現状把握
【前回までのあらすじ】
・ネコの町、壊滅
「プラズマライフルの林が・・・乗っ取られた?」
マキちゃんの言葉が信じられず、俺はそう口にした。マキちゃんは黙っている。
「でもアレは危険だから・・・特に念入りにセキュリティ対策を施したはずだよ?」
「はい。私もそのつもりでした。」
「それに、もしハッキングされても物理的に消滅できるように、細工までしたじゃないか。」
そう、コピーに攻撃されることも考慮して、事前に爆破装置を設置したのだ。マキちゃんの操作ひとつで簡単にプラズマライフルの林を消滅させられる便利な装置だ。
「はい。しかし、ハッキング自体に気が付かなかったのです。それほどに高度なハッキングでした。」
「コピーはマキちゃんに気づかれず、あんな厳重なセキュリティを破れるの・・・?」
「想定を遥かに上回る、はるかに強力で高度な技術ですわ。私のミスです。申し訳ございません。」
「いや、マキちゃんのミスじゃないでしょ・・・うん・・・。」
にわかには信じられない言葉に、俺はどう反応していいかわからない。もし本当にコピーがそんなハッキング能力を持っているのなら、今からハッキングし返すのも危険だ。逆に攻撃されて、マキちゃんを拉致される可能性すらある。
状況を把握できているのかいないのか、ふいに運転席のランスさんが声を出した。
「とにかくよ、隣の町まで移動しようぜ。安全な町に行って体制を整えるんだろ?」
「それは無理ね。」
声の主は、バイクに腰掛けているサリーだ。
「どういうこと?」
「マキさん、わかってるでしょう?」
話を振られたマキちゃんは、グッと唇を噛み締めている。
「・・・はい。ハッキングされたのは、ネコの町だけではありません。」
「え?」
「ネッコワークが開通している全ての町で、同様の攻撃が行われています。」
「・・・マジで?」
俺がマキちゃんを探す旅に出ている間、ネッコワークはみんなの努力で爆発的に普及した。全ての町でネッコワークを利用するには大量のネコが必要だ。ナナとエドの手により、どの町にもプラズマライフルの林が作られた。
首都も、その周辺の小さな町も、地上にあるほとんど全ての町で、だ。
マキちゃんはいつも冷静に、状況を正しく分析して教えてくれる。それは今回も同じだった。
「地上に安全な町は残っていません。推定ですが、人類の80%はすでに死亡していると考えられます。」
嘘だろ。
攻撃が始まってから、ひと晩しか経ってないじゃん?・・・いや、ひと晩あれば十分か。あのカニの増殖速度と戦闘能力を見れば、一つの町を潰すのにそれほど時間はかからないだろう。
「私、言ったわよね。」
いつの間にか、サリーが地面に座る俺の前に立っていた。その声は、明らかな怒気を含んでいる。
「コントロールしきれない技術は、いつか人類を滅ぼすって。」
ああそうだった。あれはまだサリーが敵だった頃。俺とマキちゃんはサリーを言いくるめて、技術で打ち負かして、無理やりネッコワークを展開させたんだ。この世界になかった技術を。
そりゃ怒るよな。サリーが守って守って守り抜いて、ここまで繁栄させてきた文明がひと晩でこうだ。俺たちが、いや、俺が自分の欲望のために勝手に普及されたネッコワークのせいで。
サリーは怒っている。とてつもない怒りを込めた目で俺を見下ろしている。
もう、俺のことを嫌いになってしまっただろうか。嫌われたと思うと、胸の奥がズキリと傷んだ。俺はなんだかんだ言って、サリーのことが好きだったんだ。だがそれも仕方がない。彼女が3000年かけて作ったもの。それをぶち壊したのは、俺だ。
「・・・ごめんなさい。本当に、ごめん・・・サリー。」
「謝罪の言葉は要らないわ。」
いつの間にか刀が抜かれて、俺の首すじに刃先が突きつけられていた。
「立ちなさい。」
言われるがままに立ち上がる。俺のほうが少しだけ背が高く、サリーを見下ろす形になる。刀はまだ、突きつけられたままだ。このまま首をはねられて死ねたら、どんなに楽だろう。不死身の身体が恨めしい。
「たくさんの人が死んだわ。」
「・・・はい。」
「だから、どんどん増やさないといけないわね。」
「・・・はい?」
「ちょっとそこの岩陰まで来なさい。はい、いいから、私に任せて・・・」
「え、ちょ、サリー?」
「貴方の落ち込んでいる顔、本当にイイわね・・・子宮がうずくわ。」
「は、え?怒ってるんじゃないの?え?」
サリーは俺の襟をひっぱって岩陰に引きずり込もうとしていたが、ふいに振り返って俺を見た。その顔は、悲しそうにしながら、少しだけ笑っていた。
「ネッコワークを許可したのは私よ。その気になれば、まだネコの町ごと消滅させることもできた。でも、それをしなかったのは私。だから、この事態の責任の一部は私にもある。貴方だけが背負うことはないのよ。」
「サリー・・・俺・・・」
「いいのよ、泣いても。ああ、貴方の泣き顔、イイわ・・・。」
なんかそう言われると涙も引っ込むな・・・。あれ、俺が泣かないとみると露骨に残念そうな顔をしてませんかサリーさん。
「まだ人類は終わっていない。元凶を・・・コピーを始末しましょう。ヤツの目的はきっと人類を皆殺しにすることじゃない。まだ先がある。私たちは、それを止めなければいけない。できるわね?」
「ああ・・・でも、どうやって?」
「ん・・・続きはちょっと岩陰に入った後にしない?」
「まっまっまっ待ちなさいよ!サリー!」
「抜け駆けは許さないですよ、サリー!」
顔を真っ赤にして銃を抜いたハルと牙をむき出しにしたレイのネコに阻まれて、サリーは肩をすくめた。どうやら岩陰に連れ込まれなくて済んだらしい・・・残念なような、残念なような。ん?
「それで・・・何か作戦があるのですか?」
マキちゃんの言葉に、サリーはニヤリと笑った。悪そうな笑み、計算高い悪党みたいな笑いだ。
「あのね・・・考えてもどうしてもわからない時は、人に聞けばいいのよ。知ってた?」
「人って・・・誰に?」
俺の言葉に、サリーは遠くを指差した。地平線の彼方になにかが走っている。あれは・・・見覚えがある。なんだっけ・・・
頭をひねる俺に代わって、マキちゃんがそれの正体を教えてくれた。
「ご主人様、チーム『ファイヤーアント』の移動式拠点、通称『アリノス』を確認しました。」




