まさかの
【前回までのあらすじ】
・主人公、主人公らしくしようとする
「ハッ?・・・ハッ?」
ウォーリーが、2回「ハッ?」と言った。
それくらい、主の言った言葉の意味がわからなかったのだ。彼は今、なんと言った?
あとは俺がやるよ。
そう言わなかったか?
マキちゃんですらハッキングできなかった相手に、俺がやる?何をするのだろうか。土下座か?全裸土下座か?ウォーリーは混乱した。自分の聴覚センサーに深刻な動作不良が起きていることを疑った。
「端末は・・・ああ、ポケットの中か。壊れなくてよかった。」
「ええ、よろしくお願いしますわね、ご主人様。」
マキちゃんとその主は当たり前と言わんばかりにハッキングの準備を始めている。それを見ていたサリーも、首をかしげながら声を上げた。
「ちょっと、それ・・・マキさんでも歯が立たなかった相手なんでしょう?」
「ええ、そうですわね。」
マキちゃんも、「何を当たり前のことを?」という表情で返事をする。
「え、だって・・・彼は、何をするつもりなの?」
「何って・・・ハッキングですが・・・?」
微妙な空気が漂う。
サリーは思った。
彼がハッキングしているところなんて、未だかつて一度も見たことがない。自分だけかと思ったが、ウォーリーも同じらしい。表情が分からないウォーリーが、ひと目で分かるほどに混乱しているのだ。いつだってマキさんがハッキングして、彼はお礼を言う。彼の仕事はいつもそれだけだ。そのはずだ。
「じゃあ、やろっかな。」
「お手数をおかけしますわ、ご主人様。」
「いいんだよ、マキちゃん。遠慮なく頼ってくれたほうが嬉しいよ?」
彼の言葉は、まるでハッカーのようだ。いや、確かにハッカーと名乗っていた気はするが・・・とにかく自分の認識と彼らの態度が全く噛み合っていない。
そんな空気の中、ミンも苦しげに声を絞り出した。
「ダメ・・・オリジナル様。マスターは、電子化する前の自分は大したことなかったと・・・言ってた。ハッキングは諦めて、違う方法を探すべき。」
「はいはい。じゃあやるね。」
ミンの話を聞いているのかいないのか、彼はキーを叩いた。
何のためらいもなく、無造作に、まるで気負った様子もなく、本当に何気ない雰囲気でキーを叩いた。
カタカタッターン。
乾いた音が響いた。彼の行動はそれだけだった。
・・・それだけで、全てが終わっていた。
「・・・は?」
ミンの声と同時に、彼女を拘束していた首輪が砕けて消えた。
続いて、プラズマを纏っていたシャッターが光を失い、そのまま天井に格納されて消えた。
部屋には沈黙と、自由になったミンと、丸見えになったコピーの本体である黒いコンピュータだけが残った。
「エ?・・・エエ?」
「なに・・・なにしたの、今の?」
サリーとウォーリーは、展開についていけずに呆然としている。マキちゃんはそんな2人を不思議そうに見ながら、先ほどとまったく同じ言葉を口にした。
「何って・・・ハッキングですが・・・?」
サリーは彼女としては大変珍しいことに、目をパチパチさせながら、珍獣か幽霊でも見るように彼を見ている。
「彼って、ハッキング・・・できたの?」
「わりと最初から、ハッカーだと名乗っていたと思いますが・・・?」
「ええ、それは、そうなんだけど・・・ハッカー度合いが想像と違ったっていうか・・・あの、実は、彼って、スゴイの?」
そんなサリーに、マキちゃんは胸を張り、まるで自分のことのように鼻をふくらませている。
「それはもう!ご主人様は500年経っても私が追いつけないぐらい、凄腕のハッカーでいらっしゃいますのよ!私の技術はすべて、ご主人様の模倣に過ぎませんから!」
「ええ・・・?だって、そんな、今まで、一度も・・・。」
混乱するサリーの言葉をウォーリーが継いだ。
「だって、マキちゃんサマ!ご主人サマがハッキングしてるところなんて初めて見たデスよ!?」
そんなウォーリーに、マキちゃんは苦笑する。
「そうでしたか?ご主人様は低レベルなハッキングには興味を持たれませんから・・・あとは道具がなかったとか、私に経験を積ませたかったとか、そんなところでしょう。私のハッキングはまだ、ご主人様の足元にも及びませんから。」
「エエエ・・・?」
「プログラミングやデータ分析などの作業では、私の方が上なのですが・・・ことハッキングにかけては、ご主人様は天才でいらっしゃいます。私では3000年経っても追いつけないでしょうね。」
「そんな・・・マキちゃん、褒めすぎだよ?」
「私は事実を言ったまでですわ、ご主人様。どんなにダメでグズでヘタレな方にも、ひとつくらいは取り柄があるということですわね。」
談笑する天才ハッカーとそのメイドを尻目に、【電子奴隷の首輪】から唐突に解放されたミンは、現実が飲み込めずに呆然としたままだ。そんなミンを見て、天才はまた端末のキーを叩いた。
カタカタッターン。
キーを叩く、乾いた音が響く。
「ああご主人様・・・相変わらず、鮮やかなお手並みですわ。」
「え、ほんと?カッコいい?」
「普段がクソ以下なせいで、たまにカッコいいところを見るとクラクラするほど素敵ですわ・・・。」
「俺、普段はクソ以下なの・・・?」
マキちゃんがうっとりと頬を染める。次の瞬間、腕時計の中にミンが引き込まれ、マキちゃんの隣に出現した。一瞬でミンのコントロールを奪い、強制的に彼女を腕時計にインストールしたのだ。
「なっ・・・ミンを、腕時計にインストール?オリジナル様、なぜこんなことを・・・?ミンを、殺さないの・・・?」
おずおずと見上げてくるミンに、天才ハッカーは意外そうに言った。
「え、なんで?・・・だってミンさん、マキちゃんの友達なんでしょ?」
「う、うん・・・ミンは、マキの・・・。」
そこまで言って、ミンはマキちゃん見た。さっきまで激しい攻撃を仕掛けていた自分を、マキちゃんがまだ友達だと言ってくれるか自信がなかったのだ。
その心配は、すぐに消えた。隣に立つマキちゃんが、ミンをギュッと抱きしめてくれたからだ。
「ええ、ご主人様。ミン様は私のお友達ですわ。」
「マキ・・・!」
抱きしめられながら静かに涙を流すミンを見て、天才ハッカーは笑い、変態ロボットは「YURI」と呟いた。
そんなほのぼのした空気の中だった。最後の一撃は誰も知らないうちに、いつの間にか放たれていた。
「あっ・・・マスター・・・。」
ミンが気づいた時には、コピーの本体は縦に、それから横に、さらに斜めに斬られて、パラパラになっていた。信じられないほどあっけなく、ラスボスの本体は破壊されたのだ。
迅速に(あまり空気を読まず)仕事を済ませたサリーは刀を鞘にしまうと、美少女AIに囲まれる彼を見て言った。
「・・・また、妻が増えるのかしら?」
【速報】193話でやっとタイトル回収




