途中でガイが合流したが、ナナの圧倒的な作業速度を見て「自分、出番なさそうですね。家でケーブルでも巻いてます・・・」とつぶやいて帰っていった。どの作業もナナが信じがたい速度で終わらせてくれたので、驚いたことに全ての作業が日暮れ前に完了してしまった。綺麗に耕され、マガジンが植えられた広大な土地を見ながら、俺は引きつった笑顔で言った。


「・・・な?ナナが農夫に適任って、言っただろ?」


「にーさん、正直に言いなよ・・・想像以上すぎて疲れたって顔してるよ・・・?」


想像以上どころの話じゃない。もうなんだこれ、大地の精霊か何かだ。驚きすぎて乾いた笑いを漏らす俺に、100点満点の笑顔を浮かべたナナが言った。


「のーふのおしごとって、とってもたのしいねぇーーー!」


顔を土だらけにして大興奮である。本人が楽しそうなのが一番良かった点かもしれない。ひとしきりはしゃいだナナが、ふと手に持ったクワを見て、それから俺を見た。


「あのね、おとーさん。」


「ん?なんだい、ナナ?」


畑の空いた場所に、曲がったクワを突き刺す。


「これで、このどーぐも大きくなる?」

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