進化の代償
【前回までのあらすじ】
・エドとナナ → エキィーンキングと決死の戦闘中
・サリー → 20体のゴリラと乱闘中
・ウォーリー → アルティメットグレートウォールにボコられる
・主人公・マキ → 研究所に到達。不死身の肉体を失って瀕死
・ハル・ランス・クロ・レイ・その他チーム → 遺跡の入口で防衛 ← 今回ここ
「ほらほらほらほら!弱い!弱すぎるですよ!モグラさん!」
それは、戦闘ではなかった。
一方的な殺戮だ。
空を自由自在に飛び回るレイ。光の翼をたたえた彼女がツチモグラの身体を通過するだけで、その巨体にぽっかりと大きな穴が開く。
我が物顔で戦場の人間を追いかけ回していたツチモグラは、今や狩りの対象でしかない。次々と身体に穴を開けられ、停止し、爆散した。
「すげぇ・・・これがあの、レイなのか・・・。」
野太い声で、ランス氏が言った。彼の中でレイは、ネコの姿で勝手気ままに遊び回っている小娘というイメージしかなかったが・・・認識を改める必要がありそうだ。
「やっほーランスさまー!生きてるですかぁー?」
空からレイが手を振っている。その姿は美しく、輝く羽が天使のようだ。
「ああ、ケガ人はいるが、死んだやつはいなそうだ・・・助かったぜ、レイ。」
「ゲへへぇ~!いいんですよぉー!ゲへへぇ~!」
ヒーローしている自分に酔うレイ。その笑い方はちょっと気持ち悪かったが、ランス氏は黙っていた。彼はワイルドな風貌に似合わず、空気が読めるちゃんとした大人なのだ。
「なにせ、エドさまにパワーアップしてもらいましたからね!圧倒的な戦闘能力と性的魅力を備えた究極美少女アンドロイド、レイちゃんの誕生ですぅ!」
「性的・・・?」
いつの間にか、ハルがランスの近くに立ってレイを見ている。彼女はレイの言葉に、違和感を覚えていた。
「あっハルさま!ごめんなさいですよぉ~、ハルさまより巨乳になってしまって!いやいや申し訳ないのですぅ~!」
「きょにゅう・・・?」
まじまじとレイの身体を観察する。どうも、彼女の言っていることと見た目にギャップがあるような気がするのだが・・・。
「あの、レイ・・・?」
ハルは、勇気を出して声をかけた。もし仲の良い友達の鼻毛が出ていたら?スカートがまくれてパンツが見えていたら?・・・指摘してあげるのが本当の友人というものだろう。ハルは、そう思った。純粋な親切心である。
「なんですか、ハルさま?巨乳は分けてあげられないですよ?」
「・・・胸、なくない?」
「・・・えっ?」
「・・・巨乳じゃ・・・なくない?」
レイは自分の身体を見た。
なかった。
確かにあったはずのものが、なかった。
修理中の時点では確かにあったはずのものが、消えていた。
そう。
彼女は貧乳だった。
「・・・ん゛な゛っ!?な゛ぜ!?どゔじで!?」
混乱するレイ。
彼女の寂しげな胸元に、一枚の紙が折りたたまれて、貼り付けられているのを見つけた。涙目になりつつ、それを広げる。
それは、エドからの手紙だった。
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レイさんへ
お話する時間がないので、こうして手紙を残しておきます。
この手紙を読んでいるということは、きっと改造は成功したのでしょう。
あなたのボディはもともと非常に優秀でしたが、ボクはさらによく出来ることを発見しました。
いくつかの機能改善と、パワーアップのアイデアを思いついたのです。
細かい点は書ききれませんが、単純に出力が約300%アップし、機動力も150%向上しています。
外観の変化にもお気づきでしょう。機能をアップさせつつ、ボディについていた無駄なものを排除することに成功しました。
これにより、被弾する面積が小さくなり、また、飛行時の旋回性能や格闘戦での動作も向上しています。
すべてにおいて、劇的なパワーアップが実現したのです。
どうかあなたの力で、みんなを助けてあげてください。
エドより。
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「はァーーーーーーん!?」
読み終えたレイの叫びに、みんながビクッと身体を震わせる。どういう気持で言った「はァーーーーん!?」なのか。まぁだいたい分かるが、正直こわい。
「『無駄なものを排除することに成功しました』ァァァァァァ!?それ失敗ィィィィ!大失敗なんですけどォォォォォ!?」
「レ、レイ・・・落ち着いて・・・」
「はァーーーーーーん!?」
「ヒッ!」
ハルはまた、ビクリと身体を震わせる。正直、めっちゃこわい。
「『すべてにおいて、劇的なパワーアップ』ゥゥゥゥゥ!?一部、劇的なパワーダウンなんですけどぉぉぉぉ!?夜の戦闘能力が悲劇的にダウンしてるんですけどぉぉぉぉ!?」
「レイ・・・大丈夫だから・・・レイは可愛いから・・・」
「はァーーーーーーん!?」
「ヒィィッ!」
「なんですかハルさまぁぁぁ?何が大丈夫なんですかぁぁぁぁ?その大きなお胸をレイに分けてくださるとでもォォォォ!?」
「ご、ごめんなさいぃぃぃぃ!」
「うわぁぁぁぁぁぁぁん!」
怒っているかと思えば、今度は大声を上げて泣き始めた。完全に情緒不安定だ。究極の戦闘能力を持ったメンヘラ。正直、こわすぎる。
その時、無数の足音が、大地を揺るがし始めた。遠方で待機していた無数のカニの群れが、進攻を再開したのだ。
「ヒグッ・・・ヒグッ・・・。」
しゃくり上げるレイが顔を上げ、敵の方を見た。その目に宿るのは・・・確かな殺意。ただの八つ当たりとは信じられないほど濃密な殺意が、彼女の大きな瞳をドス黒く染め上げていた。ただの八つ当たりなのに。
「皆殺し・・・皆殺しです・・・。」
もはや、レイに声をかけるものはいない。正直、関わりたくない。レイの姿が掻き消えて、激しい突風がハルとランスを襲った。本気を出したレイの速度は、人間の目で追えるようなものではない。
次の瞬間、地平線の向こうで盛大な火柱がいくつも上がった。何度も爆発音が響き、炎が空を焦がしていく。待機していた敵の軍勢が消滅するのに、10分とかからなかった。
そんな様子を見たファイアーアントのメンバーは、口々に言った。
「アレも・・・あのおにーさんの身内?」
「身内っていうか、何人かいる奥さんのひとりらしいよ。」
「やっぱり化物しかいないんだ・・・。」
「あたし、おにーさんのハーレムに入って玉の輿!とか思ってたけど・・・無理だわ。」
「あたしも無理・・・やっぱりハルちゃんも、プラズマとか出るのかしら・・・。」
「きっと出るわよ。出るに決まってるわ。あの大きな胸がプラズマ生成器官なのよ。」
「やっぱりあの胸、作り物かぁ。」
繰り返すようだが、ハルの胸は天然100%である。そんなハルは燃える地平線を見ながら、小さく呟いた。
「エド、逃げて・・・わりと本気で逃げて・・・。」
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同時刻、ハルたちから数百キロほど離れた地点。
少女は、泣いていた。
少女型アンドロイドは、泣いていた。
戦闘に影響が出ないよう、大きな感情のブレを抑制された彼女が、泣いていた。
座り込む彼女の前には、血溜まりに沈む小さな身体。
全身ボロボロで、至る所から血が流れている。その血溜まりは小さな身体に対してあまりに大きく、命を失うのに十分すぎるほど出血していることに疑いの余地はない。
胸の上下動はない。すでに呼吸も止まっているのか。
体温を失いつつある身体を前に、少女はただ、座り込んで泣いていた。
泣くことしか、できなかった。
「エド、やだよ・・・エド・・・。」
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いつもありがとうございます。
物語は終盤ですが、最後までお付き合いいただけますと幸いです。




